6.パリのレストランで年配のウェイターにウマく騙されたこと
晩秋のパリの展覧会に顧客を連れて行った時の事。
視察自体は実りのあるもので、数件の商談にも時間がかかってしまい、予定を大幅にオーバーして会場を出たのは午後1時をかなり過ぎた時刻でした。
その後の商談の時間にはまだ余裕がありましたが、お客様は初めてのパリで、出来れば日中に少し観光もさせてあげたいことと、夕食には生ガキの有名なレストランを予約していたので、会場近くでさっと軽めの昼食をと思って、レストランかカフェを探して通りを歩いていました。
少し歩いてもなかなか見当たらなかったところで、通りの向かい側のレストランから何かを取りに出た様子の年配のウェイターが我々に声をかけてきました。
“Do you have anything for lunch ?”
(ランチは何かありますか?)
と聞くと
“Yes, Yes!”
と二つ返事で手招きします。
これ幸いにと道を渡って店に入ると、ランチタイムを過ぎているのにお店は満員です。
入り口そばの椅子に座って、参ったなぁ、どれだけ待たされるのかなぁ、と思っていると、メニューを持ってきたそのウェイターが、
“Sea food ?”
と訊いてきます。
何か変な感じはしたのですが、皆さん夕食に期待して軽めが良いからとメニューも見ずにシーフードで、と言われます。
実はこれが日本人的な感覚から来る間違い(おさかな系:和食=ヘルシー/軽め、お肉系:洋食=がっつり/重い)の一つで、フレンチの場合は前菜は別にして、デザートに至るまで、まず軽いものはないと思っていた方が無難だと思います。
ま、でもその時はちょっと疲れていて面倒なこともあり、
“These three gentlemen take Sea food lunch.”
(こちらのお三方はシーフード・ランチを)
ボクはメニューからチキンを選んだのですが、しつこく
“Sea food, sir ?”
と訊いてくるので、
“No, I take chicken. For others, not too much.”
(いや、ボクはチキン。他のヒトのも少なめにね)
と言うと、調子よく
“OK.OK.”
と言いつつ奥の4人掛けのテーブルでお茶をしていた2人を「おまえらあっちへ行け!」と言う感じで
狭い2人掛けのテーブルに追い立てて、空けたところに我々を案内します。
これは怪しいと思っていたら、運ばれてきたのは3段積みのいわゆる海の幸(生ガキ、ムール貝等の生の貝類を氷の上に敷き詰めたもの)が、
“SEA FOOD, sir !”
(さあ、旦那方、シーフードですよ!)
と運ばれてきました。
我々を案内しつつほかのウェイターに目配せしながら指示を出していたので、どうやら売れ残りの海の幸の大皿を体よくこちらに押し付けてきた様なのでした。
“Is this lunch ?”
(これ、ランチ?)
との抗議も既に遅く、
“Yes, sir.”
(はい、お客様)
とすまし顔のウェイター。
やられた!と思う傍ら、空腹のお客さんたちは予期せぬごちそうに夕食の事は忘れて大喜び。
あー、こりゃ夕食の予約はキャンセルだなぁ。
ま、喜んでくれてるから良いけど、などと思っているそばから、コイツは「グラスワイン」とのオーダーにボトルを持ってきやがりました(絶対わざと)。
これには流石に、
“He ordered Glass of wine, NOT BOTTLE !”
(この人が頼んだのはグ・ラ・ス! ボトルじゃない!)
と、どこまでもど厚かましいオヤジのウェイターに少々キレ気味になってしまいました。
まさかランチタイムにこんなものが出てくるとは。
まあ、メニューを良く確認しなかったこちらが悪いんですが。
結局は「その辺、言わなくても分かるでしょ?(今回の話は、ランチなんだから)」と言う感覚が普通の日本人は、相手は何を考えているのかは分からないからいちいち確認するのが当たり前という西洋の方々からすると、鷹揚で与しやすいお客さんということなのでした。
特にメニューの吟味にも時間をかけ、食事の時間は余裕をもって楽しむのが文化の一つであるフランスとの差も大きいのだと思います。
え、その日の夕食ですか?
お腹がパンパンの我々(ボクも結局海の幸を勧められて)は外に食べに出ることもなく、ルームサービスで取ったサンドウィッチも食べきれなかったですよ。😢