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「どっちも諦めない」という選択

昨日、舞台『パラレルワールドより愛をこめて』の感想を書いた。

翌日の18時回の『恋に落ちて』のアフタートークには私の大好きな作家、爪切男さんが登壇されるとのこと。
もう片方も絶対に観たいと思っていた上に爪さんの話が聴けるなんて、最高の機会だ!
絶対に終わらないと思っていた仕事が奇跡的に巻きで終わり、下北沢駅東口からオールスター感謝祭のごとくダッシュした。

本当にギリギリで間に合った。
ほとんど満席で仕事用のカバンを上に掲げながら奥の空いている座席に通してもらった。

めちゃくちゃ良かった。
『愛をこめて』と同様に「どうしたら良かったのか」という最適解を見つける旅に出る物語。

ここからはまたネタバレ有りで語りたいと思う。
リンク貼っておくので気になってる人は迷わず行ってください。





パラ恋は芹介に振られない世界線を見つける旅にでるヒロイン・未知琉の物語だ。

「諦めなければ、諦めないってことになるだろうが!」
冒頭、別の世界線からやってきたもう一人のヒロイン・みちるが大絶叫する。
劇場では笑いが起こっていたが、私は密かに涙を滲ませていた。
パラ愛を観て一番強く心に残ったのが"ゴールテープを切って何かを終わらせているのは常に自分自身"ということだったから。
みちるはうるさくて挙動もウザくてかなり目障りな部類だが、47もの世界線を渡り歩くほど粘り強く幸せになっている自分を探し続けていた。
実は一番真っ直ぐに、素直に、希望を追い求めた。
諦めなかった。

そんなみちるが一番最初に諦めた自身の世界線で、戻ってきた芹介がフラッと立ち寄った未知琉にプロポーズをした。
人生って、なんて残酷なんだろう。
本当に欲しいものはすごく身近なところにあって、そう簡単に手が届かないようにできている。

未知琉が「待ってあげてとも言えない」と、芹介にヒントを与えなかったのには感動した。
自分の世界線は自分だけのもの。
別の世界線で影響を及ぼしてはいけないという設定の上ではなく、未知琉自身がみちるへの義理を通すためにそうしたこと、そして自分の世界線でも「好きでした」と言い切って芹介に復縁を迫らなかったこと、全てが誠実だった。
未知琉のことがすごくすごく好きになった。

パラ愛とセットで観て大正解の素晴らしい作品だった。


爪さんと善雄さんのアフタートークは感動を練ってこねてパンッパンに膨らませてくれた。
チケット代、倍支払っても良い。
それくらい良かった。
なのにパラ愛を観たチケットバックで1000円安くなってる。
意味がわからない。

爪さんはお父さんから受けた教育を「体育会系」と表現する。
その内容は井戸に叩き込まれたり普通に殴られたり焼却炉に閉じ込められたりと、まともに考えたら全然虐待である。
でも、そう教育すればいい子に育つ、と信じる父親の期待と信念からくる行動なのだという。
それらを「教育」と捉えたとき、果たして爪少年はいい子になったのかな〜?というのが爪文学の面白さの一つである。

実際爪さんは豊かな感性と天才的とも言える発想力を持っている一方、時にマジで碌でもなく、一定の層にめちゃくちゃ怒られるヤバさも持ち合わせている。
それを教育の成功というのか失敗というのかはわからないが、まさにそのアンビバレントさがパラレルワールドの真髄だと思う。
あの時こうしたから正解、あれをやらなかったから失敗、ではなく、どのパターンにも幸せと苦悩がある。
パラ愛・パラ恋の表現していることに通づるのではないだろうか。

閑話休題。
私は1年半前に13,000人フォロワーがいたTwitterのアカウントを捨てて会社員としてシャカリキに働くことを決意した。
エッセイも頻繁に書いていて、自分で本を作って文学フリマ東京で売っていた。
今はそれもしていない。というか、できていない。

今の会社に入ってから色んな自分が見つかって、心の底から良かったと思っている。
でもその一方で、凄く寂しい。
創作を通じて会えていた人達にも、執筆することでしか知り得ない自分にも、しばらく会えていない。
文フリデビュー同期の本が出張先の本屋で平積みされているのを見て、自分が選ばなかった方の道のことを考える。
後悔はしてない。
でも、辞めたつもりもないから悔しい。
答えも見つからずクヨクヨしていた。

そんな中で見たアフタートーク。
「何を選んでも全部正解だよ」
善雄さんの言葉が私の胸を貫通し、711シアターの背もたれに突き刺さったまま抜けなかった。

私はやっぱり最善を尽くしてきた。
胸を張って言えると思った。
また涙が出そうだった。

爪さんが続ける。
「素直になること。自分の器の大きさを決めてしまわないで、やりたいこと成し遂げたいこと、どんどん大きなことを言って外に出ること」
自分より売れている燃え殻さんに対して、俺も負けたくない、と言えるようになったそう。
みちるの世界線に芹介が帰ってきたみたいに、諦めない爪さんが動き出したんだ。

すごい。
私もそうしたい。
私も何も諦めてない。
もっとすごいこと全部したい。

気がついたら手元のアンケート用紙がアフタートークの感想で埋め尽くされていた。


昨日はしなかったが、今日は出待ちをした。
善雄善雄さんに直接感想を伝えた。

爪さんには「今度飲みに行きましょう」と言った。
前なら雲の上の人にそんなこと軽々しく言えないと思っていた。
でも、叶えたいなら絶対言うべきだと思った。
今住んでる街を教えてくれた。
昔通ってた美容院がある街だった。
ハイボールにブラックペッパーをかけて出してくるような洒落臭い肉バルしか知らないけど、いつか必ず爪さんと飲もう。

そう決意して一人、下北沢のジョッキを傾けた。








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梶本時代
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