涙色のじょうろ
小さな世界にたったひとりの男の子と、たった一粒の種がうまれた。
男の子の近くには小さなじょうろが転がっている。
種は咲きたかった。真っ白できれいな花を咲かせたかった。
男の子は花を見るのが好きだった。花が咲くのをいつかいつかと心待ちにしていた。
運良く雨が降り、種はとても綺麗な花を咲かせた。男の子はそれはそれは喜んだ。
でも。
男の子は水のやり方を知らなかった。花は永遠に咲くものだと思っていた。
しばらくして花は枯れた。
あんなに真っ白だった花が茶色く萎み、頭を垂れたままになった。
男の子は泣いた。
花の形見の真っ白なじょうろを抱いて幾晩も幾晩も泣き続けた。じょうろは涙でいっぱいになり、とうとう大地にこぼれ落ちた。
次の日の朝、男の子が目を覚ますと花は横たわっていた。しなやかだった茎はくにゃりと折れ曲がり、黒ずんでいた。
男の子が慌てて抱き起こすと、花は小さく震え、しぼんだ花びらからぽとりと何かを吐き出した。
それは小さな種だった。
男の子の涙で濡れた大地に落ちた種は、瞬く間に芽を出し、大きな花を咲かせた。
男の子はとても喜んだ。
花もとても喜んだ。
男の子は花の咲かせ方を知り、
花は男の子の笑わせ方を知った。
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