【翻訳】 ファレルの人生観を変えた曲とは?対談動画「How Pharrell Writes」より
Pharrell:
自分自身について書くためには、まず自分を客観視する必要があった。僕はこれまで、自分のために良い音楽を書いたことがないんだ。この前も話したと思うけど、僕のベストな曲は全部、他の誰かのために書いた曲でね。僕自身の録音バージョンは単にデモとして使おうと思っただけで。
(※ファレルの空前のヒット曲「Happy」は、もともとシーロー・グリーンのために書いたものがお蔵入りになったため、自身のためにリリースしたことは有名な話)
制作プロセスにおいて自分を邪魔しないようにしないといけない。自分のことを意識すると、まるで鏡が鏡を見つめているような状態になってしまうんだ。そこには何も映らず、何のインスピレーションも湧かない。
でも、誰か他の人を通じて自分の何かを引き出されると、その人がその曲を使わなかったとしても、それが僕にとって重要なんだ。僕は他者に奉仕する存在なので、自然と僕のベストな作品は、自分自身ではなく他者を通して生み出されるものになる。自分自身を客観視できると、自分との距離感を持つことができ、そこからインスピレーションが生まれる。それが映画「piece by piece」が生まれた背景なんだ。
もう一つ「Lego Odyssey」という話があってね。フランス語で「エゴ」という言葉は「le ego(l'ego)」と書いて「レゴ」と発音する。それを基にしたタイトルなんだ。僕の人生の大半、少なくとも最初の50年のうち40年くらいは自己中心的だった。そして実際、社会もそれを読み取って支持してくれるんだよね。「自分が一番だ」「自分はこういう人物なんだ」「自分はあんなことを成し遂げた奴なんだ」みたいなムードをね。
でも、実際にはそうじゃない。僕たちは方程式の一部に過ぎない。「I am(私は存在する)」と言うとき、その「I am」はもっと大きな「I am」の一部なんだ。そしてただ存在していること自体が幸運なんだよね。「am」は名詞でもあり動詞でもある。それは「God(神)」も同じで、「God」は名詞でもあり動詞でもある。「God」は動詞であり、「Love(愛)」も名詞であり動詞さ。
僕は自分の人生の最初の40年以上について書いたけど、それは40歳から50歳までの10年間がどうやって今の自分を形作ったか、という話だよね。これは10年かけての移行期みたいなものだった。
Rick Rubin:
どうしてそうなったの?何がきっかけがあった?
Pharrell:
この前も話したと思うけど、「Happy」「Blurred Lines」「Get Lucky」がそのきっかけだった。この3曲は僕が依頼されて書いたもので、でも最終的には僕の代表作として認識されることになった曲だよ。状況的には、あれらは依頼されて制作したものだけどね。
たとえば、「99 Problems」(JAY-Zの代表曲)が完全にあなた自身のアイデアだったと仮定しよう。そして、あなたのディスコグラフィのカタログにあるほとんどの曲も、すべてあなた自身のアイディアだとする。その場合、ある朝目覚めて忽然と「今日はこれを作ろう」と決めて作ってきたってことだよね。
そしてあなたのカタログのほとんどの曲が、完全にあなた自身のアイデアだったとする。その場合、あなたは自分の運命をコントロールしていると感じるだろうね。自分があれだけの枚数のレコードを売ったんだ、自分の意志や存在がすべてのプロセスを支配しているんだ、と信じたくなるだろう。でも、ある日、全く異なる3つの依頼が舞い込んできたとしたら…。
自分からアイデアを出すことになるけど、それは誰かが「僕たちのアルバムに入れる曲を作ってほしい」とか、「このシーンに合う曲が必要だ」「このアーティストのために曲を書いてほしい」って頼んでくるから。そういうリクエストに応えて曲を作る。
そして気づけば、自分が関わった曲がすべてのレコードに収録されてて、それがただの1位の曲というだけでなく、2200万枚も売れるような大ヒット曲になっている。そしてセールス記録のカウントがまだ続いているような感じになってる。
そこで気づくんだよね。「あ、自分はコントロールしていないんだ」って。自分がそんなに多くのレコードを売ったわけではなく、僕はただ曲を書いて、プロデュースしただけ。
ファンたちがその曲をダウンロードしてくれたり、シェアしてくれたり、実際にフィジカルのコピーを買ってくれたりする。その結果、これらの曲は自分が作ったものよりも大きな存在になっているんだ。ある曲は人々が一日を乗り越える助けになっている。ある曲は人々が化学療法を乗り越える力になっている。離婚を経験している人を支えている曲もあるし、ただ希望を与える曲もある。
Rick Rubin:
それをはっきりと感じた?
Pharrell:
ああ、はっきり見えたよ。
Rick Rubin:
その時、安心した?どんな感情が湧いたのかな?
Pharrell:
「安心」ではあるけど、僕が感じたのは君が言うような種類ではないと思う。違う文脈だった。それはむしろ、「あなた(大いなる存在)は僕を見捨ててなかった」という感覚だったよ。僕はいま太陽を指差してるけど、この太陽は何億何兆という星の中のたった一つなんだ。
でも、存在そのもの⸻君と僕の間にある空気、君の中の分子、僕の中の分子、木々の中の分子、今感じている風、このすべてが存在している。この存在というマトリックス、それが僕の神なんだ。アルファでありオメガであり、過去、現在、未来にわたるすべての存在。それが僕を見捨てなかった。ただただ多くのことが僕を謙虚にさせるけど、その核心にあるのは、自分がこれらの曲を自分で自分に依頼したわけではないってこと。これらの曲は依頼されたものだった。宇宙がこれらのことを僕に見せるために動いたんだ。
それを悟った瞬間、僕は感極まって泣いたよ。それが僕が40歳だったとき。宇宙が僕にもう一度チャンスをくれて、それをこれらの3曲を通して示してくれた。
Rick Rubin:
その3曲が「Happy」「Blurred Lines」「Get Lucky」ってことだね。
Pharrell:
だね。それらはすべて僕が依頼を受けて作った曲だった。でも、そんな大きなことを、自分自身がフィーチャーされる形で成し遂げられるなんて、夢にも思っていなかった。まさにそのすべてが、僕にとって特別な意味を持っていたんだ。
その時から物事を見る目が変わった。そして、40歳から50歳までの間に、本当の意味で「謙虚になる」という状態にたどり着いたよ。もう自慢げに振る舞う必要なんてない。ドラマチックに振る舞う必要がどこにあるんだ?
僕はただ、存在できていることに感謝している。僕は存在しているんだ。
この時代、この空間、この経度、この緯度、この特定のタイミングで、僕は存在している。それだけで十分なんだ。心からの感謝しかないよ…。