武満徹 未来への遺産
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最高の1枚!
武満徹:《未来への遺産》オリジナル・サウンドトラック
テーマ/密度を求めて(コナラク寺院) /聖なるかたち(縄文土器) /心のなかの宇宙(シュメール) /太陽神殿(マヤ) /失われた時への旅(サントリーニ島の幻影) /天は語らず、大地をして語らしむ(ウル) /天は語らず、廃墟をして語らしむ(バビロンの獅子) /ファラオの宝庫(ペトラ) /シルクロード(パラミュラ) /メソポタミアの砂漠(ウルク) /巡礼の道(レオンの大聖堂) /この沈黙の遺跡(トゥルム) /悠久の流れ(美しいナイルの日没) /迷宮と呪文(ケルト) /王のモスク(イスファファーン) /曼荼羅(根本中堂) /陶磁の道(日本・中国) /テーマ 全19曲
岩城宏之指揮 NHK交響楽団(テーマ)、三石精一指揮 ムジカ・ヴィヴァ
1974年3月∼1975年12月〈セッション〉
Deutsche Grammophon POCG3650
これまでワタシがこのnoteに投稿してきたクラシック音楽のCDは、交響曲を中心に様々な分野に渡りました。ですがまだ手を付けられていないジャンルもあります。それがオペラであり、古楽であり、そして現代音楽なのです。しかしそれらのジャンルはワタシが別に苦手にしているわけではなく、ただ単にタイミングの問題なだけに過ぎません。事実そうしたジャンルのCDも他に劣らず聴いてはノートにレヴューを書き残しているのです。ただもう20冊以上になるノートを見返していると同じCDが何度もレヴューされているのが大変多いことに今更ながら気が付きました。こうなるとこのnoteにする記事はどのレヴューを使えば良いのかという悩ましい問題に当たることになります。ですがここではまず目に着いたレヴューを優先させる以外手はないようです。
さて今回紹介するのはワタシがこのnoteの記事としては初めて採り上げる現代音楽です。この場合の現代音楽とはいわゆる第二次世界大戦後の前衛音楽のことです。人によってはグチョグチョネトネトの何が何だかよく分からないというイメージがあるでしょう。確かに戦後前衛音楽にはそのようにしか形容出来ない曲があるのは事実です。ですがそうした音楽でも虚心に聴けば決して難解ではないことだけは理解していただければと思うのです。
最初に採り上げる現代音楽として、ワタシはブーレーズを考えていました。彼の音楽はLPの時から代表作と言われている《ル・マルトー・サン・メートル》や《プリ・スロン・プリーマラルメの肖像》などを聴いていたため馴染みが深かったからです。ところがいざ記事を書こうとしてもなぜかCDが見つかりません。こう何千枚ものCDが行方不明になると探し出すのも苦労するため今回は断念しました。いずれ見つかった時にでも改めて記事にしようかと思っています。
その代わりと言っては何ですが、今回はそうした現代音楽の中でも日本人作曲家のCDを採り上げることにしました。ノートにレヴューが記載されており、CD自体もすぐ取り出せるところにあったから出来たことですが。
1996年に66歳の若さで他界した武満徹は日本人作曲家としては最も世界に知られた作曲家だったはずです。その代表作は何と言っても若き日の小澤征爾がニューヨーク・フィルを振って初演した《ノヴェンバー・ステップス》でしょうが、実はワタシはあの曲がそれ程好きではありません。CDもその小澤の世界初録音盤や再録音盤も含めるとそれなりに所有はしているのですが積極的に紹介は出来そうにありません。そしてタイトルに《ノヴェンバー》とあっては11月以外に採り上げるのも何ですしね。
そう言う訳で今回紹介するのはNHKがその放送開始50周年を記念して制作した『未来への遺産』という番組のオリジナル・サウンドトラックCDです。この記事を読んで下さっている皆さんはこの『未来への遺産』という番組はご存知でしょうか。ワタシは小学5年の時の話で全15回に渡って放映された番組で、全部を観たわけではありませんが、幾つかのシーンは朧気ながらも記憶しています。各曲のタイトルからも想像がつくように、この番組はいわゆる古代文明から人類の足跡を辿るような内容であり、子どもの時から歴史のみならずそうした古代文明にもいっぱしの興味を持っていたワタシにとってはまたとない番組でしたが、放映時間の問題なのかそれともその当時から視力が良くなかったのでTVを観る時間が制限されていたからかごくわずか観ただけで終わってしまいました。
この番組の音楽を担当したのが武満でした。この頃の武満の音楽はそれまでのストイックなまでな作風から徐々に当時の前衛音楽界を席巻していた新ロマン派的な豊穣な音空間へと作風を転換させている最中でした。そしてここで聴くことの出来る音楽はこの番組のテーマとも相まって非常に聴きやすいものとなっているのです。
それでは以下にレヴューを記しますのでどうぞ。
「NHK放送開始50周年記念番組として放映されたという『未来への遺産』全15回で記憶していることは非常に少ない。幾つかのサブタイトルと番組中に登場する白のローヴを着た巫女のような物言わぬ女性ぐらいであって音楽のことになると全く記憶になく、当然武満が音楽を担当していたなどとは知る由もなかったが、彼の名も知らなかったのだから当たり前である。後にそのサウンドトラックがPolydorからLPとしてリリースされていたことを知り、現物もUSED商品として見たことはあったがその時は購入することもなく、1997年に当CDがリリースされた際にようやく入手した。確かこれが初の、そして唯一のCD化のはずである。
当時の武満はそれまでの先鋭的な作風が徐々にその作風を変化させていく過渡期に当たるが、それはこのCDでも明瞭に聴き取ることが出来る。禁欲的でいながら豊穣的、太古の響きのようでありながら未来的な響きと言った風に、このCDでのサウンドはドキュメンタリー番組のサウンドトラックということを考慮に入れても聴きやすい音楽となっており、通常のオーケストラから雅楽風の楽器まで使った意欲的なサウンド作りが計られている。また随所に使われているオンド・マルトノの使用も効果的である。1曲ごとにタイトルが付いているが表題的と言うわけではないから気にしないで聴いた方が良いのだろうと思わせた。この番組、機会があったら全話見直したいものだ。 2013年9月28日 評価:★★★★」
以上が当CDのレヴューとなりますが、いかがでしたでしょうか。
武満はこの前後に初の雅楽曲として国立劇場委嘱として《秋庭歌》(後に5曲を付け加えて《秋庭歌一具》に発展します)を作曲しており、雅楽的なサウンドはそこから触発されたのではないでしょうか。またオンド・マルトノの使用は武満としてはとても珍しいと思いますが、実に効果的に使われていることにも驚かされます。
ここで聴くことの出来る音楽は何も難しいことはありません。武満は他にもとても聴きやすい合唱曲やギター曲、はたまたポップソングなども数多く作曲しています。もし武満の代表作と言うことで《ノヴェンバー・ステップス》を聴いて挫折したならば、そうした聴きやすい曲から入るのも手でしょう。ワタシはそうした聴きやすい曲のCDは残念ながら持っていないので紹介は出来ませんが、武満の作品では1970年代後半以降の曲を好んでいることは申し添えておきます。
ここまで読んで下さってありがとうございます。
お目汚しして失礼しました。