外国人採用でU-NEXTが尽力した、手法、制度、文化──『HR PORT 戦略人事の最前線』
現在U-NEXTでは社員の2割ほど、60〜70名が外国籍の方です。エンジニア・デザイナー職に絞って言えばその割合は半数近くにものぼります。かつ、元々は日本人がほとんどだったところを、ここ5年弱で大きな変化を遂げ現在の姿になりました。
昨年末、この「外国籍人材」について、戦略人事の最前線をお届けする専門情報番組『HR PORTー戦略人事の最前線ー』に取り上げていただきました。本記事は、U-NEXT事業企画担当部長 兼 タレントアクイジション担当部長の柿元崇利がお話しした内容を、一部記事用に編集を加え、書き起こしたものです。
“外国人採用”は、結果でしかない
植本:HR PORT 司会の植本です。本日は株式会社U-NEXTで採用責任者をされている柿元崇利様にお越しいただきました。はじめに、簡単に自己紹介をお願いします。
柿元:柿元と申します。有料動画配信サービスU-NEXTを展開している株式会社U-NEXTで採用の仕事をしております。今回お呼びいただきありがとうございます。
植本:よろしくお願いします。NetflixやAmazon Prime Videoなどが競合にあたるところでしょうか。
柿元:ど真ん中の競合ですね。なぜこんなに強い企業と戦わなければならないのかと、理不尽さを感じるほど厳しい市場です。
植本:そんな中、今回は柿元様に外国人採用について重点的にお伺いしたいと思っております。今、U-NEXTではかなり外国人の採用に力を入れていらっしゃるとお聞きしています。どのような状況なのか教えていただけますか。
柿元:「外国人の採用に力を入れている」というよりは、国籍や育ってきた環境にとらわれず、業務を遂行するにあたって一番可能性の高い方を探しており、結果的に外国出身の方や日本国籍でも海外経験が長い方などが集まった——という順番だったりします。
植本:そうなんですね。ではもともと外国人採用比率を高めていこうということで始まったわけではなかったと。
柿元:一切そうではないですね。
植本:外国人の方が増えていくきっかけが何かあったのでしょうか。
柿元:エンジニアの採用が始まりです。現在、U-NEXTのプロダクト開発は完全にインハウスで設計〜開発までをまかなっています。ただ、私が入社した7年前頃は基本外注が中心。メンバーもほとんど日本人で日本語以外の言語が飛び交うこともほぼない環境でした。
そこから、内製化へシフトしようとエンジニアの採用を進めたのですが、ご存じの通り、日本語でコミュニケーションができエンジニアとしての経験や能力も申し分ないという方は、本当に数が少ない。IT系の企業は各社が直面している課題だと思いますが、需給のバランスが明らかに崩れています。
かつ、今でこそ多少マシになってきた感はありますが、当時のU-NEXTは知名度もブランドイメージもまったくない。「選ばれない企業」でした。
そんな時、現CTOで中国出身のRutong Li(ルートン・リー)が前職の外資系企業からチームごと転職活動をしているという話がU-NEXTの耳に入りました。当時の私はそこまで採用にコミットする立場ではなかったですが、現・代表取締役の堤や当時の人事責任者が尽力し、快適に働ける環境を用意する前提のもと、U-NEXTへ来てくれないかと誘ったんです。
ルートンたちは日本の会社で働くのは初めてだったんですが、結果的にはうまく馴染むことができました。彼らは、日本語・英語に加え人によっては中国語もビジネスレベル以上で話せます。それもあって、他の外国籍の方や日本語が少々苦手な方でも受け入れられる環境が、徐々に整っていきました。
そこからしばらくの間、採用活動の中で私たちが是非当社で働いて欲しいと考え、先方からも選んでもらえたのが、たまたま「外国籍の方の割合が圧倒的に多い」という状況が続いてきているという感じです。
「疑問」をとにかく紐解いていく
植本:ありがとうございます。先ほどのお話の中で、「環境づくり」という言葉がありました。外国人の方を受け入れるにあたり、どのような環境を整備されたのでしょうか。
柿元:とにかく「疑問を解消する」ように尽力しました。というのも、外国籍で日本語を日本語ネイティブの人と同じくらいの精度で読んだり、内容を理解したり、理解した内容を行動まで落とし込めたりするという人は決して多くありません。これは当然だと思うんです。
逆の立場になれば、想像しやすいかと思います。例えば私が明日から中国に行って、中国語しか情報がないとします。社内規則や社内文書を頑張って読んでも、その文面にはない、行間——つまりその場所に根ざした風土や習慣、常識から推測されるものはどうしても知り得ません。あるいは、書かれていたとしても“額面通り”に受け取ると誤解を招くといったこともあったりするでしょう。
特に、日本の契約書は難しい言葉が並びます。就業規則ひとつとっても、日本人でさえあまり耳にしない言葉が並ぶので、「読めるけど意味はよくわからない」というのもあるでしょう。
そういった文書をまずは別言語に展開する。時間もコストもかかるので躊躇されるかもしれませんが、まず最低限はやっておく。その上で、当初は一つ一つの質問に、担当者や責任者が一生懸命答えていきました。
主語が大きくて恐縮なのですが、一般的に日本人は空気や常識を共有している間柄であれば、質問することをあまり良しとしない部分もあるかと思います。でも国もカルチャーが違えば、「少しでも疑問に思ったらとにかく質問する」のがよしとされることもある。
一方、私を含め、一般的な日本人は質問されまくる状況にはそんなに慣れていないんですよね。質問をされまくると、若干責められている気になったり、ちょっと気に食わないから質問という形で自分の意見を言っているのではと思ったりする。
ですが、彼らは単純にわからないから、疑問に思っているから聞いている。それを理解し対応することに、当初はさまざまな人が苦心しました。
外国人採用を後押しした二つの要因
植本:外国人で優秀な人が欲しいと思うだけでは当然人は来ません。U-NEXTではどのようにその人材を集められたのでしょうか?
柿元:これは私たちから見えているところとそうでないところがあるので一部は推察になりますが、大きく二つ要因があると考えています。
一つはコミュニティです。エンジニア職で外国籍で、日本で働きたい人はそこそこ数が限られているんですよね。そして、その人たちの間にはコミュニティがあることが多い。我々も逆の立場を想像したらイメージがわきますよね。
U-NEXTに入ってくれたエンジニアの人も、そういうコミュニティで情報交換をしていたりする。「この会社に入ったんだよ」「実際のところどうなの?」とか「入ってみたら思っていたよりもずっと良かった」ないしは「いまいちだった」といった情報が自然と共有されていく。私たちの場合、おそらくそこでポジティブな評判をたてることができたのだと思います。
これは採用担当が良かったから、現場がよかったからといった一側面でなし得たものではなく、会社の総合力だと考えています。実際、外国籍の方ないしはエンジニアが働く上で、本来の仕事に集中できなるべくストレスが少ない環境を整えようと私たち自身腐心してきました。それがよい意味で影響してくれたのではないかなと。
例えば、インドの方が入社後半年ほどで活躍するようになったのですが、その頃からインド出身の方の応募がすごく増えたんです。これはやはりコミュニティの評判の力かなと感じました。
もう一つは、紹介会社(転職エージェント)の存在です。会社さんによっては利用する選択肢に入らない場合もあるかと思いますが、私たちは紹介会社さんにとてもお世話になっており、その方々から推薦いただけたことで採用が決まるケースが多いんです。
これは間接的に伝わるからこその力だと思っています。自分たちのことを「こんなにいい会社なんですよ」と言っても、聞き手は話半分に聞きますよね。一方、第三者が複数の情報を持った上で「あなたの知っているA社、B社、C社を受けている人がU-NEXTも受けて、最終的には入社したんですよ」「しかも、入社後に話を聞いたところ、いい会社だと言ってるんです」と伝えたら、受けるだけ受けてみるかとなるかも知れない。
そういった第三者の目線を活かした紹介会社の方々に支援いただけている。同時に、私たち自身お力添えいただけるような環境と関係性を構築する努力をしてきています。
外国人採用は「基本メリットしかない」
植本:では、次に定着について伺わせてください。いざ採用した後には何に気をつければ良いでしょうか?
柿元:難しい質問ですね。ケースバイケースだと思いますが、重要なのは「最初に入る方」だと思います。ようは、最初に入った方にそのあと入社する方々の手助けをしてもらえるか。あるいは、そうしたいと思うような状況がつくれるかです。
やはり餅は餅屋で、日本の文化に染まりきった日本人では、いくら努力しても「そうでない人たち」の気持ちを本当にわかりきるのは難しい。そのとき、複数の価値観を知っていて、外国人の価値観を伝えたり橋渡しをしてくれたりする人が重要になります。その役割を、一人目の人のミッションや評価対象などで定義できたりすると、成功確率が上がっていくのではないかと思います。
植本:ありがとうございます。外国人の方を組織に入れていく上では、良い面/悪い面が存在するのではないかと思います。柿元さんは、メリット・デメリットをどのように捉えていますか?
柿元:私は基本メリットしかないと考えています。採用できる人たちの母数はそれこそ10倍、100倍に増えるわけですから。だた、これは私自身がそこまで流暢ではないものの、英語をそこそこ話せたり読めたりするからというのもあると思います。この環境で鍛えられた側面も大きいですが、少なくともコミュニケーションに困ることはあまりない。なので、日本語は得意だが英語や中国語は全くという方では、感じ方は異なる可能性はあります。
強いてあげるなら、従業員同士の競争といった視点では、ライバルのプールが大きく広がるという面はあるでしょう。私も安泰ではなく、精進しないと自分より優秀な人は世界中いくらでもいる。そういう競争環境がより厳しくなるという意味では、デメリットがあるのかもしれません。
ハレーションが起こるのに“国”は関係ない
植本:もともといた方たちとの間でハレーションは起きましたか?企業さんはそこが結構気になるのかなと。
柿元:なかなかお答えしづらいところではありますが、ギクシャクする部分は少なからずあるでしょう。ただ、これもおそらく“外国人だから”ではないと思います。
例えば私が、一社にずっと勤め上げていて、忠誠心も高く、一生この会社で働きたいと考え、自分の業務はこれと確立した人間だったとします。その人からすると、中途で入ってきた人が明らかに優秀で活躍していたら、それなりに思うところがあるでしょう。
「国籍」は仲間意識を持つ上では非常に大きな単位なので、自分の存在を脅かすかもしれない人の国籍が違うと、それが要因として捉えられやすい。ハレーションとまでは言わなくとも、それを理由に挙げぶつかることはあるかもしれません。
ただ、最後は経営判断だと思います。会社自体も様々な競争環境に晒されている中、社内がモヤモヤするかもしれない選択肢をどう捉えるのか。もちろん、それを避けて今まで築き上げた価値観の延長線上で勝負するのも優れた選択肢の一つだと思います。
一方、我々の場合、冒頭申し上げたように競争環境がシビアと言いますか、ライバルがグローバルのトップクラスにいる企業ばかり。このマーケットで戦うには、それなりの選択をしなければいけません。
事業をつくる人の国籍が日本であることをどれくらい重要視するかと問われたとき、少なくともU-NEXTは、「国籍は気にしない」という選択をとったかたちです。
U-NEXTは「ボーナス」をやめた
植本:ありがとうございます。海外で働かれていた方が転職してくるケースも多いと思います。国ごとに制度設計や働き方に違いがあると思いますが、それを受け入れる上で、ギャップを感じた部分はありましたか?
柿元:我々の場合、いっても外国籍の方の数は数十人後半規模なので、まだその差を感じる機会はないですね。
植本:評価制度や給与面の制度設計は、皆さん馴染まれますか。
柿元:それでいうと一つだけ、U-NEXTが会社としてそれなりのエネルギーと労力を使って変えたものがあります。「ボーナスをやめること」でした。基本給のみ。業績の上下にかかわらず、その金額は補償されるという形です。
もちろん、これには良し悪しがあります。私も転職経験が何回かあるのでわかるんですけど、転職するときに「ボーナスが200万出る」と言われると200万円をもらえる年収を想像するじゃないですか。ある会社が例えば600万円+ボーナス200万円で、U-NEXTはボーナス無し700万というと、単純比較では800万 vs 700万になる。これをどう評価するかは人によると思いますが、それでも我々はボーナスをやめました。
その大きな理由は、日本のボーナス制度が海外のそれと大きく異なるからです。私も全世界を網羅して知っているわけではないですが、例えばアメリカの金融機関やコンサルの場合、ボーナスは「すごく儲かったとき特別にもらえるもの」なんですね。あるいは、営業職だと想像しやすいですが、「明確な目標数値を大きく上回って達成したときにもらえるもの」だったりする。
ですが、一般的な日本のボーナス制度は大体の場合払われます。数ヶ月分と大枠の金額も決まっていて、時期も大枠決まっているので、みんな「入ってくるもの」だと思っている。でも制度上はすごく簡単に金額を変更できるんです。取締役の人たちが、「今期は辛かったからボーナスゼロ」って言ったらすぐにゼロになるんです。
私自身、過去にボーナスの金額が上下する会社にいたこともあるのですが、業績がよかったといわれてもらえた金額と、悪かったから下げると言われて減った金額に対し、あまり納得感はありませんでした。本当かよと。
ここの説明が、外国籍の方にはすごく難しいんです。「ボーナスは業績連動と書かれているが、例えばどういうときに2カ月分が1カ月分になるのか、あるいは0カ月になるのか。業績係数とあるが、この数字はどうやって決まるのか。そう言われると、私自身「なるほど。わからない」と思ってしまいました。
コミュニケーションコストも高いですし、説明する側としても納得感がない。これはどうにもしんどい。実際に経営陣がどのような議論をしたかは私自身見聞きしていないので詳細は分からないですが、結果的にはボーナスを一括してとりやめることになりました。
植本:それまで働かれていた日本国籍の方から反発はなかったんですか。
柿元:私が知る限りは特になかったと思います。決まっている金額よりも多く払われた経験がないですから。「下がらなくなる」と捉えたのかなと思います。
植本:そういう意味では、外国籍の方を採用するにあたっては入り口のハードルを下げることは重要になってきますか。
柿元:それは間違いなく重要だと思いますね。これは募集プロセスでも同様です。転職活動の経験がある方であれば多分同意いただけるんですけど、転職活動って超大変じゃないですか。
多くの方は現職で働きながら活動しますが、その場合ドキュメントの準備や面接もすべて業務時間外にやらなければいけない。単純に活動量が1.5倍とか、2倍とかまで膨れ上がることになってしまう。この大変なときに、余分な作業工数を強要するのは、戦略上あまりよくないと考えています。
例えば、日本国内であれば多くの企業は「履歴書・職務経歴書」という定型フォーマットを用いて、プロセスを進めます。ゆえに、用意するのが当たり前だと思ってしまいますが、日本の採用事情を知らない人からすると、そんなものは持ち合わせていない。我々の場合、そこも不要にして応募のハードルを下げたりしています。
業務委託も正社員も、分け隔てない文化
植本:U-NEXTでは海外在住の方を採用する際には業務委託契約にされると伺いました。その狙いはどこにあるのでしょうか?
柿元:これは法律や労務など様々な観点がありますが、一般的に業務委託の方がお互いにリスクを回避しやすいと考えています。我々の場合、業務委託契約でまず一緒に仕事をするところからスタートし、ビザが取れて日本に引っ越して問題なく働ける環境をつくれたら、正社員に移行するやり方を基本的にはとっています。
植本:業務委託の方のマネジメントは難しい印象を受けます。実際いかがですか?
柿元:わかります。私自身そういう感覚を持っていました。この温度感を伝えるのはとても難しいと思うのですが、現在のU-NEXTでは業務委託と正社員を全然区別しないんです。数年前くらいから、自然とそういうカルチャーになっていきました。
人によっては、「この人、業務委託だったんだ」と後で知って驚くくらい。結構な要職に就いている人が業務委託の場合もありますし、正社員が多いチームでリーダーシップを発揮している人だけれど契約上は業務委託ということも珍しくありません。
植本:それは本当に珍しいですね。業務委託の場合、与えられた職務領域があり、それに対しての報酬という意識を持つ方も多いと思います。その方々がリーダーシップを持っていたり、正社員と変わらない形で動けているのは、どこに要因があるのでしょうか。
柿元:契約形態自体、手段だからでしょうか。
業務委託での採用は、エンジニアからスタートしました。エンジニアの場合フリーランスで仕事がしやすいですし、転職や環境を変えることも容易じゃないですか。かつ、自分の単価を引き上げるために積極的に環境を変えていく方も珍しくありません。
そういう意味で、「正社員にはなりたくない」という人が一定いるんですよね。自分の将来の選択肢が減ると捉えていたり、正社員なりの義務を避けたいという方もいる。その中で「業務委託だったら働いてもいい」と思っていただけた方に、選択肢を提示する意味ではじめたんです。
もちろん、当初は「業務委託で入ってきた人をどう管理するのか」という議論もありました。ですが、みんな大人ですし、守秘義務とかも含めて契約書や労働規約に記載されていますので、契約形態によって何か変わるかというと、実態としては差がないんじゃないかとなったんです。
そこから、区別しなくなった時期があり、今に至っています。海外の方を業務委託で採用するというのも、そうした土壌の上での議論なので、何かしら疑問が浮かんだりすることもなかったんです。
植本:その土壌があるからこそ、フルリモートで、契約形態や国籍、住む場所を問わない採用が実現できているのかもしれませんね。
柿元:そうですね。それはたしかにあると思います。
採用のプールサイズを100倍にする戦い方
植本:ありがとうございます。この番組をみてくださっている方は、人事周りやHR領域に携わる方が多いんですが、最後に「外国籍の方を採用していきたい」という企業さんに向けてメッセージをいただけると嬉しいです。
柿元:私自身とても実感しているのは、外国籍の方を採用の視野に入れると、リーチできる才能を持った人の母数が、言葉どおり数十倍、数百倍まで増えるということです。
ビジネス上の目標になるべく最短でたどり着く、あるいは勝ち筋をよくする上で、「日本国籍を持っていないこと」で候補者を選択肢から外してしまうのは、単純にもったいないとすごく感じています。
もし、私が何かの理由でゼロからチームを作る役割を担うことが今後あったとしたら、最初に考えるのは「日本語が使えなくても仕事ができる環境をつくること」でしょう。それを実現できれば、採用候補にあがる人の数が一気に広がり、目標に対してより早く近づけるからです。
植本:ありがとうございます。本日のゲストは株式会社U-NEXTから採用責任者の柿元様にお越しいただきました。ありがとうございました。