【ワットバンドン】タイ伝統芸能影絵ナンヤイの保存団体に聞き取り調査へ
以前訪問したワットプラップラーチャイで人形遣いの身体表現が面白いと感じ、通信大学の卒業論文テーマをタイの伝統大型影絵芝居・ナンヤイに関するものにしました。
ワットプラップラーチャイナンヤイ記事はこちら▼
卒論用なので今回は通訳をお願いして聞き取り調査をすることに。
ナンヤイ大好きな日本人女性と共に、バンコクから車で2時間半のラヨーンへ!
※今回は既出の記事と判断されると厄介なので卒論のメインテーマには触れず、ナンヤイの一般的なことや体験談のみになることをお許しください。
事前準備でビビる
紹介してもらった「三毛猫観光サービス」にワットバンドンへのインタビューのアポ取り、通訳、車チャーターまで全てお願いしようと連絡を取り、その後、代表・ミンクさんからOKを頂きました。
これだけお願いするのだから金額はそれなりにかかっていますが、知らない日本人がいきなり行ってあれこれ質問するよりも、タイ人にしか分からないニュアンスや正しく聞き取りを行うための必要経費だと思って奮発しました。
そんなことより、ビビったのが「市の文化庁にミーティングリクエストレターを提出しないといけないです」と言われたこと。
公的書類を出さないといけないのか…!
氏名・大学名・理由・提出先など結構詳しく記載しなければならず、断られたらどうしよう、と気が気でなかったのですが、無事に許可が下りました。
今回の体験で、文化保存団体へ調査という形での訪問は許可を貰わないといけないという勉強にもなりました。
先生めっちゃいい人
ラチャブリーにあるワットカノンもそうなのですが、寺院とは独立して博物館と練習場があります。
車を降りて出迎えてくれたのは、今回インタビューに答えてくださった保存団体副院長・アンパイ先生。
事前に拝見していたお写真では気難しそうな感じでしたが、とても気さくでフレンドリーな方!
アンパイ先生は元々学校の先生だったそうで、熱血教師ぶりを発揮してワットバンドンにおけるナンヤイの歴史から、ナンヤイの種類まで熱く詳しく教えてくださいました。
この3点セットは演技を始める前の儀式「バール・ナ・プラ」で使われるものです。
演技の神様や先生、祖先などに演技を見守ってもらえるようお祈りします。
中央のリシ(仙人)は虎の皮で作られており、左右のシヴァ・ビシュヌには雷に打たれるなど変死した牛の皮で作られています。
本来は演技の前に毎回行う儀式ですが、準備もお金もかかるので年に一回にしているそうです。
ナンヤイは王宮の儀式などで全てのストーリーを7日ほどかけて演ずるものだったのですが、現代ではその必要性が無くなったこと、また、保存団体が子供達の育成や観光アクティビティとして運営するためにショートバージョンを作っています。
現在、ワットバンドンには全部で約200体のナンヤイがあり、新しく作ったり、修復しながら大切に使っています。
事前にワットバンドンの予習をしていったのですが、参考文献をお伝えすると「それよりもっといい資料がある」と後からたくさんの資料を送ってくださいました。
一緒に行ってくれたお友達や、通訳のミンクさんのおかげもあると思いますが、資料集めに苦労しているので本当にうれしかったです。
ありがとう!
迫力の演技を見る
博物館の見学が終わったあとは、ナンヤイの演技を見学。
2024年10月現在、コン・チュート(人形使い)は30名、語り手は修行中の人も含めて2名の割と大所帯の一座です。
今回は都合のついた子供たち6名が演技を披露してくれました。
ワットバンドンは様々なイベントにも積極的に出演し、コンテンポラリーや、本来ラーマキエン(タイ版ラーマーヤナ)しか演技しないナンヤイに、ラヨーン県出身の詩聖スントーン・プーの「プラ・アパイマニー」を取り入れたりと伝統を守りつつ、新しい取り組みもしています。
ナンヤイは一座が所有している種類によって必然的に演目が決まり、ワットバンドンでは「2人の王子」と「シーダーが火の中を歩く」を得意演目としています。
今回はどの一座でも本編前に演ずる寸劇「ジャプ・リン・フア・カム」(夕方に猿を捕まえる)に注目してみます。
猿のダイナミックな戦い
「ジャプ・リン・フア・カム」は善の象徴・白猿が、悪の象徴・黒猿を3回の激しい闘いの末に捕獲し、仙人が黒猿に善悪を諭して改心させるという物語で、この後に続くラーマキエン本編の勧善懲悪にいざなうエピソードです。
本編のハヌマーン軍団もそうですが、猿なので飛んだり跳ねたり動きがダイナミックです。
白猿と黒猿は互角の力を持っているので、接戦です。
一体だけのナンヤイをふたりで操る時は、本当に闘っているかのようにナンヤイをぶつけ合ったり、揉み合っているように相手の体に乗ったりします。
3回目の闘いでは2匹の猿が描かれた1枚のナンヤイを使います。
ここの場面転換がとてもかっこよかったのでぜひ動画をご覧ください。
一枚絵になっても、2匹が押し合いへし合い闘う様子を、ナンヤイを細かく振るわせながら左右に動かしたり、大きく団扇のようにひるがえしたりと上手く表現しています。
日本に帰国してから演技のビデオを何回も見直すうちに
「あれ、これはもしや…」
と気付いたことが卒論のメインテーマとなりました。
この体幹の強さと柔らかく素早い動きは若い人にしかできないと言われる理由がよく分かる素晴らしい演技でした。
子供たちがたくさん練習した成果ですね!
観光客も、タイの人も見て!
通訳をお願いしたミンクさんからは「ラーマ9世の火葬式の時にしか見たことない」と言われ、前日に行ったマッサージ屋のお姉さんには「ほとんどのタイ人は実際に見たことない」と笑われ、お寺巡り仲間のおじさまには「同じナンでも映画の方が面白い」(タイ語で映画のことをナンと言います)と言われたナンヤイ。
確かにナンヤイと共に演じられたコーンの方がポピュラーになってしまったけれど、影絵と人形遣いが一体になり、一枚の皮に命を吹き込むナンヤイにも魅力がたくさんあって、わざわざ現地に足を運んで見る価値があると思います。
ミンクさんも「初めて見たけど感動しました!」と言ってましたよ。
今回は時間が押してワットバンドンへの参拝はできなかったのですが、敷地内にマッサージもあるようです。
さらに上達したこども達の演技も見たいし、再訪するのが楽しみです。
ワットバンドンの最初のナンヤイは船で運ばれてきたのですが、その時のシーダー人形のエピソードも面白いですし、ある場所で眠っていたナンヤイが再び日の目を見ることになったエピソードも面白いので、みなさんにも行って頂きたいです。
イベントのお知らせ
2024年11月13日から17日まで、タイのパトゥムターニー県クロンルアンにあるタイ国立科学博物館(NSM)で、第27回「世界人形劇フェスティバル」(ハーモニーワールドパペットイノベーションフェスティバル2024)が開催されます。
タイムテーブルは国立科学博物館のリンクをご覧ください。
ワットバンドンのナンヤイは2024年11月15日(金)14:00~14:30にIT博物館で開催します。
演目は「ラーマとトッカサンの戦い」です。
前回訪問したワットプラップラーチャイのナンヤイは2024年11月16日(土)13:30~14:00にラーマ9世博物館で開催します。
演目は「夕方に猿を捕まえる」です。
この機会にぜひナンヤイの美しさに触れてみてください。