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とある神社の母と幼い手(300文字)
とある神社で子を連れた母親を見掛けたことがある。
水面に浮かぶ水鳥が人影から離れた向こう岸にたむろす池があり、畔の一画に地下水が湧きいで苔生し、中島に歩を進めると小規模な社(やしろ)が佇み木立の陰影が湛えられた暗緑色の水に映る。
湧水に子の手を取り導き清め、幼い手を引き本殿で手を合わせこうべを垂れ、子を祈っていることが遠くから眺める私にも伝わり来る。
ひとときより永く、装飾なく素朴で本能的な祈りの中におり、喧騒と世間は遠巻きにする。
自然と内より生じている母性が子を包み一体として、願いと柔らかい心魂が大きな鈴の下で子を浸す。
なんでもないようだったけれど、母性ってなんでもなくはないことなんだなって。