ななめよみ詰所その1
「田紳有楽・空気頭」 藤枝静男 講談社文芸文庫
Sさんに初めてあったのは写真館が主催するフリーマーケットでだ。手放したくなかったウォーターハウスの画集を品数と見てくれを揃えるために売りに出していたのだが、Sさんはかがみ込んで粗方物色したのち「ウォーターハウスね」と。
それからだ、Sさんは新聞配達をして、俺は夜の仕事で、互いに日中喫茶店で小遣いに余裕があるときはビールを飲みながら、2~3時間もSさんの話を聞くようになったのは。
Sさんは昔、京王線最寄りのキャンパスに通いながら文学仲間と古本屋めぐりをしていたそうだ。妖怪関係に強い古書店のおやじはいくたびに茶をだして俺らをもてなしてくれた、とか懐かしそうに話していた。明大前モダーンミュージックで店員のバイトなどもしていて当時。
そんなSさんは仲間と作家の聖地巡礼などもしていたのだが、ご多分にもれずだったのだろうか、藤枝邸も訪れ仲間と「おおっこれがあの・・」とふざけ調子で盛り上がったのだろう。
俺はSさんの書籍に関する話を当時はたぶん5%ほどにしか理解していなかったと思う。きっとSさんは日本の僻地の小さな地方都市で、さわりだけでも小説の話をできる相手がいることがこれ幸いだったのではと。
数年に一度くらいしか今は会えないけれど、会うたびに、ああ相変わらずだなあと感慨を。