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「間に合わなかった」

「間に合わなかった」
これほど後味の悪い一言もないんじゃないか。
ただ、この言葉を聴く機会が最近増えたように思う。

鈴木浩文さんがMOROHAの解散を受けて嘆いていた。
「仕事で一緒になったとき貰えるようにってライブ後の物販でサインを貰わなかった」
「俺は間に合わなかったんだ」

ラジオでその言葉を聴いた時、私は形容しがたい気持ちになった。
彼が俳優としてのやりがいを一つ失ったことに対する喪失感、彼が俳優を辞めるわけじゃないんだからいいじゃないと自分を落ち着かせる気持ち、そんな風に思えるほど自分は彼を応援できてないじゃないかという恥ずかしさ。

君の夢が叶うのは誰かのおかげじゃないぜ
と歌ったthe pillowsも解散した。
いつか生で聴きたいと思っていた。
いつか聴けると思っていた。
私も間に合わなかった。

小説を書き始めた。
ずっと前からどの賞に出すとかどういう傾向があるとかうだうだ考えていた。
しかし、ようやく気づいた。
やっぱり、行動だけが正義だ。

演劇を観た。

シモキタ小劇場系の舞台でハズレを引いた時の退屈さは3件目の上司の説教よりつらい、と思うほど無粋な人間なので、マジでつまんなかったらどうしようと思っていた。
主催も売れていないことをめちゃくちゃ強調している。

結果、かなり良かった。
中だるみがなくてずっと面白かった。
最後、思わず咽び泣いた。

ここからはネタバレ有りで話したい。
ネタバレしても観る価値はあるから。
これを読んで興味を持ったら是非行ってください。





売れてなくても今が幸せ、みたいな話を売れてない人がやるのが嫌いだ。
所詮負け犬の遠吠えじゃねえか、
じゃあ最初から売れてやるとか言うな、と思う。
もう少し歳を重ねて、やれない自分を受け入れたら違うのかもしれない。
でも今はまだそうは思えない。
だから私自身も成果が出なければ自分を責めるし、苦しむ。
今まさに、苦しい。

舞台『パラレルワールドより愛をこめて』では一人の芸人がパラレルワールドの自分と出会う。
売れた世界線と売れていない世界線の主人公は、見た目や挙動まで別人になってしまっている。
しかし分岐点を遡ると初心は同じだったことに気づく。

コンビ組まない?と言い出す時の、あの緊張感。
断られたら気まずい、けど、それ以上にこいつとやってみたい、という抑えられない想い。
恋ではなくても、ほとんど告白である。
(恥ずかしながら私もコンビを組んで漫才とコントをした経験があるので、思い出しすぎて若干胸焼けがおきました。)

そしてお試し、からの撃沈。
ここで燃えるかどうかが、多分初めの分岐点だった。
あそこでスベッたはずかしさから蘭太郎が立ち直れなかったら、芹介が悔しさを感じなかったら、もう一つのパラレルワールドで二人は別の人生を歩んでいた。

描ききれない分岐点をいくつも超えて、蘭太郎と芹介は突き進んでいく。
そして売れて、売れることを選んだ故の苦しみと今も隣り合わせにいる。

よくあるストーリーだけどテンポの良さと脚本の絶妙な言葉選び、俳優陣のコミカルな演技に夢中になった。
故に祈っていた。
頼む。売れた方が不幸だったなんてオチにしないでくれ。
主人公が互いにないものねだりして、手元にある身に覚えのある幸せのありがたさを再認識してまた歩き出す、みたいなやつじゃありませんように!

しかし 神様 仏様 善雄善雄様!
売れた世界線の蘭太郎は芹介に無理をさせた罪を償うように進み始め、
売れなかった世界線のバランは芹介の子どもが生まれた報せをききます。
「芸人を……?そうか……うん」
「もう少し早くしたい。急いで売れなきゃ。今までも楽しかったんだけど」

劇場では笑いが起こっていたけど、私はここで涙が溢れました。
いまこうして書いていても泣けてくる。
諦めなくてもいいんだよね。
急いで売れる必要ができた。
なんて素敵な言葉なんだ。
本当は台詞間違ってるかもしれないけど、そんなことはこの際良い!!!!
子供ができたからとかいい歳になったからとか、そういうので「売れなかった」とゴールテープを勝手に切っちゃうのは自分自身だ!!!!

子持ちなのに今なお累計553万の借金をしながらも主催を続けている人が書く脚本は説得力が違う。
今から売れろ。

いや、なんかもうここまで来ると売れたくてやっているわけではないのかもしれない。
実益は無いのにやらなきゃならない、ほとんど依存症に近いやつなのかもしれない。
でも、そんな芸に魅せられた変態が大好きだ。
そして幸いにもこんなにちゃんと面白いじゃないか。

そんな変態に私の愛する鈴木浩文が見つかり、不器用でちょっと性格が悪いが根は良い奴というあまりにもハマり役の配役をしてもらえたことに感謝の意を表したい。

本公演の対となる『パラレルワールドでも恋におちて』にも仕事の都合をつけていきたい。
今度はちゃんと間に合うように。





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梶本時代
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