見出し画像

中満泉氏@東京大学大学院「人間の安全保障」プログラム創設20周年シンポジウム「人間的な地球社会を目指して」

2025年1月29日に東大駒場キャンパスで「東京大学大学院「人間の安全保障」プログラム創設20周年シンポジウム「人間的な地球社会を目指して」」が開催され参加してきました。これは「人間の安全保障」のこれまでの歩みと今後の展望を考えるシンポジウムで、プログラム後半では国連事務次長の中満泉氏が講演されました。この講演内容が素晴らしかったので内容を整理したノートを共有します(ただし私はノート取りはかなり未熟なので、抜けている情報が多々あります。悪しからず。)


①    国連と軍縮 ②    混乱した世界情勢 ③    実務家として ④    人間の安全保障

1. 人道主義と人命人道主義

* ポスト冷戦期には市民を攻撃する紛争が増える ⇒ 新しいアプローチが必要になる。
* 国際法違反が無処罰(impunity)⇒ 世界に対するインパクトが大きい
* 戦略的な視点・多様化した措置が必要 パラダイムシフト
* 現在の潮流として人間の安全保障よりも国家安全保障の方が重要視されている
* 軍事力の拡大が正当化、軍縮は否定されている
* しかし、軍縮=人道主義
* 安全保障と人道主義において軍縮は役割を果たすことが出来る。
* 人道上の責任が関係している
* 中距離核戦力(INF)全廃条約:米ロがINF条約を離脱(2019)
⇒ 国際法の弱体化

※ 中距離核戦力(INF)全廃条約は、アメリカとロシア(旧ソ連)の間で1987年に締結された核軍縮条約。射程が500~5500kmの地上発射型の弾道ミサイルと巡航ミサイルを廃棄することを定めている。

* 規制の整備よりテクノロジーの発展の方が速い ⇒ テクノロジーのナショナリズム
* 国内の不正義 ⇒ 国内の分断
* 取り残された人々が国内に半分いる ⇒ 政治の分断 ⇒ 外交政策などに影響(恐ろしいインパクト)
 * 恐怖と欠乏に直結する
*「自分たちの安全保障」=人間の安全保障の後退
*「自衛」の名のもとに巨大兵器が市街戦で使用される(ガザやウクライナ)
* LAWS(ローズ)の実践はすぐそこまで来ている

※ LAWS(ローズ)とは、「Lethal Autonomous Weapon Systems」の略称で、日本語では「自律型致死兵器システム」と呼ばれており、人間による遠隔操作を必要とせず、機械自らの判断で人を殺傷する能力を持つ兵器のこと

* 世界の軍事支出は2兆4430億ドルでうなぎ登り ⇒ 様々な分野(教育や福祉など)のリソースが軍事に振り分けられることを意味する。

※ 2023年の世界の軍事費は、前年比6.8%増の約378兆円(2兆4430億ドル)で、統計開始以来最大規模

2.ダブルスタンダード(二重基準)

* ウクライナ戦争を国際社会は批判、しかしガザ攻撃は批判しない
2003年のイラク侵攻しかり
* 今日のダブルスタンダード ⇒経済力・政治力を増したグローバルサウスからの不満 ⇒ 修正していかないと必ず破綻するレベル
* 貧困国にとっての安全保障 ⇒「欠乏からの自由」が重要な部分
例:サヘル諸国でのテロ攻撃⇒国家予算の30~40%が軍事費に振り分けられる。

※ 欠乏からの自由 Freedom from want とは、アメリカ大統領フランクリン・D・ルーズベルトが1941年に提唱した「四つの自由」のひとつ
※「サヘル諸国」と呼ばれる西アフリカのマリ、ブルキナファソ、ニジェールでクーデターが相次ぎ、不安定化が著しい。

* 一致団結して今の状況を変えることが出来る ⇒ 行動しなければ後戻りが出来ないことになる
* 2024年9月に未来サミットが開催された  ⇒ 国連を変化した国際情勢に見合ったものに ⇒ 国連自体を変えていく(21世紀に見合ったものにする)
* 「未来のための協定」= サミットレベルでの協定・改革 ⇒ 今の国連システム全体を変えていく必要がある

※ 未来サミット(Summit of the Future)は、国連が2024年9月22日から23日に米国・ニューヨークの国連本部で開催したサミットです。地球規模の課題への対応と国際協力について議論され、成果文書として「未来のための協定」が採択されました。未来サミットの目的は、次のとおりです。*国連が100周年を迎える2045年に向けて、世界が直面している重大な課題に対する協力の強化 *持続可能な開発目標(SDGs)の次のグローバル・アジェンダを議論する *グローバル・ガバナンスを強化し、国際的に合意された目標の実施を加速させる

* アフリカの代表が少なすぎる、歴史的不正義(Historical Injustice)
* 2030年まで日本のリーダーシップが必要(2年~4年くらい)
* ブレトンウッズ体制を含め改革が必要(金融改革)⇒ その鍵はデジタル技術

※ ブレトン・ウッズ体制とは、第二次世界大戦後に定められた国際通貨制度で、1944年に米国のブレトン・ウッズで連合国代表が集まって合意されました。

* 紛争の性格が変化した ➡ 兵器が一人一人の人間に与える影響 ⇒ 加盟国は行動を起こす必要がある
* 第二次世界大戦直後の国連のオリジナルビジョン(国連憲章)に立ち返る必要がある。
* 1人1人の人間と向き合う、全ての人の尊厳を守る
* 平和・安全・軍縮に繋げていくことが必要
* 従来の軍縮はサイロの中で専門家が話し合う ➡ しかし、現在は他の様々な分野のアクターとどのようにリンクするのか、包括的なビジョンが求められている

3.新しいテクノロジー

*新しいテクノロジーが人間中心の視点で開発されなくてはならない
* AIのライフサイクル:デザインやデータ収集を責任もって人間中心のものに ➡ 21世紀の安全保障
* 21世紀において技術そのものを制限することは不可能 ➡ そのため、どのように使用するかを規定していくことが必要

4.若者と市民社会

* 若者が決定権を持てるようにする
* ユースオフィスの設置 ➡ 将来世代のために何をするのか

※ 国連ユース・オフィスは国連事務局内に設置された若者に関する事柄に特化した組織。国連加盟国は、若者に関する事柄に特化した組織を設置することに全会一致で合意し、初代ユース担当事務次長補にフェリペ・ポーリエ氏が就任。

* 人間の安全保障は世代間を超えた考え。現在の決定が長い期間でどのような影響があるか。
* 教育の格差やデジタル格差を埋める必要がある。2024年9月合意した「未来のための協定」はその入口

5.国連と個人の改革

* 国連は持続可能ではない、しかし改善は可能。そのためには共通の危機感を持つ必要がある
* 日本被団協(日本原水爆被害者団体協議会)のノーベル賞受賞
被害者⇒サバイバー⇒平和の指導者
* 彼らの活動が核兵器禁止条約へと結びついた

※ 日本被団協は68年間にわたり被爆者の立場から核兵器廃絶を世界に訴える活動や被爆者の援護を国に求める運動を続けてきた。 東西冷戦のさなか、国連の軍縮特別総会に3回にわたって代表団を派遣し、被爆者が自らの体験をもとに「ノーモア・ヒバクシャ」と訴え核兵器の廃絶を迫った。

* 新しいことを試してみる ⇒ 今までの在り方から新しい考えを出していく
* 「リスクを取る勇気」 
* テクノロジーで繋がることによってお互いから学ぶこと
* もっとも脆弱な人たちに対して手を差し伸べる
* 1人1人が行動を正すことで大きなうねりとなる


質疑応答

1.    交渉の方法
* common ground がどこらへんにあるのかを見つける。
* 国際法違反の人たちを確認 ⇒ 無処罰(impunity)という視点
例:「ロシアは国連憲章のoriginal drafterであるはずなので、なぜ自分でそれを破るのか」
* 通常、簡単には説得できない

2.    NPT体制
* 今あるものを守るという姿勢⇒状況はそのうち変わる
現在は助走期間で、今から未来について考えること
* 核兵器とAIが結びついたら恐怖
* 国連は理解力を掻き立てる方法(音楽や劇など)を模索すべき

3.理論と実務について
* 現在自分のやっていることが、現場でどのように使われるかの想像力が大切
* 政治理論:複雑な現実を対処するために、理論の枠組みを使用するため、実務に役に立つ
* そのため理論・実務共に大切
* 軍縮は主に規範を構築する仕事 ⇒ 国際法・国際政治と繋がっていない
リアリズムだけではダメ
* 現場で平和指導する必要 ⇒ 社会学的・人類学的な視点が必要

(2025年1月31日)











いいなと思ったら応援しよう!