文科省の「大学名公表」から想定される非常勤教員の感染リスク

令和2年10月16日付で文科省から対面授業が全体の半数に満たない場合には大学名を公表するという方針が発表されました。世間では、特にこの知らせを受けた大学界隈からは非常に強い批判の声が上がっていますが、まぁそれはそうでしょう。散々遠隔授業を勧めておいて、いざ世論で「大学生かわいそう」という声が高まったら掌を返しているのですから。

京都産業大学の一件が痛烈な印象を与えている

令和2年の3月〜4月に京都産業大学がコロナウイルス感染防止対策を実施した上で、対面授業を実施していました。ご記憶にある方も多いと思いますが、マスコミによる壮絶な批判に晒されたことで、世間からも非情なバッシングを受けたという一件がありました。これを受けて大学業界は震えあがりましたね。しかも皆様ご想像のとおり、そもそも大学という組織は民間のように変化に強い組織ではないので、遠隔授業・オンライン授業を行うために凄まじい労力をかけて取り組んで参りました。その背景には、「対面やったらこんなに叩かれるんだ…。」という恐怖もあったことは言うまでもありません。

普段いがみ合っている(?)教員とも手と手を携えて、珍しく(??)一致団結して遠隔授業の実施にこぎつけた大学がほとんどだと思われます。

非常勤教員が圧倒的に多い大学業界の特殊性

掌を返したような文科省の凶行には今更なんとも思いません。最たる悪事であるロースクール問題(散々作れと言って、バンバン潰れていった)で既に期待もしていないので、相変わらず行き当たりばったりだなという印象です。

しかし、この案件の最もシビアなところは、大学業界が抱える問題の一つである非常勤教員の多さにあります。彼らの中には、本務校を持っておらず、複数の大学を掛け持ちすることで生計を立てている先生方もいらっしゃいます。そしてその人数は非常に多いため、この対面授業実施に舵を切った場合、この大勢の非常勤講師たちが大学から大学を目まぐるしく動き回ることになります。

これまでもそうだったじゃないかと言われればそれまでですが、先生方の立場になって考えた時に、快く「また全ての大学で対面授業ができるようになった」と喜ぶことができるでしょうか。学生はもとより、電車移動を余儀なくされる非常勤の先生方の感染リスクは非常に高いものがあると思われます。

どこまで補償する?

さて、文科省の指令を受けて、どれだけの大学が無理やりにでも対面授業実施に向かうのかは定かではありません。しかし労働基準法の最大の仮想敵である「強制労働」を強いることができない以上、我々法人はどのような手を打てば良いのでしょうか。

一つは休業補償です。既に実施している大学もあろうかと思いますが、上記のように非常勤教員の中には、大学が意向を示したところで「対面授業はできません」と仰る方もいらっしゃるでしょう。命に関わる問題ですから当たり前です。こうなった時には、休業補償を用意しなくてはならないものと思われます。

休業補償とは、簡単に言えば、"事業主の責めに帰す休業の場合には、最低60%の賃金を補償するもの"です。

「対面やるぞ!」というのはあくまで大学側の都合になりますので、対面授業を望まない先生方をクビにすることは当然できないでしょう。そうすると、休講措置あるいは代講を用意するなどする一方で当の先生には休業補償を行う必要があると思われます。

労災適用の準備

次に頑張って授業をして下さった先生方が万が一、コロナに罹患した場合の補償です。当然大学も、労働者災害補償保険法の適用事業所になりますので、労働災害にあった従業員に対して保険給付を申請することができます。

労災申請についてはある意味手続論ですが、本当に重要なことは、学内で感染者が出た場合の危機管理になります。感染源の特定、濃厚接触者への自粛要請など迅速に行う体制を整える必要があります。

難しい言葉を並べましたが、要するに、かかっちゃった人を助けてあげる用意をしておくということですね。

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