ケン・リュウ「宇宙の春」を読んで宇宙の終わりと始まりに思いを馳せる
ケン・リュウの短編「宇宙の春」を読みました。
宇宙の春、と検索してまず出てきたのがこの絵画。
抽象絵画の開拓者として知られるチェコ人のフランティシェク・クプカ(1871−1957)が描いた「宇宙の春」という作品だそうです。
神智学や錬金術、あるいは哲学や自然科学に至るまで熱心に研究したクプカが、「宇宙の法則」を探求し、宇宙の誕生を表現したもの。
深い青、淡い青の中にちりばめられた明るい色合いが、春という始まりへの希望を感じさせるような作品です。
という訳で今回はケン・リュウの最新短編集「宇宙の春」から表題作を読みました。
2021年3月25日、新☆ハヤカワ・SF・シリーズから発行されました。
このシリーズ、小口と天地が茶色、中が色褪せたような味のある黄色の二段組み、ビニールカバーがかけられており、とにかく装幀がおしゃれなんです。
(この値段に見合った存在感があります。)
表題作「宇宙の春」はp.10ほどの短編です。
が、何万年何億年の時間の経過がぎゅっと閉じ込められた宇宙の四季を旅する話です。
舞台は冬。
命のつきかけた恒星の周りに、エネルギーを求めて放浪者が集まります。
<どこからきたんだい?>
<覚えてない>
<どこに行くんだい?>
<わからない>
<まあ、とにかく、幸運を!>
「三体」の世界の異星人たちもこのくらい平和で気楽な会話が楽しめる関係だったらいいのに・・・なんて思いつつ、季節は過ぎていきます。
四季が春から始まり冬で閉じるように、宇宙という命は冬でついえて、再生の春へと向かおうとします。
再生された宇宙がどんなものになるかは分からない。けれども、希望をもって春を迎える。
どことなく三体Ⅲやシン・エヴァンゲリオンを彷彿とさせるような物語でした。
ケン・リュウさんのSFを読んでいると「(量子の)もつれ」という言葉がよく出てくる気がします。
うまく説明できませんがこの混沌さを表す”もつれ”が、何とも味わいがあって好きです。