うろおぼえ摩天楼

　えーーっと蛸の足って１０本だったっけか？
にょきにょきムクムクッと３階建ての’６０年代風雑居ビルが生える。
どうやら俺はちょっと違った世界にいるらしい。突き抜けてしまいそうな濃紺の空に、スクウェアなグラフ用紙模様の同系色のラインが規則をたもつ真っ白な平面が広がりハイウエイが一本、果てから果てへと一直線に伸び消失している。
　あれっ琴絵との結婚記念日ってたしか六月の・・
こじんまりとしたチャペルが建つ。ふむ。
　チリを南北にさらに細長く分割するのを提案したあの人っ、えっと・・
　アクアラングを背負ったスケバン出稼ぎ女の大群って・・
　目玉おやじの茶碗風呂ってまさか食事にも使わないさね
　マック富士山頂店ではスマイルで酸欠になるって言ったのはあれは・・
　松島トモ子双六すごろくで「ライオンに噛まれる」は確か・・
　カール・ゴッチとたまごっちってプロレスラーだったったのは・・
　ジョナサン・リッチマン＆モダンラバーズが「アイスクリームマン」を４６分間演奏した夜には・・

　そうこうしているうち気前きまえよいことにひとしきりのうろ覚えのつぶやきは摩天楼を形成し平面にそびえる。地の果ての消失点からド派手な塗装をほどこしたキャデラック・エルドラドが走行を始め４６分後にフルブレーキで停車する。俺のまえに。
　乗っていたのはジョナサン・リッチマンで助手席はキャメロン・ディアス。デッキからカセットテープを取り出すとジョナサンは握手を求め「君に」とまだ放熱しきっていないテープを俺のポケットに突っこむとまだ見ぬ消失点へと御機嫌なクラシックカーを転がし去る。

　摩天楼のどこかに年代物のラジカセでもあればな　そんな考えを煙草の煙でとりとめなくさせては「何か」のことを俺は思っている。

　
　

アイスクリームマン　僕の街に近づく
あんたのトラックが好きなんだ　ほんとに素敵だよ
さあ　アイスクリームマン　僕んちのコーナーに近づく
あんたのチャイムが好きなんだ　浮き足だって心が揺れるんだ

さあ　アイスクリームマン　お願いベルを鳴らしてよ
音楽をかけてっ　僕は好きになっちゃったんだから
さあ　アイスクリームマン　お願い　そのベルを僕に鳴らして欲しいんだ
そう　この午後に　　とてもいい天気

さあ　アイスクリームマン　僕の街に近づく
あんたのトラックが好きなんだ　ねえ　すてき　すてき　素敵なのさっ
ああ　アイスクリームマン　僕んちのコーナーに近づく
あんたのチャイムが好きなんだ
(あんたのチャイム浮き足だって心が揺れる)

ついに　アイスクリームマン　僕の街に近づく
あんたのトラックが好きなんだ　ねえ　すてき　すてき　素敵なのさっ
ああ　アイスクリームマン　僕んちのコーナーに近づく
あんたのチャイムが好きなんだ　浮き足だつし　心が揺れる