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簡単な数字で振り返る2024年東京六大学野球

こんにちは、シュバルベです٩(๑❛ᴗ❛๑)۶

今年2024年の東京六大学野球の数字を簡単に振り返り、年始の皆様のお暇つぶしになればと思います。

ぜひお読みください。

1.今年の東京六大学野球をチーム別の数字で見る

今年の東京六大学野球はなんといっても早稲田大学。春・秋の連覇は2015年以来9年ぶりの快挙でした。優勝回数も通算48回とし、これは六大学最多の数字です。

春・秋の順位表は以下の通り。

2024年春季リーグ順位表
2024年秋季リーグ順位表

以下、大学別に春と秋の投打の簡単な数字を見ていきましょう。


1-1.チーム別投手成績

まずは投手の指標を春と秋で比較しましょう。

主要な指標をまとめたのがこちら。

2024春季リーグ 投手主要成績
2024秋季リーグ投手主要成績

慶應義塾大学は春に比べて秋は防御率を1点以上良化、特に奪三振率K%が11.0%→20.8%と大きく上がっています。左腕エースとして台頭した渡辺和大投手の影響が大きく、限られた試合数である分、一人の力でチームの数字自体が変動することが分かります。

連覇を果たした早稲田大学は、春にリーグ1位の防御率1.57、秋も防御率2.14はリーグ2位と安定した投手力を見せました。K-BB%は2季続けてリーグ1位、特に秋の16.7%は直近2年間のチームで最も良い数字でした。

東京大学は2季とも防御率7点台で投手の弱みを露呈してしまいました。春は被安打と与四死球が多く、秋は被弾15が響く形となり、いずれのシーズンでもWHIPが2.00前後と1イニング当たりに2人はランナーを背負うという苦しい状況でした。

左右のダブルエースを擁した法政大学は、春季リーグこそ防御率1.93はリーグ2位で持ち味を見せたものの、秋は防御率2.95とリーグ4位に悪化。与四死球の少なさは1年通して強みとなりましたが、数字に対して勝敗が釣り合わない形となりました。

春秋ともにリーグ2位の明治大学は、秋に防御率1.91とリーグ1位。奪三振率は2シーズン続けて20%を超え、指標としても好成績を残しました。それでも早稲田大学には若干及ばず、1位には惜しくも届かない内容となっています。

昨年2023年は春秋ともに防御率4点台と投手に苦しんだ立教大学は、今年は2季続けて防御率2点台と投手陣の整備に成功。奪三振率は上位につけているチームと比べて劣っており、チームの更なる浮上には継続した投手陣の強化が求められそうです。


1-2.チーム別野手成績

続いては野手の指標を春と秋で比較しましょう。主要な指標をまとめたのがこちら。

2024春季リーグ 野手主要成績
2024春季リーグ スタメン打順別OPS
2024秋季リーグ 野手主要成績
2024秋季リーグ スタメン打順別OPS

昨秋の優勝時にはチームOPS.780と驚異的な打線を擁した慶應義塾大学は、春OPS.624、秋OPS.566と珍しく打撃面で苦しみました。打率面で二季続けて2割前半、特に秋はチーム出塁率が.261と3割を大きく割っています。三振率が20%前後と高く、アプローチ面でチームとして課題を抱える形になりました。スタメン打順別OPSで見ても2番以降の打者が満遍なく低調で、打順でテコ入れをするのにも限界があったと言えるでしょう。

早稲田大学は春・秋ともにチームOPS.750を超える強力打線を形成。いずれのシーズンでも四死球が三振の数を上回り、チーム出塁率が二季続けて.370を超えるアプローチの良さを見せました。スタメン打順別OPSで見ても1~5番に強力打者が並び、上位打線で点を取ることに長けていたことが分かります。

東京大学は春・秋ともにチーム打率は2割を切り、出塁率・長打率に関しては秋にむしろ悪化をしました。特に三振率が秋に29.7%とかなり悪い数字を出してしまいアプローチ面での課題を露呈しました。スタメン打順別OPSを見ても秋は4番以降の打者がいずれもOPS.500を下回るなど苦戦の様子が伺えます。

法政大学は春に比べて秋に数字が良化。チームOPSは春.658に対し秋.722で、内訳を見ても出塁率・長打率ともに上げることが出来ています。やや奪三振率は高めですが、四死球の率も高いという傾向は2023年と比べても同様のものとなっています。本塁打は年間17本でリーグ2位でした。スタメン打順別OPSでは秋に2~7番がOPS.700を超える強力打線を組めていました。

明治大学は早稲田大学同様に春・秋ともにチームOPS.750を超える強力打線を形成。特に長打率が2季続けて.400を超え、年間本塁打数19本はリーグトップです。スタメン打順別OPSを見てもいずれのシーズンどの打順も良い数値を記録しており、特に秋は宗山塁選手が戻ってきたことで打順の中に核が出来ています。

立教大学は春にチームOPS.570でリーグ5位から秋にはOPS.617と数字を上げることが出来ました。特に本塁打数が春は2本に対し秋13本と極端なパワーアップを見せています。チーム出塁率が2季続けて3割を下回り、打率も2割台前半とアプローチ面では継続して課題を抱えています。秋はスタメン打順別OPSで見ても上位打線の数字が良く、一方で下位打線は厳しい数字が並びました。


2.チームごとに詳しく数字を見る

大きなチーム単位の数字を1章では確認したので、次の章では個々のチームの中身を春→秋の変化で見ていきましょう。

2-1.慶應義塾大学

個人別の投手成績は以下の通り。

2024年春季リーグ投手成績
2024年秋季リーグ投手成績

今年シーズン前の段階でリーグで最もイニングを投げていた外丸東眞投手(前橋育英③)が春も54イニングと多くのイニングを消化しましたが、大学日本代表への選出やこれまでの蓄積疲労もあってか秋は4試合16.2イニングに留まり、9月30日の明大3回戦が最終登板となりました。

外丸東眞投手

昨秋に3試合で先発登板、神宮大会でも登板を果たした竹内丈投手(慶應②)が通年で不調だったこともあり、厳しい投手運用を迫られる一年でした。

秋に主戦投手となったのは2年生左腕の渡辺和大投手(高松商業②)。春までのピッチングとは打って変わって奪三振率28.4%と抜群の奪三振能力を発揮。与四死球率も秋に5.5%と非常に良い数字を残しており、防御率1.17で最優秀防御率のタイトルを獲得しました。

渡辺和大投手

クロスファイアに投げ間違わない強いストレート、落差のあるスライダーが左右関係なく有効なボールに。制球も良いですが、なにより平均球速が上がり、140km/h中盤をコンスタントに出せるだけの出力が生まれたことがこの秋の好結果につながっています。実は打者としても秋に18打席で5安打、5打点を挙げる活躍を見せ、投打に輝きを放ちました。

渡辺和大投手と同級生の広池浩成投手(慶應②)が秋は4先発。フレッシュトーナメントでは敵無しですが、リーグ戦では打者のレベルが上がり弾き返されるシーンも。それでも秋に18.3K%と奪三振能力は見られ、今後に期待がかかります。

チームのクローザー的役割を担ったのが前田晃宏投手(慶應③)。この秋に22年秋以来のリーグ戦登板と久しぶりに戻ってくると5試合連続無失点、その間に許した安打は僅か1本と圧巻の内容を見せました。自身最終登板となった法大1回戦で2被弾を浴びてしまいましたが、身体を左右のぶれなく使う力投型のスタイルでばねの強さを感じます。

右サイドの木暮瞬哉投手(小山台③)、左腕の荒井駿也投手(慶應③)、多彩な変化球をもつ小川琳太郎投手(小松③)の3年生リリーフ陣も秋は好投が目立ち、外丸投手の穴をチームとしてカバーしていきました。

今年は残念ながら4年生投手のリーグ戦登板は無しに終わりましたが、その分下級生が頑張り来年以降に繋がる一年になったのではないでしょうか。まだリーグ戦の壁に苦しみ、特に球速面で140km/hをコンスタントに超える投手がなかなか出てこない現状ですが、このオフにビルドアップした選手が出てくるかに注目です。



続いては個人別の野手成績(10打席以上)。

2024年春季リーグ野手成績
2024年秋季リーグ野手成績

年間通して安定した打撃成績を残したのは副将の水鳥遥貴選手(慶應④)。秋は自身初本塁打含む2本塁打、OPS.820と上位打線の核としてチームを引っ張りました。クローズアップされることは少ないですが、相手の隙をつく走塁が上手く盗塁もコンスタントに決めています。明治安田に進み、世代交代の一翼を担うのではないでしょうか。

水鳥遥貴選手

秋は全試合で4番に座った清原正吾選手(慶應④)は秋に3本塁打。序盤かなり苦しんでいましたが東大戦でセンター方向にヒットを放ってから復調し、慶早戦1回戦では4打数4安打の大暴れ。レフトへの打った瞬間のホームラン、そして父である清原和博氏へのポーズと実に華のある選手でした。

清原正吾選手

キャプテンの本間颯太朗選手(慶應④)は2シーズンとも打率1割台、ベンチスタートの試合もあり苦しい1年でした。同じ4年生では佐藤駿選手(慶應④)、古野幹選手(岸和田④)、斎藤快太選手(県立前橋④)ら下級生時から出場機会に恵まれ結果も出してきた選手たちがラストシーズンに本来の力を発揮しきれなかった点もありましたが、最終カードの慶早戦では2連勝。いずれも4年生の力が発揮され、有終の美を飾りました。

秋に目立った選手では吉野太陽選手(慶應③)。打率こそ.217ながらこの秋に3本塁打、引っ張った打球がライトスタンドへ吸い込まれていくような強打が魅力です。

吉野太陽選手

慶應高校が2023年夏に甲子園優勝を果たし、1年生として入ってきた今はチームの過渡期。春に14打席ながら打率.538を記録し秋には早くもチームの正捕手となった渡辺憩選手(慶應①)や、守備での好プレーが目立つ丸太湊斗選手(慶應①)へバトンを渡す形になります。

慶早戦では5番に座った中塚遥翔選手(智辯和歌山①)、春からセカンド・ショートの2ポジションを中心に出場を重ねる林純司選手(報徳学園①)ら系列校以外の有望選手も1年生で多く、来年以降主力を担う世代になりそうです。


2-2.早稲田大学

個人別の投手成績は以下の通り。

2024年春季リーグ投手成績
2024年秋季リーグ投手成績

チームの大黒柱は伊藤樹投手(仙台育英③)。スライダーとツーシームで横を広く使うピッチングスタイルで、春・秋ともに防御率1点台と六大学を代表する投手に。球速こそアベレージは140km/h前半ですが、リリースポイントが打者に近く、低いアームアングルから投げるボールは球速以上の速さに見えているのではないでしょうか。奪三振率も20%を超え、秋はWHIPが1を切るなどスタッツも十分。夏に大学代表に帯同した疲労もある中でこれだけのピッチングを見せたタフさも魅力です。

伊藤樹投手

2戦目の先発には宮城誇南投手(浦和学院②)が定着、春と比べて秋はほぼすべてのスタッツで良化するなど進化を続ける左腕です。四球を恐れず落ち球を続けるメンタルがあり、秋の奪三振率23.0%は他のチームなら十分主戦投手と言える投手です。

この秋に肘のトミージョン手術から戻ってきた田和廉投手(早稲田実業③)はまだ球速は戻り切っていないものの、スライダーとシンカーの落差は素晴らしく、秋に防御率0.96と欠かせない戦力に。データの知識も豊富で、早稲田スポーツのこちらの記事は野球好きなら読むべきです。

下級生では安田虎汰郎投手(日大三①)が緩急自在の投球で春・秋ともにリリーフとして大車輪の活躍。特に秋の明大2回戦では延長の11回・12回の2イニングを無安打3奪三振と圧巻でした。早慶戦2回戦ではリーグ戦初めての失点が決勝点となる忘れない試合に。来季以降への糧になることでしょう。

安田虎汰郎投手

越井颯一郎投手(木更津総合②)と香西一希投手(九州国際大付②)の両2年生も着実に場数を踏み、いずれも奪三振能力の高さを見せています。

惜しむらくは4年生の鹿田泰生投手(早稲田実業④)と中森光希投手(明星④)が厳しいラストシーズンになってしまったことではありますが、連覇の原動力となった投手陣を支えてきたことは間違いありません。



続いては個人別の野手成績(10打席以上)。

2024年春季リーグ野手成績
2024年秋季リーグ野手成績

1番尾瀬雄大選手(帝京③)から始まり8番石郷岡大成選手(早稲田実業③)までほぼ固定の並びを組むことが出来た強力な打撃陣。中でも主軸の4年生3人がそれぞれ役割を果たしてきた印象が強く残っています。

2番に小技に長けた守備職人の山縣秀選手(早大学院④)。そもそものポジションニング、守備範囲、様々な体勢から繰り出される正確なスローイングと守備面での貢献地が非常に高く、打撃でもミート力を発揮し三振をせずランナーを進めるバッティングを常に見せてきました。

山縣秀選手

3番には一発のある吉納翼選手(東邦④)。春3本、秋4本の本塁打を放つ長打力が持ち味で、ドラフトでは楽天イーグルスから5位指名。10月以降は不振に苦しんだものの、東大・法大との2カード4試合で15打点と荒稼ぎし好調時の手の付けられなさは圧巻でした。

4番でキャプテンの印出太一選手(中京大中京④)は春・秋ともに傑出した数字を残しています。特に春のシーズン17打点は印出選手の役割をよく表しており、ポイントゲッターとしての真骨頂を見せました。

印出太一選手

春の首位打者で常に安定して高打率を残す尾瀬雄大選手(帝京③)だけでなく、3年生の代ではこの秋に5番に座った前田健伸選手(大阪桐蔭③)がOPS1.000とチームトップの数字を残しました。春は打率.265、長打は二塁打2本だった所から、秋は打率.333、1本塁打含む長打8本とリーグ戦のレベルに慣れて打棒を発揮しています。

新チームのキャプテンに就任する小澤周平選手(健大高崎③)は春の序盤にセカンドに入ったものの、秋は全試合サードに固定。数字は春よりもやや落としましたが、安定した守備でチームに貢献しました。

鋭いタッグでゲームセットの小澤周平選手

この秋OPS.965の恐怖の8番打者石郷岡大成選手(早稲田実業③)は選球眼に優れ、12四球はチームトップタイ。リーグ戦最終版まで首位打者争いを繰り広げ、出塁率は5割を超えました。

今年の早稲田大学の打線は小宮山監督ならずとも理想的なもので、各個人が自身の役割を認識し、技術的にもその役割に応える打撃を1年通して続けてきました。11月の神宮大会では楽天からドラフト2位指名の徳山一翔投手に抑え込まれてしまったものの、2024年チーム印出太一は記憶にも残るいいチームだったと思います。


2-3.東京大学

個人別の投手成績は以下の通り。

2024年春季リーグ投手成績
2024年秋季リーグ投手成績

昨年は松岡由機投手鈴木健投手を擁し、秋は防御率4点台と過去10年を見ても最も良い数字を残していた投手陣。今年はこの二人の卒業もあり特に春は苦しみました。

新チームのエースとして期待された平田康二郎投手(都立西④)が春は5先発も防御率7点台、安打を続けられてしまうことが多く、秋にはリリーフに回る試合がお送りましたが防御率9点台と厳しい結果となってしまいました。

平田投手とともに昨年から登板機会を増やしていた鈴木太陽投手(国立④)は春に防御率9点台と苦しみ、秋も開幕戦でアウト一つも取れず交代と辛酸をなめてきましたが、明大2回戦で先発し7回2失点と好投。次の慶大2回戦では9回3安打1失点の自身初勝利が完投勝ちに。2024年のチーム藤田峻也での初勝利をもたらしました。

鈴木太陽投手

もともとはMAX140km/h中盤まで出せる大型の速球派投手という印象でしたが、今年の秋は100km/h台のカーブを交えるなど変化球を巧く使い、ストレートはファウルをとったり見せ球にするスタイルチェンジ。打っても10打数3安打と「東大の二刀流」の呼び名を最後のシーズンに遺憾なく発揮しました。

4年生投手では春にオープナーとして先発を任された長谷川大智投手(駒場東邦④)、秋に早大・法大を抑えた森岡舜之介投手(渋谷幕張④)のほか、大きく落ちるドロップカーブを得意とする中村薫平投手(堀川④)と春2試合登板の双木寛人投手(都立西④)がマウンドに上がりました。最終年で投手登録の4年生全員が登板できたことは良かったことの一つでしょう。

森岡舜之介投手

今年台頭したのが渡辺向輝投手(海城③)。春はリリーフで8登板、結果を残すと秋は先発に回りチームトップの36.1イニングに登板。明大1回戦で8回無失点とゲームを作り、法大2回戦で9回2失点の完投勝ち。他チームにも居ないアンダースローから繰り出されるボールで多くのフライを打たせて取るスタイルで、ランナーを出しても粘りのピッチングが光りました。

渡辺向輝投手

下級生では2年生の前田理玖投手(熊本②)、佐伯豪栄投手(渋谷幕張②)の両右腕と1年生左腕の松本慎之介投手(国学院久我山①)らが今後の東大野球部を背負う存在となる兆しを見せています。



続いては個人別の野手成績(10打席以上)。

2024年春季リーグ野手成績
2024年秋季リーグ野手成績

大きなトピックスとしては、昨秋の酒井捷選手(仙台二③)に続き24春・24秋と3季連続のベストナインを輩出したことです。

春は大原海輝選手(県立浦和③)が1本塁打含むOPS.838と打撃で奮闘。昨年までは三塁をメインとしていましたが、今年から取り組み始めた外野でも強肩を武器に活躍しました。秋は他チームからの研究もあり三振を大きく増やしてしまいましたが、リーグ戦終盤に復調の兆しは見せました。

大原海輝選手

秋は中山太陽選手(宇都宮③)が1本塁打含むOPS.817を記録。長身らしいリーチを活かしてた打撃は低めのボールに強く、春・秋通じて好成績を残しチームの主軸に成長。守備でも果敢なダイビングキャッチなど魅せる選手に。

中山太陽選手

この秋に大怪我から復帰した酒井捷選手とともに来年もベストナイン3人衆が外野に残るのは楽しみなポイントです。

4年生では副将の山口真之介選手(小山台④)が安定した二塁守備と豪快な打撃を見せ、同じく副将の府川涼太郎選手(西大和学園④)は春に1本塁打含むOPS1.000越えと打撃で目立ちました。主将の藤田峻也選手(岡山大安寺④)は2シーズンとも10打席の出場でしたがベンチからチームを鼓舞し、守備からなど試合の入りの難しいシーンでも存在感を示しました。

秋最終戦後のエール交換

多くの試合で4番に座った内田開智選手(開成④)は春秋通じて1打点だったものの、かなりツキに見放された印象でこれまでのどのシーズンよりも打撃の内容は良かったように思います。

来年のチームの主将となる杉浦海大選手(湘南③)は今年正捕手に定着、視野の広いプレーと強肩を武器に捕手として積極的にアウトを取りに行く姿勢が魅力的です。打っても春に1本塁打、秋は2勝を挙げたどちらの試合でも得点に繋がる安打を放ち貢献しました。

下級生では秋にショートのレギュラーを掴んだ小村旺輔選手(私立武蔵②)、法大戦でサヨナラのツーベースヒットを放った長打が武器の門田涼平選手(松山東②)らが目立ったシーズンとなりました。

惜しくも勝ち点には届きませんでしたが、2017年秋以来のシーズン2勝を挙げた重要な一年となりました。チームとしてのスタッツ面ではこれまでの各年と比べても平凡だったのですが、秋の接戦に持ち込んだ試合は投手がゲームを作り野手も足を使いながら効率よくワンチャンスをものにする展開でした。この東大の勝ち方については別のnoteでまとめたいと思います。


2-4.法政大学

個人別の投手成績は以下の通り。

2024年春季リーグ投手成績
2024年秋季リーグ投手成績

春・秋ともにエースは篠木健太郎投手(木更津総合④)。安定して20%前後の奪三振率を誇り、WHIPも1点台前半。下級生時と比べて球速面ではやや出ていない印象もありますが、140km/h台中盤でも指に掛かったボールは力強く高めでも空振りが取れていました。スライダー、カットボール、フォークと以前よりも制球が上がり、ボールが続いて四球を出してもすぐに切り替えられる修正力も上がったように思います。ドラフトではDeNAから2位指名を受け、来年からはNPBの世界に飛び込みます。

篠木健太郎投手

篠木投手と同じ木更津総合出身の左腕吉鶴翔英投手(木更津総合④)は自慢の制球力が今年は本来の出来ではなかった悔しい一年となりました。四球から崩れることはない安定感はありますが、厳しい場面で甘く入ったボールを痛打されてしまうシーンが多く、東芝で2年後のドラフト指名に向けて研鑽を積みます。

4年生では日本ハムから6位指名された山城航太郎投手(福岡大大濠④)が春は3試合登板に留まるも秋に7試合14.2イニングを防御率1点台。特に慶大2回戦では6回から延長10回まで5イニングのロングリリーフ。速いストレートに加えてカーブやスライダーで緩急をつけ多くの三振を奪いました。

山城航太郎投手

左の安達壮汰投手(桐光学園④)は1年通して場面問わずリリーフ登板を重ね、実に20試合に登板。春1点台、秋0点台と防御率にも好投ぶりが表れています。被安打が少なく、秋はやや不調に見える中でも投球フォーム含めた投球術で抑えるピッチングの妙を見せました。

安達壮汰投手

ここまで挙げた4人の4年生が春は全体のイニングの94%を投げたのですが、秋は吉鶴投手の不調もあり野崎慎裕投手(県岐阜商③)が4先発、1年生の倉重聡投手(広陵①)が5試合にリリーフ登板。ともに長いイニングを投げることは次年度以降への宿題ですが、来季に向けた経験を積むことが出来ました。

一方で、春に4年生以外で投げた宇山翼投手(日大三③)や永野司投手(倉敷商業③)らは秋にリーグ戦登板0。チーム内での序列の変化が春→秋の間に起こり、投手陣の厚みという部分でどこまで底上げできたのかは検証が必要そうです。

今年の投手陣は4人の4年生が好スタッツを残していただけにもっと勝ち星をつけてあげたかったというのが法政サイドからの本音ではないでしょうか。



続いては個人別の野手成績(10打席以上)。

2024年春季リーグ野手成績
2024年秋季リーグ野手成績

チームを牽引したのは春・秋共に最も多くの打席に立った中津大和選手(小松大谷④)。両シーズンで打率を3割に乗せ、出塁率は4割越え、ホームランも複数本、盗塁も1年で10個決めています。基本3番に座っていましたが、打順別OPSで見ると特に秋は1番打者が足を引っ張る形になっていたことを鑑みると、中津選手の打順を詰めても良かったのかもしれません。

中津大和選手

秋に5本塁打でリーグの本塁打王となった松下歩叶選手(桐蔭学園③)は秋だけで5つの打順でスタメン出場。秋序盤は絶不調でしたが、後半3カードで一気に状態を上げた修正力を見せました。

松下歩叶選手

主将の吉安遼哉選手(大阪桐蔭④)は昨年から正捕手としてマスクを被るも、秋に頭部死球の影響もあり中西祐樹選手(木更津総合②)に譲る形に。春の早大1回戦での先制本塁打、そして秋の慶大1回戦での代打本塁打など印象的な一打を放つ打力があっただけに万全であればと思わせました。

副将の武川廉選手(滋賀学園④)も春から秋にかけて安定して打撃で成績を残していましたがやはり怪我に泣く形に。主力の4年生のコンディションが整わず苦しい一年だったともいえるでしょう。逆に下級生時には怪我の多かった姫木陸斗選手(日大藤沢④)は年間通して出場を重ね率を残しました。

姫木陸斗選手と熊谷陸選手

こうした事情もあり、春と秋ではスタメン出場する選手のラインナップに変容があったシーズンでした。秋に起用されて最もブレイクしたのは首位打者に輝いた熊谷陸選手(花巻東①)。春は同級生の中でも中村騎士選手(東邦①)の次点という起用法でしたが、東大戦で3試合11安打の固め打ちでレギュラーを確固たるものに。バットコントロールの巧みさを見せました。

秋に中津選手から正遊撃手の座を奪い再度センターに戻させた石黒和弥選手(高岡商業③)の1番固定は、結果から見ると検討の余地が大きかったところはありますが将来性も含めた決断となりました。打撃面での結果はOPS.516だった一方で守備面は安定。特にスローイングの面で現チームの選手の中で最も安定していると言えるでしょう。

藤森康淳選手(天理②)は昨年セカンドを守るケースが多かったものの、今年は外野と一塁という新しいポジションで1年間出場。特に秋は慶大1回戦での自身初本塁打、同2回戦で延長10回にサヨナラ打と目立ちました。もっと走れてもっと守れる選手だとは思うので、スイングに強さが更に出てくると来季の主力を担う好プレイヤーに育っていくのではないでしょうか。

サヨナラ打の藤森康淳選手と称える選手たち

副将の西村友哉選手(中京大中京④)や内海壮太選手(御殿場西④)、鈴木大照選手(明徳義塾④)ら主力として期待されていた4年生が思うように出場や成績を残すことが出来ず、強力投手陣を擁しながらどこか投打が噛み合わない試合が続き勝ち点を伸ばせない。そんなもどかしさのある一年でしたが、野手に関しては現3年生以下の出場も多く来年こそ復興なるかというシーズンになります。


2-5.明治大学

個人別の投手成績は以下の通り。

2024年春季リーグ投手成績
2024年秋季リーグ投手成績

春・秋通じて強力な投手陣を擁することが出来ました。

春には髙須大雅投手(静岡③)が防御率1.38で最優秀防御率を獲得。スタッツ的にも30%を超える奪三振率と圧倒的なものがありますが、試合を見ていても試合中盤になっても安定して140後半のストレートを投げられ、高身長から投げ下ろすフォークやカーブとのコンビネーションが冴えわたりました。

髙須大雅投手

大学代表にも選出されたのも納得で遠征でも活躍をしましたが、一方でそこでコンディションを落とし、秋はシーズン途中に右肘痛で離脱。他チームであれば運用的にかなり難しくなるケースなのですが、明治大学はその逆境を乗り越えました。

年間通して先発として活躍したのは毛利海大投手(福岡大大濠③)。体格的には小柄な部類の左腕ですが、特にカーブが良く打者のタイミングを外すことに長けたピッチングは秋に進化を見せ、スタッツも大きく向上。髙須投手の不在の穴を埋めました。

卒業する4年生では日本ハムに指名された浅利太門投手(興国④)が春に先発起用も攻略されたことでリリーフに戻る誤算があったものの、秋は早大戦でのロングリリーフが記憶に新しく、奪三振率40%台を記録。

浅利太門投手

千葉汐凱投手(千葉学芸④)は貴重な左腕リリーフとして場面問わずフル回転し年間で17登板とハードワーク。今年までリーグ戦未登板の山田翔太投手(札幌第一④)もサイドスローから投げ込まれる強いシュート成分のストレートを武器に登板を重ねました。

1年生から出場機会に恵まれた藤江星河投手(大阪桐蔭④)がそのポテンシャルに対して4年時に成果を出しきれなかった点は1ファンとして残念な部分でしたが、分厚い明治大学の投手層を牽引してきました。

大川慈英投手(常総学院③)、菱川一輝投手(花巻東③)、松本直投手(鎌倉学園②)と150km/hを出せる馬力ある投手も多く揃い、来年以降も明治大学は常に六大学の上位に君臨し続けるだろうなと確信させる一年となりました。



続いては個人別の野手成績(10打席以上)。

2024年春季リーグ野手成績
2024年秋季リーグ野手成績

東京六大学野球に留まらずドラフト戦線、ひいてはアマチュア野球界の話題の中心に居たのが明治大学のキャプテン宗山塁選手(広陵④)。年初のトップリーグの侍ジャパン帯同に始まり、春先~春季リーグにかけて重なった故障、そして秋季リーグでの圧倒的な復活とドラフト5球団競合までの情報量の多さです。

宗山塁選手

秋季リーグでの打率4割に2本塁打は当然凄いのですが、何よりも60打席で三振1という点にこそ注目でしょう。これまでのすべてのシーズンでも三振が5個以内という圧巻のコンタクト力を誇ってきましたが、今年の秋は力強く振りながらそれでいてボール球にバットが止まるというスイングキャンセルを何度となく見ました。プロ入り後もこの点が最大の強みになるのではと思わせます。

早大戦での守備シフトをめぐる高度な駆け引き(週刊ベースボールをぜひお読みください!)も糧にNPBでも大活躍を期待しています。

4年生では1番センターの切り込み隊長の直井宏路選手(桐光学園④)が2季続けて打率3割越え。もともとは守備走塁を買われて早くからスタメンを勝ち取ってきましたが、明らかにボールへのアプローチが変わり甘いボールをしばくスタイルに。社会人でも即戦力として活躍する姿が目に浮かびます。

直井宏路選手

俊足で鳴らした飯森太慈選手(佼成学園④)は打撃面での打球方向の均一性から大胆な守備シフトを敷かれ研究され尽くした感があったものの、年間10盗塁は流石。

期待値が高かったもののリーグ戦出場機会に恵まれてこなかった横山陽樹選手(作新学院④)と杉崎成選手(東海大菅生④)がそれぞれ春の4番、秋の4番と主軸を経験したのも今後の進路先含めて楽しみな点です。

今年から正捕手の座を掴んだ小島大河選手(東海大相模③)は春・秋ともにチームの打点王。安定したOPSの高さは勿論、チャンスの場面での集中力の高さと最低でも犠牲フライを打ってしまう技術の高さは25ドラフトの目玉の一人になること間違いなしのバッターです。

小島大河選手

25年新チームの主将となる木本圭一選手(桐蔭学園③)も二塁のレギュラーをがっちりと掴み、得意のインコース打ちで秋に4本塁打。圧倒的な正遊撃手がいた中でこのポジションは津田基選手(近江②)、友納周哉選手(福岡大大濠②)、光弘帆高選手(履正社②)の2年生二遊間有望株との争いでしたが打力はもちろん球際の強さという守備でも木本選手が力を見せました(光弘選手はサードでレギュラーを取りましたが)。

直井選手・飯森選手で2枠が埋まる外野でレギュラーを取ったのが榊原七斗選手(報徳学園②)。小柄な俊足タイプだからと守備走塁に特化した道に行くのではなく、秋の2本塁打のようなパワーを見せて打力で守備位置を奪ったのは見事でした。

常に優勝候補、今年も投手・野手ともに戦力で見れば明治大学の優勝だって十分あり得ました(秋は優勝決定戦まで行ったのでそりゃそうなのですが。)。だからこそ明治大学は他チームから研究され、今年は早稲田大学に完全に丸裸にされた感がありました。

これだけの戦力ゆえに個の力に対するチームとしての対策を取られ、また逆に明治大学のチームとしての作戦の若干の単調さという点が今年2季続けて優勝を逃したポイントだったのかもしれません。改めて2025年は4冠を狙ってくるチームだけに、監督も変わる重要な1年になりそうですね。


2-6.立教大学

個人別の投手成績は以下の通り。

2024年春季リーグ投手成績
2024年秋季リーグ投手成績

2シーズンともチーム内の最多投球回は小畠一心投手(智辯学園③)。春の法大戦で初勝利を初完封で飾るとその後も好投を続け53イニングを防御率1点台。秋は右肘痛で終盤に離脱があれど、開幕カードの慶大3回戦で8回無失点、チームにとって8年ぶりとなる慶大戦での勝ち点奪取の原動力に。今年が始まる前はエース不在かに思われたチームの大黒柱となりました。

小畠一心投手

140km/h台中盤のストレートにフォーク、スライダーと落ち球もある割に奪三振率が10%台前半と低い点はドラフトイヤーを考えると伸ばしたいポイントです。

二戦目の先発には春は大越怜投手(東筑③)、秋は竹中勇登投手(大阪桐蔭③)が起用されました。ともに今年初勝利を挙げ、それぞれのシーズンで防御率2点台と力を発揮。長いイニングを投げることが次のステップとなります。

チームのクローザーに定着したのは吉野蓮投手(仙台育英③)。一年目から高い身体能力を武器に二刀流にも取り組んで来ましたが、今年は投手に専念。二季続けて奪三振は25%を超え、短いイニングであれば150に迫るストレートと鋭い落ちるボールを武器に圧倒出来ることを示しました。夏から秋にかけて身体も一段と大きくなり、見るからに重そうなボールを投げています。

吉野蓮投手

春は4年生右腕の沖政宗投手(磐城④)がリリーフメインながらチーム2番目のイニングを稼ぎました。しかし秋は開幕から故障離脱、ベンチにはユニフォームが飾られることに。その穴を埋めるように最終戦では初先発のマウンドにも登ったのが田中優飛投手(仙台育英①)でした。

このほかにも塩野目慎士投手(足利④)や朝井優太投手(健大高崎④)ら4年生ほか、ルーキーでは山田渓太投手(大垣日大①)まで年間で17人もの投手がリーグ戦のマウンドに立ったのは、今年から立教大学に加わったOBの戸村健次投手コーチの差配が大きいでしょう。



続いては個人別の野手成績(10打席以上)。

2024年春季リーグ野手成績
2024年秋季リーグ野手成績

春は2025年新チームのキャプテンに任命されることになる西川侑志選手(神戸国際大附③)が1人OPS.984の孤軍奮闘。10打席以上立った選手で打率3割を超えたのも西川選手のみで、本塁打も西川選手以外では菅谷真之介選手(市立船橋④)のみ。キャプテンの田中祥都選手(仙台育英④)も出塁率は.350を超えたものの打率は伴わず、チームOPSは.500台と貧打に苦しみました。

西川侑志選手

一転して秋はチーム13本塁打と長打力を武器に変貌します。

正遊撃手の座を獲得した小林隼翔選手(広陵①)がルーキーながら3本塁打、これまで打撃よりも守備の人として知られてきた柴田恭佑選手(東明館④)も3本塁打。東大一回戦では自身初のサヨナラ本塁打も放っています。

サヨナラ本塁打の柴田恭佑選手

秋季リーグ序盤から西川選手が不調に陥る中で外野のポジション争いは激化し、鈴木唯斗選手(東邦③)、桑垣秀野選手(中京大中京③)、山形球道選手(興南③)が打ちまくりました。

4年生では、3年秋にレギュラーを張っていた齋藤大智選手(東北④)も秋に復活、打撃の積極性が戻り打率.359と活躍を見せました。黄之芃選手(興南④)は早大2回戦で一塁守備も含めた攻守に活躍し、吉澤祐人選手(立教新座④)は明大3回戦で初本塁打を放ちました。

黄之芃選手

投手だけでなく野手も多くの選手が出場機会を得て、スタメンも調子のいい選手が起用される形で秋は好循環だったように思います。春も秋も2試合で終わることなく多くのカードで3回戦以降に縺れ、リーグ戦試合数は2季ともリーグ最多の15試合ずつ。

あと一歩のところで勝ち点を取れなかったという面もありますが、それだけ多くの選手が試合経験を積み、1点の重みを実戦で体感しているチームであるため来季こそは上位、優勝を狙えるチームであると思います。


3.さいごに

24年度の東京六大学野球を主に数字の面から振り返ってみましたがいかがでしたでしょうか。

触れられなかった選手も沢山いて申し訳なさもありますが、また2025年も東京六大学野球については記事で取り上げていきたいと思います。多くの卒業される4年生の皆さん、熱戦をありがとうございました。プロに行く方、社会人・独立リーグで野球を続ける方、一般企業に就職される方など進路様々ですがそれぞれの道でのご活躍を祈念いたします。

それでは良いお年を。


■出典


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