決意のサイド転向で何が変わった?大下佑馬の劇的ビフォーアフター
こんにちは、シュバルベです( ^ω^ )
シーズンは前半戦が終了し、スワローズは83試合を戦い貯金10の3位。昨年は41勝しかできず最下位に沈んでしまったチームですが、いい位置でオリンピック休暇明けを迎えられますね。
そんな今年の奮闘をブルペンで支えている選手の一人が今回の記事で取り上げる大下佑馬選手です。彼のこれまでの足跡と、今年の大きな変化をみていきましょう。
0.大下佑馬投手とは
大下投手の出身は広島県。崇徳高校を卒業後、亜細亜大学に進学しました。現DeNA山崎康晃投手とは同級生で、4年間で10試合に登板しました。社会人では三菱重工広島へ進み、2017年ドラフト2位でスワローズに指名されました。
指名当時、ドラフト候補として雑誌各社にはあまり取り上げられておらず、スワローズファンからも指名順位を疑問視する声もありましたが1年目から25試合43イニングに登板。
以前、私は【ドラフトにおける「即戦力投手」の基準】というnoteで「即戦力投手とは、プロ入り1年目に一軍で先発で70~80イニング、またはリリーフで30イニングまたは30登板を投げられる投手のこと。」と定義しましたが、大下投手はそれを満たしています。同年の即戦力投手基準付近の選手は次の通り。
該当者は3名しかおらず、大下投手は2017年のルーキーの中では即戦力として十分な働きをしてくれた選手のうちの一人です。
翌2019年も31試合に登板しますが、防御率は5点台と打ち込まれ、昨年は戦力外から獲得した今野投手や長谷川投手らスピードボールを得意とする選手に少しずつ出番を奪われる形でぐっと出場機会を減らし13登板。オフには背番号が15から64へ変わり、年俸も300万円の減額(推定)。
「力不足を感じましたし、ケガも多くして、まず競争の土台に立つことができなかったのが一番ですね。チャンスもらっても出し切れなかったです」
契約更改後の記者会見でのコメントの通り、チーム内の立ち位置を不安視されていました。
そんな中、今年のキーマンに挙げた慧眼の持ち主もいるのですが…
さすがですわ…。
流石にサイドになるとは思ってなかったと思いますが😂
1.今シーズンの足跡
おそらく熱心なスワローズファンでない限り勝ちパターンでもないリリーバーの前半戦の経過までは追えないと思うので、まずは時系列で大下投手の今シーズンを振り返っていきたいと思います。
1-1.打ち砕かれたスリークォーター
今年2021年は開幕二軍スタート。
3月28日に一軍昇格しますが、ビハインド時の登板でも失点が多く5月6日に抹消。この時点で7試合10.2イニングを投げ防御率5.06。リリーフとして短いイニングを任される立場では0に抑えて帰ってくる回数が求められますが、無失点に抑えた試合が2試合だけと役割を果たすことが出来ませんでした。
3月〜4月の成績はこちら。
ビハインドの場面での失点はチームの勢いをさらに削いでしまいます。4月18日のマルテ選手の本塁打などはその最たるものです。
シーズン序盤はアームアングルは真上〜水平の間40度ぐらいの角度で、いわゆるスリークォーターでした。被安打数が多く打者47人に対し13安打、2被弾と徹底的に打たれてしまったという内容です。
序盤の投球を悟さんのデータを基に見ていきましょう。
投球割合は次のようになります。
ストレートの割合が一番多いものの、シュート・スライダーなど左右の変化に加え落ちるフォークなど多くの球種を投げ分けています。多彩な変化球は大下投手の持ち味で、四死球も2つだけと制球力もある一方、ボールの強度が弱く各ボール満遍なく打たれてしまいました。
球種別ではストレートの被打率が高く、球速差の大きいカーブも打たれています。フォークは空振り率50%を超えているものの被弾1本を含め被打率は.250あり、ボールゾーンのスイング率も33%と決め球とはなっていません。
リリーフとして出場する立場を考えると球威不足が目立ち、決め球に欠ける。そんな序盤の投球内容だったと言えます。
1-2.戸田から届いた変化の兆し
5月6日の抹消後、二軍の戸田球場のマウンドを踏んだのは5月18日の西武戦でした。そこで大下投手の変化に一部のファンは気がつきました。
大下がサイドスローになっている。
そう、この日から大下投手はアームアングルを下げほぼ地面に水平にまで下げるようになりました。
今年の戸田の投手コーチは尾花投手ヘッドコーチ、小野寺コーチ、松岡コーチの3人体制です。交流戦で150km/hをマークした大西投手を送り出したり、高卒1年目の嘉手苅選手や下選手が早くも実戦登板を果たしパワーアップした姿を見せるなど成果を上げている二軍スタッフですが、大下投手に関してシーズン中にアームアングルを変えるという大きなチャレンジに取り組みました。
以降の二軍戦での登板は次のようになります。
5/18 1回1安打無失点(8球)
5/28 1回1安打無失点(20球)
5/30 2回3安打2失点(25球)
6/2 1回1安打無失点(13球)
6/5 1回無安打無失点(8球)
6/9 1回無安打無失点(5球)
6/11 1回無安打無失点(8球)
5月30日の試合では失点を喫するものの、6月に入ってからは4イニングで許したヒットは1本だけ。終盤3試合は球数も1桁台でフィニッシュする完璧な内容でした。
戸田での”魔改造”はここで終わり、交流戦明け間もない6月20日に一軍復帰を果たすことになります。
1-3.新生・サイドスロー大下佑馬
約1ヶ月半の時を経て一軍に合流した大下投手。
今年、スワローズのリリーバーは厚みを増しており石山投手の不調や近藤投手の離脱があってもリリーフの防御率3.30でリーグ2位につけています。勝ちパターンには石山投手が抜けた後も、今野投手・清水投手・マクガフ投手と強力な速球派が揃い、さらに大西投手や梅野投手も控えていました。
必然的に大下投手の役割は、ビハインドでの登板や先発が崩れた時のロングリリーフに限られていきます。
大下投手の復帰初戦は6月25日のジャイアンツ戦。6点ビハインドの9回にマウンドに上がりました。打者3人を無安打ピッチング。丸選手からは三振を奪うなど上々の復帰戦となりました。
登板を重ね少しずつファンからもサイドスローになった大下投手に注目が集まり始め、そのチャレンジの成果が最も出たのは前半戦最終盤の7月6日週でした。
私が毎週書いているweekly MVPにも選んだのですが、7月10日の広島戦で原樹理投手に代わり緊急登板で出場。ほとんどブルペンで準備することなく(この日現地でしたが原投手の退場後、5球ぐらいしか投げていなかったはずです)マウンドに上ると、後続を打ち取り2.1回を無失点で投げ切りました。
普段、大下投手の記事はとても少ないのですが、この日は高津監督が激賞してくれました。
(急きょ登板した2番手・大下が2回3分の1を無失点でつないだ)すごく大事なポイント。ビハインドでも中盤にゲームを締める役をやっている。意外と難しいが、よく頑張ってくれている。彼のいいところを引き出してあげたい。
(2021年7月10日付スポーツ報知より)
実は大下投手と高津監督は小中大と出身を同じくしており、今やサイドスローという共通点もある、という豆知識をこのnoteをご覧になった方には授けておきます笑
抹消された時には5.06だった防御率は現在2.82。6月・7月の成績は以下の通り。
フォーム変更前と比べると、K%・BB%・HR/9・whipと全ての指標が良化しています。
昇格後、7試合で失点を喫したのは1試合のみと抜群の安定感を見せるNEW大下投手。ビハインドで崩れない点は賞賛に値し、他の投手の登板過多を確実に防いでいます。今そこにある役割を果たすサイドスローの仕事人。それが今の大下投手です。
さて、振り返りも終わったので次は具体的な変化を見ていきましょう!
2.大下投手、何が変わった?
ここで新生・大下投手のデータを見てみましょう。6月の昇格後の球種割合は次のようになります。
目立つのはシュートの割合ですよね?
序盤のスリークォーターの時には10%台だったシュートの投球割合は、この1ヶ月で左右関係なく20%台となっています。球速は下がったものの、ストレートとシュートの球速帯は変わらず完全に被っています。序盤に15%程度投げていたカーブは極端に減り、球速帯はほぼ2分されました。
さらに投球マップを見てみましょう。
右打者に対してはインに食い込むシュートと外に逃げるスライダーでベースを広く使い、左打者に対しては外に逃げるスライダーとフォーク、バックドアスライダーで外の出し入れというスタイルを作り出しました。
こうした投球の変化により、各球種のスタッツは次のようになりました。
被打率は.150と大きく下がり、特にストレートとスライダーはヒット0。右打者相手に投げなくなったフォークは左打者に捉えられているものの、ボールゾーンのスイング率は64%。序盤戦が33%だったことを考えると、多くの打者に手を出させています。割合を増やしたシュートもストライクゾーンに50%以上集めている割に被打率.250と成果が顕著に出ています。
空振り率は軒並み下がっていますが、左右に変化するボールを使いここまで被打率が下がっているということはいかに詰まらせたり引っ掛けたりさせる打たせて取るピッチができているかを表しています。
腕の位置に関しては既に引用した2つの動画を比べてみれば一目瞭然です。
こうして比べると腕の高さだけでなく、グラブの位置とそれに伴う左肩〜右肘までのラインがサイドスローの時の方が揃っていることが分かります。サイドスロー投手らしく胸を張って腕が遅れて出てくるように見えているのではないでしょうか?
現在、1.02 Essence of Baseballによれば大下投手のwFT(2シームによる失点増減の合計)は1.9とプラス指標、wSL(スライダーによる失点増減の合計)も1.0とプラス指標。昨年は−3.0と−2.0だったので、マイナスからプラスに転じることができました。恐るべきサイドスロー転向による成果でしょう。
3.なぜサイドスローにしたのか?
ここまで大下投手の変化を見てきましたが、そもそもなぜシーズン中にアームアングルを変えるというリスクを冒してでもサイドスローにしたのでしょうか?ここからはインタビューやデータで出ている箇所ではないので完全に自分の仮説ですが笑。
次の3つが理由だと私は考えています。
・既存投手との差別化というチーム戦略
・シュート習得実績に基づく投手育成プラン
・そもそも大下投手は器用な投手だった
順番に見ていきましょう。
①既存投手との差別化というチーム戦略
今年のスワローズのリリーバーは右投げオーバースローの速球派が揃っています。
セットアッパーの清水投手や現クローザーのマクガフ投手をはじめ、今野投手、梅野投手など。軒並み150km/h前後のストレートを持ち力でねじ伏せるタイプの投手陣ですが、揃ってオーバースローで持ち球も似ている選手たちです。左投手は坂本選手しかおらず、いつ誰が出てきても球は速いが似たような選手が続くなぁという印象はありますよね?
そんな中で速球で押せるとは言い難い大下投手のスリークォーター時代は相対的に劣化しており、そこでチームとしてリリーバーのバリエーションを増やすという意味でサイドスローへの転向を勧めたのではないでしょうか。
過去のスワローズの投手を見ても、現監督の高津、林昌勇、館山、秋吉など多くのサイドスローが活躍をしてきました。球団としてのノウハウ、マウンドへの適性といった点も鑑みて、サイドスローへの転向はリスクと天秤にかけた上でなおプラスになるという判断だったのではないでしょうか。
②シュート習得実績に基づく投手育成プラン
今年のスワローズで"シュート"といえば近藤弘樹投手が真っ先に頭に浮かぶでしょう。
スワローズ投手コーチに戻ってきた伊藤智仁コーチが2019年から当時楽天に所属した近藤投手に教え始め、入団とともに改めてシュートを極めさせた結果、投球の半分以上がシュートとなりました。怪我で離脱するまで近藤投手の防御率は0.96。
楽天時代も投手全員にシュート習得指令を出したとされる伊藤コーチ。現役時代はスライダーで名を馳せましたが、その実多彩な変化球を投げる器用さこそ真骨頂で対となるシュートボールの有効性をよく知っているからでしょう。
元スワローズの増渕投手がnoteで次のように語っています。
一般的な智さんのイメージって、「良く制球された速球」と「消えるように曲がる高速スライダー」のコンビネーションですよね。実は智さんはどんな変化球でも投げることができます!カーブ、フォーク、シュート、ツーシーム、ナックル…おそらく投げられない球はないでしょう。智さんは正に生きる教科書という言葉がよく似合う投手コーチでした。
(伊藤智仁さんとの想い出より)
大下投手にとって一軍に伊藤コーチが戻りシュートの投げ方など教わっているとするならば、これは1つのファインプレーですよね。
③そもそも大下投手は器用な投手だった
大下投手はこれまでも入団以来投球フォームを変えてきました。ルーキーイヤーで結果を出した2年目、二段モーションにチャレンジ。
結果的にシーズン始まってからはうまくいかず、中盤にモーションを変えましたが周囲の言葉を聞き常に進化を目指して試行錯誤する様はグッとくるものがあります。
私が最後に見にいった2020浦添キャンプでは当時27歳の大下投手が20歳の梅野投手に変化球の投げ方を聞いている姿を目にしました。年齢関係なく貪欲に吸収しようとする柔軟さと、それを投球練習に活かせる器用さは唯一無二のものではないでしょうか?
また、このキャンプでは「キレダス」という新しい器具にもチャレンジ。
フォームも練習方法も、あらゆるチャレンジを繰り返せる器用さが今のサイドスロー転向を後押ししているのではないかと思っています。
4.今後の展望
ここまで大下投手の変化を見てきましたが、いかがでしょうか?
チームとしてはサイドスローという変則が加わったバリエーションの追加は大きく、ここにきて結果も残しているので後半戦は急場でのワンポイントもあるように思えます。後半戦リリーバーの誰かの調子が落ちれば大下投手のリリーフA組入りもあるのではないかと思います。
なにより、背番号が大きくなって崖っぷち感ある選手がアームアングルをシーズン中に下げて一軍で活躍しているという決意に心からの賞賛をしたいですね。
さらに、サイドでシュートの磨きをかけれた育成実績はチーム内にも波及しうるものです。
7月20日、前半戦最後のイースタンでのスワローズVSジャイアンツの試合で登板した蔵本投手がサイドスローとなって登場したのです。ちなみに蔵本選手は大下選手の次に2017ドラフトで指名された同期なのもエモいですね。
元々蔵本投手はツーシーム系のボールが魅力のパワーピッチャーですが、制球難に苦しみなかなか一軍のマウンドには登れませんでした。しかし、リリーバーにとって1つ絶対的なボールがあれば一軍は近づきます。蔵本投手にとってそれはシュート・ツーシーム系のボールであり、大下投手という成功例を生み出した今、よりシュート成分の強くなるサイドスローへの転向というのは合理的な判断ではないでしょうか?
今シーズンだけでなく、中長期を見ても大下投手のサイドスロー転向は大きくあって欲しいなぁと思いますね。後半戦、大下投手のさらなる奮闘に期待がかかります。
今回、悟さんにデータ集積面で多大なお力添えをいただきました。急な要望にも即座に答えてくれて菩薩かと思いました。本当にありがとうございます!!
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