見出し画像

【前世の記憶】宗教迫害で炎の中へ行く恐怖を語る娘

アメリカ、バージニア州。マリー・ヘレンはドクターの学位を持つカイロプラクターで、二人の娘がいる。子供たちの父親は出身地のニュージーランドへ移住してしまったため、一年の半分は子供たちを連れてニュージーランドで過ごす生活だった。

ジェイダは3歳の頃からママを母親に選んでよかったと言うようになる。ママを選んだ話、パパを選んだ話は、言葉を喋れるようになって以来ずっとジェイダが話していたことだった。

ジェイダは生まれ変わる間の記憶について語った。彼女の説明によると、母親はどんな人で、父親はどんな人なのか、姉はどんな人になるのか、スライドショーを見ているようだった。そして自分の人生に必要なものを与えてくれる家族のメンバーを自分で選んだのだと言う。

決してランダムな発言ではなく、それを裏付けるようなことも話すため、ジェイダではない人生のことを覚えていると思わざるを得なかった。

ジェイダは自分の部屋で寝たことは一度もなく、常に姉か母と一緒に寝ていた。普通は自然に一人で寝るようになるものだが、ジェイダは一人で寝ることができない。暗いのが怖いと言うよりも、一人置き去りにされるのを恐れている様子。甘やかされているのではなく、何かがあると母は感じていた。

ジェイダは、2階のバスルームへ行く時も母に一緒に来てほしがり、母が上に行く時もついてくる。マリー・ヘレンが部屋を抜けて他のことができるのは、彼女がテレビなどに夢中になっていて姉が一緒にいる時だけだった。

興味深いのは、ジェイダは一人でいるのを恐れるのにもかかわらず、人混みが嫌いなこと。人混みには行くものの、人の多いところが嫌だと明確な意志表示をした。学校でも25人いるクラスメートが多すぎると言う。

次第に慣れてはいったものの、人の多い場所では慎重だった。母に戻ってくるか、何時に迎えにくるか、常に確認する。他にも「これは大丈夫だと思う?」「私がこの状況から抜け出せるか分かる?」と確認した。

ジェイダは家の安全も常に気にしていた。火を燃やす時、火は怖がらないものの、火災報知器は作動しているか、電池は入れ替えたか、それで大丈夫かと確認する。

マリー・ヘレンは母親として子供が不安がるのは見たくないが、その解決策も分からない。

マリー・ヘレンと娘たちが毎年行っているイベントがある。火のフェスティバルだ。娘たちが小さかったためそれまでパレードに参加したことはなかった。ジェイダが6歳の時、大きな焚き火の周りを行進するパレードに娘たちも参加することにする。娘達は旗やバナーを担いで楽しそうだった。

行列は丘の下から始まり、丘の上の大きな焚き火を皆で囲む。マリー・ヘレンも娘たちのそばで一緒に行進した。皆で歌ったり踊ったりし、焚き火台に火が灯される。ジェイダ達の反対側から火がつきはじめると、全体に燃え上がった。

すると突然ジェイダが大声で叫び出す。

「助けて、助けて、助けて!」

と地面に転げ回って助けを求めるのだ。

マリー・ヘレンはすぐに駆け寄り、娘を担いで大きな丘を降りて行くしかなかった。

車に着くとジェイダは幽霊でも見たように呆然としている。母が話しかけても、手を握った姉が話しかけても何も反応はない。彼女は我を忘れていた。あの炎でジェイダが全てを変える何かを見たのは明らかだった。

人混みに対する恐れ以上の何かがある。もしあの場に他にも医者がいたら精神的な疾患だと思っただろう。マリー・ヘレンはこれほどの恐怖を感じたことはなかった。

姉のジェマが言う。

「最悪なのはジェイダが何も話したがらないこと。だから彼女に何が起こってるか分からなかったの」

翌朝、昨晩のことを聞こうとしてもジェイダは話すことを拒んだ。

母親としてマリー・ヘレンは何が起こっているのか聞き出したい。しかしドクターとしての彼女は、何かが起こっている、無理に聞き出さずに彼女が話したがるまで待つ方が良いと思っていた。

それ以来、マリー・ヘレンはジェイダが何か話したいことはあるか定期的にチェックをした。彼女の母親にべったり度はかなりひどくなっていたからだ。

半年ほど経った頃の日曜の朝、ジェイダがお風呂に入っていた時のこと。

母を呼ぶと、

「ママ、彼らが火をつけた時を覚えてる?」

と聞く。

マリー・ヘレンが、もちろん覚えていると答えると、

「なんで私があんなに動揺したか分かる?」

と言う。

マリー・ヘレンは彼女があまりにもカジュアルに切り出すのであっけに取られる。動揺するわけでもなく、突然話をする準備ができているのだから。何かが動き、覚醒したかのようだった。

焚き火に火がつけられた時、あるものを見たのだと言う。何を見たのか尋ねると、ジェイダは言う。

「私の頭の中ではなんか映画のようだった。実際は自分を取り囲んでたこと以外は。」

娘は何らかのヴィジョンを見ているようだった。

何を見たのか聞くとジェイダは説明する。

「刀を持った男たちが至る所にいる。ローブを着ている男の人を見たの。白いローブだった。その中の何人かは、光る金の長い棒を持ってて、その先には十字架がある。彼らはとてもとても怖い人たちよ。私を殺そうとしているの。だから私は大きな炎の中に歩いて行ったの。」

炎の中に歩いたとはどう言う意味かと聞くと

「どうせ彼らは私を殺すからよ」

とジェイダは言った。

驚いたマリー・ヘレンは、息が止まりそうになり壁に倒れこむ。

母はその意味を完璧に理解した。彼女にとってその夜はいかに凄まじいものであっただろうか。

「ママ、すっごく恐ろしかったの」

ジェイダがこのことを話し始めた時、母はその後どうなるか全く見当がつかなかった。言いたいことを話してそれでもう終わりで2度と口にしないのか。

しかし、この記憶によってジェイダは恐怖を抱くよりも、突然そのことに対して興味を抱くようになり、もっと知りたいと思うようになっていた。

彼女はたくさんの絵を描き出す。が、それは母を心配させるものだった。友人からKKKの映像でも見たのだろうと言われるような奇妙な格好をした人物の周りに炎が広がっている。描く絵は、彼女の中にあるイメージに違いない。

マリー・ヘレンは、ジェイダが語る火のフェスティバルのことと、彼女の描き続ける絵の接点に気づいて以来、細切れの情報をつなぎ合わせていた。

ジェイダが自分で両親や姉妹を選んだと言っていることや、不安定で恐怖心をもっていることなど、普通の子供と比べて度を越している。もしかしたら娘は前世の記憶を語っているのでは?と言うことに気付く。

マリー・ヘレンにとってこのことは一生で最も恐怖を感じた瞬間だった。恐ろしい記憶を持った娘を目にすることは耐えがたく、まだ幼い娘を助ける術もないのだから。

金の十字架が出てくることから、宗教的な迫害と関係があるだろうとは思っていた。ジェイダの描く絵も彼女が説明するビジョンも、中世に起こったことのようだった。

マリー・ヘレンはローブと十字架、そしてジェイダの絵に描かれた炎に注目する。

調べると、モンセギュール村というフランスのピレネー山脈の高地に行き着いた。カタリ派と呼ばれるそこに住んでいた人々の宗派は、1244年、キリスト教の十字軍によって迫害された。

カタリ派は、とても高い道徳基準を持つグループである。彼らは、カトリック教会に従わないという理由でキリスト教徒によって迫害された。標高の高いピレネー山脈は、カタリ派の最後の拠点となる。

マリー・ヘレンはモンセギュールの写真を見た時、火のフェスティバルが行われるウシュネフの丘に似ていると思った。

カタリ派は2つの選択肢を与えられた。金の十字架を自分の服に縫い付けキリスト教に改宗するか、または拷問され生きたまま焼かれるかである。

それに対する公然たる抵抗として、生き残った最後のカタリ派の人々は、自ら炎の中に歩いて行ったのだ。

火のフェスティバルの何がジェイダの記憶を呼び起こす引き金になったのか、分かるまでに長い期間を要した。

これまでは観客として見ているだけだったのが、今回は焚き火に向かって歩いた。1244年にモンセギュールのカタリ派が炎の中に歩いて行ったのと全く同じ方法で。

彼女が抱えていたのは決して火の恐怖ではなかった。炎に向かって歩くという特定の行動が炎の中で死んでいった記憶の引き金になったのだ。

マリー・ヘレンはリサーチの結果をジェイダと共有する。彼女は全てに見覚えがあるようで、母が読み上げるそばから、

「ああそうだった、あれとあれがあそこにあった。彼らが運んでいたのはこれ。こんな見た目で、あんな匂いだった。」

と言いながら、ストーリーラインの余白に書き加え始める。

母親が調べて見つけたことをただ聞いているだけでなく、明らかにそれ以前に経験談として知っている様子だ。

実際に起きたことを母に語る彼女は、母のリサーチ結果が真実と知っていた。母もそれが真実だと気づくまでに時間はかからなかった。

10歳になったジェイダが言う。

「私が動揺したのは皆が喧嘩していて彼らが十字架を持っていたからなの。白い服を着ていた人もいた。そのことを思い出してとても怖かった。彼らは私を襲ってきたの。私がクリスチャンじゃないから。無理やり改宗させようとしてた。もしクリスチャンになったら殺さないって言うの。でもならなかったら殺すって。だから自分で炎の中に歩いて行ったの。だって彼らに押されて死にたくないから。私が大きな焚き火に行った時、自分が死んだ時みたいに大きな炎でゾッとしたの。暖炉みたいな小さな火なら大丈夫だけど。」

1244年にモンセギュールで起こったことはとても重要な歴史の一部分である。しかしジェイダにはこの記憶をどこかにそっとしまっておいてほしいとマリー・ヘレンは思っていた。悲惨な死の重みを引きずることなく自分の人生を生きてほしい。

彼女はジェイダの生活に影響を与えている前世のことのリストを書いてもらうことにする。

「リストを書いたら私たちはこれを灰にするの。もうあなたを悩ませることがなくなるように。」

ジェイダはOKと了解する。

一人になること、ドアをロックすること、一人で寝ること、暗がり、人混みの中など10コ書いていく。

暖炉の前で二人は儀式を行う。リストを持ったジェイダは「バイバイ、前世の記憶」と言ってキャンドルの火をつけた。

ジェイダが描いたローブを着た男の絵も一緒に火に返す。

「前世の過去は私を傷つけることはできない。ジェイダになる時が来た。」

と二人で唱えながら。

ジェイダは、前世関連のことを燃やしたことは恐怖の減少に役に立ったと感じると言う。あれ以来安全と感じるからだ。

彼女は言う。

「前世のことは燃やしたから今度はこの世で助けが必要な人たちを助けたい。」

「前世では彼女は火によって破壊されたけど、彼女は今火によって自由になる。もしかしたら私も自分だけのベッドを取り戻せるかもしれないわ。」

マリー・ヘレンは微笑みながら言った。

その後ジェイダは週に何度かは自分の部屋で眠れるようになったと言う。大きくなったら科学者になりたいと言う。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?