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【前世の記憶】爆撃事件の恐怖を語り出す息子
アメリカ、バージニア州。ミシェルとアダムにはアンドリューという4歳の息子がいる。
アンドリューは赤ちゃんの頃からよく寝るおとなしい子だった。なかなか寝なかった上の子達と比べて手がかからず、授乳の時間になっても起きなかったほどだ。
アンドリューは上の7人の子達よりも発達が早く、年齢よりも大人っぽい言動をする。1歳前には歩き、2歳では補助輪なしで自転車に乗っていた。物覚えもよい。会話も大人と話しているようで、4歳の男の子が言っていることなのだと我に帰ることも。行儀も良くやんちゃな子からは程遠かった。
上の子達は兄弟で遊ぶのに対し、アンドリューは一人で遊ぶことが多い。それも彼の個性だと、両親は特に気にかけることもなかった。彼が一人で話しているのを目にするまでは。
ある日ミシェルがソファに座ってテレビを見ていると、アンドリューがリビングルームにやってきて言う。
「ママ、僕の友達を紹介するよ。」
しかしそこには誰もいない。
「ママ、見えないの?」
アンドリューは友達がそこにいるのだと主張する。
誰と遊んでいるのかと聞くと、「マイクおじさん」と答えた。
「マイクおじさんと話してるの?」
「うん。僕と一緒に遊んでくれてるんだ。僕を見守ってくれてるの。」
ミシェルはショックを受ける。彼女が大好きだったマイクおじさんはアンドリューが2歳の時に亡くなっている。
彼はマイクおじさんのことをよく知らない。しかし作り話をする子でもない。
マイクおじさんと良く遊ぶのかと聞くと、彼はいつも遊んでいると答えた。
8歳の姉もアンドリューが誰もいないのに話しているのを見て、弟のことが怖いと言う。
彼に見えているものがミシェルには見えないため、何か説明のできない大きなものにつながっているのではと思うようになる。
ある日ミシェルが夕食を作っていると、アンドリューが来て興奮した様子で泣き出した。怪我をしたのかと声をかけるが、身体的なものではない様子。落ち着かせるのに20分ほどかかった。
アンドリューは言う。
「マミー、僕なんであの火事で死んじゃったの?」
夢を見たのかと思ったミシェルが聞くと、違うと言う。
ミシェルは息子を抱き上げて、絶対そんな目には合わせない、と言うが、その恐怖が取り除かれたようには見えない。
彼は、自分がなぜあの火事で死んだのか、と繰り返し聞いた。ミシェルも一緒に泣いた。
火事の経験も心当たりもないため、ミシェルには息子が何のことを言っているのか分からない。ただ4歳で死について話すのは普通ではないと感じていた。
テレビから影響を受けたとは考えられない。家ではそのようなテレビは見せていないからだ。
アダムが帰ってくるとミシェルは、アンドリューが言ったことの詳細を話す。
アンドリューによると、彼はジョージアに住んでいて軍のユニフォームを着ていた。彼はSemperと言う言葉を繰り返した。これには「常に」と言う意味がある。
彼は自宅で爆撃がありそれで命を落としたのだと言う。それを語る時の彼は何かを思いだしながら話しているように見えた。
そしてそのことを話すたびに彼は泣き崩れた。ミシェルはもしかしたら息子は前世のことを話しているのではないかと思いはじめる。
家族は信仰深いアメリカ南部に住んでいて、輪廻転生という考えは認められない。ミシェル自身もカトリックで、輪廻転生についてあまり考えたこともなかった。ただこの火事がどこで起こったのか突き止めたかった。
ミシェルはアンドリューの話とマッチすることはないか、インターネットで調べ始める。
彼によると、8軒の横並びの住宅は爆撃され全焼してしまった。
ミシェルが最初に見つけたのは母親が家に火をつけ子供二人が亡くなったという記事。ジョージアの陸軍基地に住んでいた女性が夫を殺そうとして、誤って子供たちの命を奪ってしまった事件だ。つながりがあるように見えたが、爆撃ではなかったためリサーチを続ける。
アンドリューが繰り返し言っていた言葉、「Semper Fi」の意味を知った時、リサーチは全く違う方向へ行くことになる。「Semper Fi」とは海兵隊のモットーだった。
そこで、ジョージア出身の海兵隊、家で爆撃などのキーワードで検索すると、信じられない記事に行き着く。
1983年にレバノンのベイルートにある海兵隊兵舎で爆撃が起こった。自爆テロ犯が爆発物を満載したピックアップ トラックを運転し、そこに住んでいた300人が爆撃を受けたのだ。
これにより220人の海兵隊と21人の関係者が命を落としている。第二次世界大戦時の硫黄島での戦い以来、海兵隊史上、死亡者数最大の事件である。
ミシェルは亡くなった海兵隊の名簿を見つける。そのうち6人のまだ若い青年がジョージア出身だった。
彼女は泣きたい気持ちになる。息子はこの中の一人なのだろうか。夫婦はその海兵隊の写真をアンドリューに見せることにした。
「これから写真を見せるから、もし知っている人がいたら教えてね。」
一人目を見せるとアンドリューはすぐに「彼は爆撃の人だよ」と言う。
驚いたミシェルが、彼を見たことがあるのかとと聞くとうなづく。
さらに何人かの写真を見せ、どれが友達か聞くと、
「彼とすごく仲良かった。みんなと仲良かった。」
と言う。
他の人たちは?と聞くと
「彼らは死んじゃったんだ」
と言い泣き出した。
ミシェルも悲しみを感じ、気持ちがいっぱいになる。このリサーチの目的は息子に安堵を与えるためだったはずだ。動揺させるのが目的ではない。両親は写真をしまった。
数週間後、アンドリューは海兵隊の一人を前世の自分だと認識する。その時の彼は動揺のあまり倒れてしまった。ヴァル・スタンリー・ルイス氏は23歳で亡くなっている。
その後アンドリューは、ジョージア州に行ってお墓参りをしたいと言うようになる。夫婦はジョージア州のルイス氏が埋葬されている場所へ行くことにする。
アンドリューは前世の自分のお墓に向かって迷わず進んだ。そして花を手向けた後、墓石に触れしばらく撫でていた。
アダムは息子が墓跡の前に立っている姿を見て感傷的になる。しかし彼が必要なことは成し遂げたのだと感じていた。息子の発言に恐怖を感じていたが、家族でオープンに話せば話すほど状況が理解でき力になれる。今ではアンドリューが言っている事を信じられると言う。
ミシェルも墓地を歩き回るアンドリューを見て安堵する。息子は泣いたり怖がったりしていない。
両親ともにジュージアへの旅は成功だったと感じている。自分達が何があっても息子をサポートする事を彼自身も感じられたはずだ。
アンドリューに普通の4歳児のように楽しく暮らしてほしいと言うのが両親の共通の願いだ。アンドリューの明るい将来が見える。