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OMat24の応用例①:クルチウス転移

1. はじめに

前回までの記事において、ニューラルネットワークポテンシャル力場の一つとしてここ数週間にわたって急速に注目を集めている、OMat24による構造最適化とその妥当性検証を進めてきた。2022年にOCPを用いた当時の記憶※も新しい私としては、汎用ニューラルネットワークポテンシャル力場と言いつつどうせすぐに馬脚をあらわすことになるだろう、と思いながら色々な意地悪を試してきたのだが、ところがどっこい意外なことに、ここまで種々の(特に、単なるバルク結晶から逸脱した)構造に対して、プリファードネットワークスとENEOSにより開発されたPFPによる計算結果や、DFTによる計算結果に照らしても、少なくとも相対値として使う範囲においては実用性が一定程度(この一定程度という表現には広義性が多分に確保されている点に注意されたい。そうでもしないと様々な方々にお叱りを受けかねないため)期待される、という結果を得た。
※OCP(OC20, 22)を使ったシミュレーションを行っていた当時は、構造最適化をかけると原子がふわりと浮かんでいく、という摩訶不思議な挙動が見られていました。

これまでOMat24を用いて取り扱ってきた構造の抜粋。バルク結晶構造の安定点とかなり異なる構造に対しても、実験的事実と照合して議論できる結果が得られた。

ここまで使えるとなると、さらに意地悪がしたくなるのが人情。ということで、今回はとうとうこれまでの記事において「使うには少し勇気がいる」と評していた、反応解析に手を出すことにした。

2. 対象とした反応:クルチウス転移

今回はクルチウス転移反応を対象に反応経路解析を行った。正直な所、ほぼすべてのスクリプトをプリファードネットワークスによるAtomic Simulation Tutorialsに依拠したため、反応経路解析について今更説明をするのは二度手間を避ける観点から省略することにする(上記リンク先の教科書は日本人にとって、ASEの公式ドキュメントよりも読みやすいのでお勧め)。

3. 計算結果

のっけから結論で恐縮だが、こちらがOMat24にて計算したクルチウス転移の反応経路解析結果である。


OMat24によるクルチウス転移の反応経路解析結果。左側に見える峰が遷移状態であり、この峰の高さが活性化エネルギーに相当する。

続いて、同じ計算をPFPにておこなった結果を示す。

PFPにて計算したクルチウス転移の反応経路解析結果。

正直なところ、ここまでPFPの結果を再現するとは思っていなかったので驚きである。活性化エネルギー、また反応エネルギー変化についてもほぼトレースが出来た。

続いてアニメーションを示す。これまた教科書にあるとおりの絵姿であった(ジョーンズ有機化学を15年ぶりに引っ張り出すことに…)。

OMat24を用いて計算したクルチウス転移反応のアニメーション。

4. まとめ

OMat24は今回も私の予想を裏切り、反応経路解析についてもPFPの結果をある程度再現することが分かった。ここまで来たら私も意地なので、次回は不均一触媒上における反応経路解析を行い、PFPとの比較検証を行うこととする。

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