経済活動をしない無所有の僧侶が、なぜイノベーションを起こせるのか?
今回は、「経済活動をしない無所有の僧侶とイノベーションの関連性」という話が大変面白かったので、ご紹介します。
「無所有で経済活動をやめた僧侶」が生み出す社会的価値
私たち 一般社団法人日本仏教徒協会は、「僧侶が無所有で経済活動をやめて、市民がそれを支える仕組み」を前提に活動を組み立て「実験寺院 寳幢寺」を運営しています。
この仕組みは、海外の仏教では一般的なスタイルなもので、これを日本社会に普及させることで、狭義では日本仏教の、広義では社会全体のパラダイムシフトを起こして行こうと考えております。
しかし正直なところ、「今の日本で、僧侶が無所有になって経済活動やめるなんて、そんな回りくどい方法に何の意味があるの?」と思っていました 笑。
市民が無一文の僧侶を養うことに、どんな社会的価値があるのか、なんて私たちには想像がつきません。そんな僧侶自体が日本には存在していないわけですから。
その話を「実験寺院 寳幢寺」の僧院長・ 松波龍源師に聞いたところ、私の疑問が氷解したので、共有します。すごく俗な言い方をすれば、無所有の僧侶は、一般人の常識とマインドロックを強烈に外す能力を持ちうるということです。これを最初に聞いたとき、「それって、全く新しいビジネスモデルを提案できるコンサルタントみたい!」と思いました。
「無所有で経済活動をやめる」という真の目的は、生死を含めたあらゆる社会的制約の重力から解放されることであり、社会の中に異次元の存在価値を出現させることを意味します。それは、例えるならば「赤ちゃんみたいな感性の大人」に近いかもしれません。
赤ちゃんに1万円札を渡しても、「は!? 何、この紙切れ」と、あっさり破られるわけです。感度がよい人であれば「そうか、1万円ってただの紙なんだ」という、現象のより本質的な部分に気づくことができます。
私たちが「問題だ」と固執していたことは、赤ちゃんには「問題」という認識として捉えていなかったりもします。そうなると、あらゆる「問題」が無効化したり、とらえ方が変質し始めます。この感覚は、老子と会話したり、合気道の達人と組み合う感じかもしれません。
そんな限りなくフラットでピュアな目線で、物事や出来事の本質を超客観的に見ると、新たなイノベーションやパラダイムシフトも生まれやすいのです。これは狭い意味ではビジネス的な意味だし、広くは人生や社会のとらえ方そのものです。
そういう「インスパイアできる社会的価値を持った存在」と認識されているからこそ、海外の仏教国ではわざわざそんなシステムが使われているのかなと思いました。もちろんそれだけでもないでしょうが。
あらゆる社会活動が、ホロスのパラダイムシフトができる可能性
ロゴスとホロスという言葉があります。ロゴスとは、個別に分断した部分最適の世界観。ホロスとは、奥にあるつながりを持って、部分がわかった上での全体最適する仏教の世界観です。
世の中のビジネスや活動の大半は、「取引」というロゴスの世界観のOSで出来ています。「私」と「あなた」は分断され、どちらが多く取るか、という部分最適を競いあうのが基本的な構造です。
ホロスの世界では、そのように特定の部分や出来事、値段の高低にこだわったりはしません。私たちの活動のテーマは、狭義では、仏教界のパラダイムシフトですが、もっと言えば、世の中のあらゆる関係性や活動やビジネスに、ホロスの社会思想のOSをインストールしてパラダイムシフトを誘発していくことでもあります。
1本1万円の値がついた「大根プロジェクト」という実証実験
私たちは、滋賀県の農家・ラトナファームで無農薬で作られた大根に、疫病退散と健康祈願の祈祷を行い、値段をつけることなく希望する全国の方々に贈ろうという「大根300本プロジェクト」を行いました。
これは、今までの「いくらで売る・買う」というロゴスの世界観であった農家の収益モデルを、仏教思想のホロス世界でプロデュースして、新たな収益モデルを生み出したらどうなるか、という実証実験でした。
驚いたことに、大根1本を1万円という値段を出して喜んでくれる人が何人も現れました。これは、ホロスの世界観という仏教哲学が社会実装できる可能性の1つかなと思います。ただの大根1本に、市場の経済原理とは全く異なる価値を感じた人がいたということです。
広告的な工夫としては、大根という存在価値を、「野菜」ではなく、「お守り」として提示したことで、マインドセットをずらしました。それは些細な工夫で、多くの方々は農家の思いや心意気のストーリーを買ってくれました。そして「お守り」という、信仰の持つ不思議な力の存在も後押ししました。
信頼して300本の大根を見返りなく預けた農家。それを値段を決めずに贈った僕たち。その世界観に喜んで共感した人たち。これが、すごく良い循環を作りました。
このホロスOSの社会思想を応用すれば、全く新しい形態の飲食店だったり本屋だったり、組織や家族像を作れるんだと思います。そういう汎用性のあるOSを、ブッダが2500年前に開発したのに、日本では使われなくなったので、それを社会システムの整備から作り直そうというのが、今僕たちがやっている活動です。
実際、この視点からのアドバイスを受けたことで、 全く新しい概念の和服のアイデアを思いついて、製作が進んでいるプロジェクトもあります。根本のOSの概念の世界観が変われば、全く新しいイノベーティブな別のアウトプットや製品が出てくるということです。
ホロスOSをどう自分にインストールするか
では、このOSを自分で使いこなすにはどうしたらいいか。その入り口の方法論として、自分の特性に合わせたタイプ別に、頭・心・体の3つのコースを僕たちは設けていて、本格的には「弟子入り」まで用意しました。
頭の思考面から学びたい人には、「ホロス宇宙塾」というシリーズ講座の対談で、12のテーマに分けて細かく伝えています。将来的には、もっと学びの場を整備したいと思っています。
心から学びたい人には、「リアウェアネス瞑想」をお伝えしています。「集中力とか生産性が上がる」というロゴス的な瞑想ではなく、人間としてのパラダイムシフトを着地点にした瞑想です。ここは、近々オンラインでも入門体験できるようにする予定です。
体から学びたい人には、「陳氏太極拳」や「ゆるめぐり気功」「ボディバランスコミュニケーション」など、「心神武術アカデミー」にて最初から最終奥義のような身体技術の真髄を、体感でお伝えしています。
この活動へのお誘い
かなり壮大で、おもしろいことができる場なのですが、この活動は始まったばかりで、そのゴールイメージに叶うほどの人手も資金もまだまだ足りておらず、情報発信も追いついていません。受動的に学ぶのも良いですが、主体的に一緒にこの事業を作っていける人を歓迎していおります^^。
長くなりましたが、読んでくださってありがとうございます。
さらに詳しくはホームページをご覧下さいませ。
文章: 淺田 雅人(一般社団法人 日本仏教徒協会 事務局長)
社会実験家。大手旅行代理店を経て、NPO法人場とつながりラボhome’s vi を創業。京都市上京区まちづくりアドバイザーでの経験から、京都市上京区を未来の社会実験都市と位置づけ活動。海外100拠点の社会起業家コミュニティImpact Hub Kyotoに従事。従来の社会活動の限界を感じて、無期限の活動停止と主夫生活を経て現職に復帰。「幸福度を高める地域システム構築」と「家族の持続可能性」と「人類の意識の進化」を研究している。
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