【どこよりも詳しい】スワローズ新外国人ピーター・ランバート投手徹底分析
こんにちは、シュバルベです( ✌︎'ω')✌︎
12月12日に東京スワローズにピーター・ランバート投手が新たに加わることが決まりました。
背番号は「39」。昨年はホセ・エスパーダ投手が背負っていた番号となります。
今年のオフにサイスニード投手、ヤフーレ投手、ロドリゲス投手、エスパーダ投手と4人の外国籍投手を全員リリース。一軍計321.1イニングをヘッジしなくてはいけないというチャレンジングな状況で、12月11日のマイク・バウマン投手の獲得に続き、連日での外国籍選手獲得とアグレッシブな動きを見せてくれました。
※マイク・バウマン投手についての分析はこちらのnoteご覧ください。
本noteでは補強第二段となるピーター・ランバート投手がどんな投手か、そしてチームにどうフィットしていくかを考えていきましょう。
0.ピーター・ランバート投手のプロフィール
アメリカ出身のピーター・ランバート投手は、身長188cm体重94kgのMLB選手としては平均よりやや身長が高い右腕。
1997年4月18日生まれの27歳。スワローズの同年齢には投手で高橋奎二投手、吉村投手、大西投手、小澤投手とチームの主力を担う選手が揃い、まさに今脂がのってきたコアになる世代です。
ピーター・ランバート投手はカリフォルニア州のサン・ディマス高校出身で、2015年ドラフトの2ラウンド目にコロラド・ロッキーズから指名。なお、実兄のジミー・ランバート氏も同校の出身で、2020年から23年にかけてシカゴ・ホワイトソックスに在籍したMLBプレイヤーです。
入団後はマイナーで常に先発登板を重ね、入団から3年が経つ2018年には早くもAAAまでクラスを上げ年間でも26先発148イニングを消化。2019年のロッキーズのプロスペクトランキングでは4位に入るなど将来を嘱望された右腕に。
2019年6月6日にMLB初登板初先発するとシカゴ・カブス相手に7回を4安打9奪三振1失点の好投で初勝利。5日後の6月11日のカブス戦でも勝ち投手となり連勝スタートと華々しいMLBデビューを飾りますが、その後は不安定な投球が続きシーズン3勝に終わりました。ただMLBデビューイヤーから19試合に先発、89イニングを投げた若き先発候補として大きく注目を浴びました。
しかし、2020年のコロナ禍の中で同年7月にトミー・ジョン手術を受け全休。翌21年9月20日に735日ぶりのMLBの舞台に戻りますが、22年は再び右肘違和感でシーズンを棒に振りました。
2023年が復活のシーズン。25試合11先発で3勝を挙げ、今年2024年は28試合3先発。シーズン当初に中継ぎ、4月末~5月頭に先発するも結果を残せず再びリリーフに再転向。多くの試合でリリーフでも複数イニングを担う役割を果たしました。
恐らくこうした経緯もあり、先発が出来る場所を求めた結果としてのNPBでのチャレンジでしょう。MLBでのキャリアは74試合35先発、27歳という年齢を考えてもMLB内での契約は取れそうな立ち位置で、よく獲れたなという印象を受けます。
実際に、スワローズとは推定年俸160万ドル(約2.4億円)と近年では類を見ない額で契約。スワローズの編成も本気で獲りに行ったと言える投手です。
奥村国際グループ担当部長のコメントも熱が入ります。
記事内で記載されていますが、元スワローズのマクガフ投手とはご近所さんで親しい間柄とのこと。『いい投手を獲ったね。彼はやるよ』と奥村スカウトは連絡を受けたそうです。
以下でピーター・ランバート投手がどのような投手で期待される役割は何か、見ていきたいと思います。
1.ピーター・ランバート投手の投球成績
ここから具体的な成績・数字を見て行きましょう。
直近、2024年のランバート投手の登板成績は次の通りです。
28試合に登板し、先発は3度。奪三振率17.9%はMLB平均より低く、与四球率10.4%も平均より悪い数字です。HR/9は1.03と良く、特にクアーズフィールドを本拠地にしている中でこの数字はよく頑張ったと言える数字です。なお、ホームゲームでは防御率6.59、アウェイゲームでは防御率4.96とやはり球場の影響を感じさせます。
ランバート投手の所属するロッキーズですが、やはりクアーズフィールドというヒッターズパークを本拠地にしている以上、投手の成績は悪く出てしまいがちです。標高1600mと高地に位置しているため気圧が低く、ボールが飛びやすい環境なのです。
実際、ロッキーズのチーム防御率は全30球団の中で断トツの最下位となる防御率5.47。他の29球団で5点台は1チームもありません。年間での被弾数221本も最下位。奥村国際グループ担当部長が既に話しているように、この環境下での投球内容であることは留意が必要でしょう。
過去のMLBでの成績はこちらです。
最もイニングを消化したのはMLBデビュー年の2019年。ただ奪三振率は23年以降の方が大きく改善されています。19年・23年は被弾多めで、今年少なかったのはレアケースという位置づけとなります。神宮球場でもこれぐらいの被弾率になってくれればと願いたくなりますね。
投球フォームとしては比較的クセの少ない投げ方。テイクバックもそこまで入れず、ショートアームという訳でもないシンプルな形。エクステンションもリーグ平均並みです。クイックも問題なさそうに見えます。
23年から牽制に回数制限がかけられ投手は不利な状況ですが、同年は4許盗塁に対し5盗塁刺。牽制でも3つ刺しています。今年は6許盗塁に対し1盗塁刺ですが、ピッチクロックも牽制制限もないNPBでは走者に対する抑止力はそれなりにありそうです。
また、高校時代は投手として登板していない日には遊撃手としても活躍していたとのことで、守備でも機敏な動きを見せています。こちらのスクイズに対する反応と送球は結果セーフとはいえ、高い身体能力が見て取れるでしょう。
ナ・リーグに指名打者制が導入される前の2019年には28打席で9安打、打率.321と打者顔負けのバッティングを披露しており、9人目の野手としても楽しみな存在です笑。
2.ピーター・ランバート投手の投球内容
続いてはピーター・ランバート投手の具体的な投球内容について見ていきましょう。
2024年にMLBで投じたボールは次のようになります。
2024年は7球種と多くの球種を投じました。フォーシームが最も割合は多く約40%。チェンジアップ25%、スライダーとスラーブの横変化系の二球種で計30%、カーブは4%とアクセント程度の使い方です。シンカーやカットは計測されているもののごくわずかでした。
フォーシームのアベレージは152.1km/hとMLB平均よりも速い群に入ります。シーズンの最速は156.1km/hでした。被打率は.315と今シーズンはヒットを多く打たれてしまいました。空振り率は11.7%で低く、MLBのプレイヤーが直球に強いことを留意する必要はありますが、比較的当てられやすいボールではありそうです。
なお、先発登板が多かった前年23年は平均150.0km/hだったため、NPBでの球速帯はこちらに近しい値になる可能性が高いです。スワローズの先発投手では最もアベレージが高いのは吉村投手の148.8km/h。それに次ぐ選手が左腕の高橋投手の146.4km/hだったので、ランバート投手がMLBと同程度の球速を出せればチームの先発の投げる球速帯としては上位に来そうです。
23年のサイスニード投手の平均球速が147.3km/hだったので、この数字は一つの目安にしたいですね。
続いては変化球。
2番目に多く投げているチェンジアップは平均140km/hと球速を伴ったチェンジアップになっています。被打率は.230と優秀で、空振り率38%も非常に優秀。23年もチェンジアップは有効な球種で、同年は20%だった割合を今年25%まで増やしています。怪我をする前から多く投じてきた信頼しているボールだとも言えます。
カウントに関係なく特に対左打者に多投しており、左打者には投球割合の45%とフォーシームを超える最も割合の多いボールです。対右打者には9%と割合少ないですが、こちらも被打率.231、空振り率40%と左右どちらの打者に対しても有効に使える球種でしょう。
続いてスライダー。平均139.9km/hと球速帯はチェンジアップとかなり近しいボールとなっています。被打率.340と多くのヒットを打たれ、空振り率も19%と本来もっと空振りを取りたいボールでしょう。23年に比べてスライダーは打たれやすく、空振りも取りにくくなっています。右打者に対しては30%近く投じていますが、カウント球としてゾーンに入れることを目的としているため真ん中近辺に投じられていることも多く修正が必要そうです。
スライダーよりも幅も落差も大きいスラーブは平均130.8km/h。スライダーとは10km/h近く球速も落としている分、変化量を増やしているボールで、被打率は.308と高めですが空振り率は27%と高い水準にあります。
球種の性質上、右打者に対して17%近く投じている一方で、左打者にはほぼ投げていません。右打者には特に2ストライクと追い込んでから投じる割合が30%近く、右対右でアウトローに狙って三振を取りに行く使い方をしています。
なお、このボールはbaseballsavant上では今年から計測されるようになっており、2023年には同系統のスイーパーが近しいシェアを持っていました。この球種の変化とデータから見えるランバート投手の努力の跡は後述します。
カーブは平均125.3km/h、球種割合は4%と少なく使い方としては追い込んでから見逃しを取るためにゾーンに投げるまたは目先を変えるためにボールゾーンに落とすの2つがあります。TJ手術前の19年には投球割合の13%を占めていましたが、ここ2年は3~4%台に減らしていることから負担のかかる投げ方だったのかもしれません。
カットボール、シンカーはいずれもごくわずかなシェアですが、前年には計測されていなかった球種です。今年のランバート投手の試行錯誤の一環だったのではないでしょうか。
打者に対する攻め方についてまとめましょう。
ここから先は更にボールの内容を深堀してみましょう。
ランバート投手が2024年に投じたボールの変化量をプロットしたものがこちらです。
フォーシームの平均変化量はシュート成分17cm、ホップ成分41cm。アームアングルが高いこともあり過去に来日してきた投手と比べてシュート成分はやや少なめで、回転数は2,235回転とこちらは平均的。バウマン投手のnoteでも書いたように、フォーシームの球質としては平均的なため、球速が150km/hを超えてもMLBでは弾き返されてしまうのが今のレベル感なのでしょう。
信頼度の高いチェンジアップの平均変化量はシュート成分30cm、ホップ成分16cm。過去に来日した選手と比べてシュート成分は少ない一方で落差は作れており、落ちるボールとして機能させることが出来るボールです。
NPBに来日した他の選手との比較を見てみましょう。ヤフーレ投手、DeNAジャクソン投手、オリックスエスピノーザ投手、これから来日するバウマン投手のフォーシームとチェンジアップの平均変化量をプロットしたのがこちらです。
やはり落差が強調される結果となりました。
それを叶えるのが回転数で、ランバート投手のチェンジアップの平均回転数は1,462回転。多くの投手のチェンジアップは1,700回転付近がアベレージで、先に挙げた投手の中ではヤフーレ投手の1,523回転が最も少ないものでしたが、それをも下回る回転数の少ないボールです。今シーズン空振り率が38%と高い理由もこのあたりにあるのではないかと思います。動画で見る限りサークルチェンジ型のグリップでしたが、ここはキャンプなどで注目したいですね。
続いてスライダーとスラーブ、この二つはまとめて書きましょう。スライダーの平均変化量はスライド成分10cm、ホップ成分2cmとMLB平均に近い変化量です。スラーブの平均変化量はスライド成分38cm、ドロップ成分17cmとこちらもMLB平均に近しい変化量となっています。
スラーブの方が球速は10km/hほど遅い分、縦・横の変化量ともにスライダーより大きい変化球で、空振りを奪えているボールである旨は先述した通りです。ただ、ドロップ成分はおおよそ20cm近くに集まっている一方でスライド成分は20cm~60cmまで広いレンジに散っており、精度の部分で課題も感じさせます。
ここで昨年2023年のランバート投手の変化量プロット図を見てみましょう。
少し上に戻ってもらって2024年のものと見比べると分かりやすいのですが、2023年→2024年での変化があります。一つは、2023年に投げていたのはスラーブではなくスイーパーとして記録されていること。もう一つは2023年に比べてスライダーの分布がドロップ方向に偏っていることです。
見比べるのも大変だと思うので、2023年のものの透過率を上げて2つの図を重ねてみました。
赤枠で囲っている部分が昨年のスイーパーと今年のスラーブのプロットになります。名称が変わっているくらいなので当然ですが昨年よりもドロップ成分が増え、スライド成分も今年のスラーブの方が大きくなっています。
なお昨年のスイーパーは平均球速133km/h、被打率.308で空振り率は19.8%でした。スイーパーが決して有効とは言えない球種だったため、このボールに改良を加えた結果が今年のスラーブへの変更だったのではないかという仮設が立てられます。
球速は僅かに落ちていますが、回転数は100近く上がり(24年スラーブ2,620回転に対し23年スイーパー2,540回転)、回転軸は15度近く変わっています。一般的にスイーパーはツーシームグリップで投げるボールで、より有効なスイーパーは球速を担保しホップ成分もあるという理解だったので、23年→24年のピッチセレクトの変化は納得性があります。
また、スライダーも少し重ね合わせた画像では分かりにくいですが、23年に比べて24年はドロップ成分が増えています。平均すると、スライド成分は1cmの差なのに対し、ホップ成分は24年の方が13cmも落ちており(23年ホップ成分15cm→24年ホップ成分2cm)、やはり球速の変化は僅かなのに対して回転数は100以上増えています。
しかしながらスライダーは昨年よりも被打率が上がり、空振り率も2%ほど悪化してしまいました。よりMLB平均に近づいてしまったことがその要因の一つかもしれませんし、ランバート投手のスライダーにはまだ改善の余地が残されていそうです。
最後の球種はカーブです。平均変化量はスライド成分15cm、ドロップ成分40cmと落差を作れるボールとなっています。回転数・回転軸など含めて似たカーブを投げる投手にはDeNAのアンドレ・ジャクソン投手が挙げられます。
このカーブも前年とは大きく異なる点があります。それは回転数で、23年は平均2,086回転でしたが24年は平均2,367回転と実に300回転近く回転数が増えています。
Rapsode Japan様のnoteでは回転数について、「ボールの変化量に影響を与える要素の一つ」と位置づけ、「球種を問わず、回転数が上がることで変化量が大きくなり、回転数が下がると変化量は少なくなる傾向」があると記載しています。
ランバート投手のカーブは回転数で言えば大きな変化があった一方、変化量としてはドロップ成分が5cm増えているもののスライダーやスラーブの時ほどのインパクトは見られません。
ただしアームアングルの観点で見ると、カーブ投球時のアングルは62度、他の球種は軒並み54度前後とカーブを投げる時だけ高いアングルになっている(こんなことまで分かるBaseballsavant凄すぎますね)ことが分かりました。これは回転数の向上と落差の増加に無関係ではないでしょう。
私の知識ではこうした事象を書くことと推測をするくらいしかできませんが、ランバート投手はこの1年で変化球の改良に取り組んできたことは見えてきたかなと思います。
3.ピーター・ランバート投手に求められる役割
最後に、ピーター・ランバート投手がスワローズで果たす役割についてですが、160万ドルという高額契約であることも含めて先発ローテーションに入ることは最低限の条件になってきそうです。
24年の新加入選手はヤフーレ投手、エスパーダ投手、ロドリゲス投手といずれも若く育成も視野に入れMLB実績は重視せず安価に獲得をしてきたスカウティングでした。今回は大きく方向転換し、バウマン投手に続いてランバート投手とMLB実績ある投手かつ球速面でも昨年よりもボリュームのある投手を引っ張ってきました。
来年オフに明言されている村上宗隆選手のポスティングを念頭に、来年勝負の年という位置づけにしていると思えば、ランバート投手に求めたい数字として、
▸ 一軍先発ローテに入り規定投球回到達
▸ 勝利数が敗戦数を上回る
▸ K-BB%が10%以上
の3つを挙げたいと思います。
比較対象になるのは今オフにスワローズを戦力外となり楽天入りが決まったヤフーレ投手。今年は129.1回を投げ5勝10敗、K-BB%は7.5%でした。これらの数字をすべて上回ることで初めて今年のオフのムーブとして丸になると言ってもいいのですが、かなりハードルも高い数字になってくるのでなかなか大変です。
実際の映像を見たところ、ランバート投手の投球は高めで空振りを取るような今のMLBトレンドに沿うよりも、ボールを低めに集め変化球の出し入れを得意にしているように感じました。この点はヤフーレ投手とも共通しています。
ヤフーレ投手はスワローズに入り、伊藤智仁コーチと石井弘寿コーチから低めに集めるスタイルに切り替えるよう助言を受け、シーズン中に次のように発言しています。
ヤフーレ投手は投球割合を見てもチェンジアップが最多を占めるなど、フォーシームに拘らない配球で1年目からスワローズの先発ローテーションに収まり成果を出しました。
こうしたNPB仕様へのアジャストはランバート投手の活躍にも直結するため、来日後にコーチやキャッチャー陣と積極的にコミュニケーションをとれる環境を作ることがチームに求められます。
今シーズン既存の外国籍投手4人のリリースで血の入れ替えを行いましたが、近年のマクガフ投手やサイスニード投手のような兄貴分が居ないという点では心許ない部分も。英語堪能な木澤投手や積極的にコミュニケーションをとる田口投手らの立ち居振る舞いも今年は注目ですね。
最後に、ランバート投手のコメントで締めましょう。
我々も神宮球場でお目に掛かれる日を楽しみにしましょう!!
Go, Peter LAMBERT!!