見出し画像

「ダバダァ~♪」の曲が流れる『違いがわかる男』だったタケシの話

「ただいまー」

タケシ(パパ)は仕事から帰宅した。

何時ものように、リビングの真ん中でワカバ(JC)がスマホを定位置に置き画面を見ながら踊っていた。

「だから、それカワイイ、あれカワイイ、誰カワイイ、それカワイイなんて言わないで~♪」

TikTokで流れているらしい曲に合わせ、リズムよくステップを踏む。

タケシはダンス下手で音痴だが、以外にワカバは上手に踊っている気がした。

ワカバ
「タケシ! 見て見て! フルーツジッパー!!」

ワカバは思春期の頃からパパのタケシをパパと呼ばなくなりタケシと言うようになった。
パパと会話をする彼女なりの思春期対策だったのだろうと思う。
今では、パパのタケシも”タケシ”と呼び捨てにされるにも慣れてきた。

タケシ
「ふ、フルーツ?」

タケシはカバンを置きながら毎度見ているが中々覚えられないが、いつもなんとなくわかったふりをする。親としてのプライドだろうか。

タケシ
「おぉ、いいねぇ!フルポン!」

ワカバ
「フルポンじゃないけど、カワイイでしょ! カワイイよね!」

ワカバは満足げにニッコリ笑って、また踊り続ける。

タケシはソファに座り、ハイボールを一口飲み今日の疲れをいやした。

■次の日

タケシ
「ただいまー」

玄関を開けると、またワカバが踊っている。

「カワイイだけじゃだめですか?右・左・正面・きゅん4させちゃう。
カワイイものは・・・♪」

毎日、毎日、良く踊っているなぁ~ワカバ。

タケシ
「フルーツ・・・。かなワカバ?」

ワカバ
「キューストだよ。知らないの~タケシ。昨日と全然違うじゃん。」

タケシ
「え~?毎回、歌とダンスを見ているけど、これ昨日のフルーツなんちゃらでしょ。」

ワカバの動きがピタッと止まり物覚えの悪い子に伝える様に「だから違うってば。昨日はフルーツジッパー、今日はキュースト!」

タケシ
「いやいや、同じにしか見えないんだけど」

ワカバ
「はぁ~ 全然違うんだけど?フルーツジッパーとキュースト。」

タケシ
「だってさ、どっちも『カワイイ! カワイイ!カワイイ!』しか言ってないよ?すべてが、カワイイ・かわいい・可愛い・にしか聞こえないよワカバ。」

ワカバ
「それがいいの!!」

今日もタケシには区別が付かなかった。

■さらに翌日 

またワカバはリビングでTikTokを見ながら踊っている。
本当にダンスと歌が好きなんだなぁ~とタケシはいつも思っている。

ワカバ
「 見て見て! 今日はどっちでしょー?」

「えーっと・・・。キューティーハニー?」

「うける。なにそれ!? そんなグループないし!」

どっちでも同じじゃないとワカバに言いたいが機嫌をそこねると面倒なので「どっちもおなじでしょ~」とはタケシは言わなかった。

ふっと、気づく。
昔は自分も音楽番組を見て「このグループのダンスかっこいい!」とか「こっちの曲の方が好きだな!」とか言っていた。

ダバダァ~♪の音楽が流れる『違いのわかる男』だったタケシなのに・・。

だが、今は・・・。

タケシはハイボールを飲みながら遠い目をする。

やれやれ、アイドルグループの違いが分からない年齢になってしまったらしいと思いに更けながらハイボールを飲み干した。。

■数日後

ワカバの「カワイイ!・ かわいい!・可愛い!」は完全にタケシの頭に刷り込まれた。

ワカバが満面の笑みを浮かべながら「私ってかわいいよね?」と言うようになってきた。

タケシ
「えっ、まぁ~、ワカバはかわいいけど。ねぇ。そこまで・・・。ねぇ。」

ワカバ
「カワイイだけじゃだめですか?」

タケシ
「だめだね。頭の中も可愛くないと。勉強してないし・・・。」
「別の意味では、可愛いけど、特段ワカバはカワイイくない。」

ワカバ
「きしょ。」

そんな日常をタケシとワカバは過ごしているのであった。

結局、タケシはフルーツジッパーとキューストの違いが今でも分からない。完全に違いの分からない男であった。
だが、ワカバが楽しそうなので、それでいいかと思うのであった。

そして、本当にタケシはワカバを父親として可愛いと心から想っている。
これは紛れもない事実であった。

おしまい。

いいなと思ったら応援しよう!

ぱぽこめ
ありがとうございます。よろしければ応援お願いします。いただいたチップはクリエイターとしての活動費に使わせていただきます!