豆屋⑥|テレコール
「じゃあ、テレコールはじめてー。」(班長)
9時になると、皆が一斉にテレアポをはじめました。
各々、学校の同窓会名簿などを使用して片っ端から営業電話を掛けまくり、「資産運用」と称して先物取引の勧誘をするわけです。
主なターゲットは、退職して自宅にいる60代の現役引退者です。
「私、〇×商事の〇〇と申します。この春に〇×大学を卒業して営業の仕事をしています。まずは母校の先輩方にご挨拶でお電話させて頂いているんです!」
…と言った具合に「センパイ!センパイ!」と連呼します。新社会人の後輩が先輩である自分を慕ってくれている。。という心理に付け込んで、無下に断れなくする作戦です。
(実際には母校でも後輩でもないケースがほとんど)
その昔は会社で仕事をしている現役世代をターゲットにしていたようですが、勤務先に先物会社があまりにもテレアポをし過ぎたせいで、会社の代表電話が本人に繋いでくれなくなったため、私が入社した時代はやむなく自宅にいる引退世代をターゲットにしていました。
ちなみに、先物業界ではテレアポの事を「テレコール」と言います。
明確な理由はよく分かりませんが、テレアポだとイメージが悪いので微妙に名前を変えているのと、「俺たちは電話でアポを取るだけではなく、商談をしているんだ!」という、これまた屁理屈のようなプライドが理由のようです。
このテレコールの風景たるや、なかなかの異様な光景です。
前述の通り、各自のデスクにはパソコンも本棚も無く、電話が一台と名簿と筆記具があるだけです。
頭にインカム(ヘッドセット)を付けて、両手フリーの状態でテレコールをするのが基本形ですが、人によってはインカムを付けずに普通に受話器で掛けている人もいました。そのへんのスタイルはお好みで。
周りで大勢がテレコールしているので、うるさくて相手の声が聞こえない時などは机の下に潜って電話します。集中力を高めるためにずっと机の下でテレコールしている人もいます。(居眠りしているのがバレると上司に蹴られる)
私はと言えば、初日から異様な光景に面食らい、茫然とその景色を眺めるしかありませんでした。
<つづく>