お一人様、お一人様を遠隔介護する ①
80代の親が50代の子どもの生活を支えるという「8050問題」が注目されているが、我が家の8050問題は、いたって普通に50代の娘が遠方に住む80代で一人暮らしの母親(父は既に他界)を、どう遠隔介護(遠距離介護)するかという問題である。
「遠隔」介護とは何事か!とお叱りを受けそうだが、ここで母の介護のためにお一人様の娘が仕事を辞めて介護Uターンしてしまうと、それこそ「8050問題」予備群になりかねない。都会で働く50代の娘はギリギリまで公的介護保険制度を含め、IT技術やそれこそAIを駆使して遠隔介護ネットワークを構築するほかないのである。
幸い、母は視覚障害者のヘルパーなどをやっていた経験もあって介護保険を使うことに抵抗がない。「家に他人を入れたくない」「他人に迷惑をかけるなんて……」より、むしろ「介護保険料を払ってきたのだから、使わなければ損」という気持ちが強い。
なにせ多少記憶力が怪しくなってきたなぁと思っていたこちらを尻目に、自ら地域包括支援センターに連絡を入れるという行動に出るような人だ。自立心の塊なので今後、要介護認定を受け入れるかはわからないが、要支援1の認定は嬉々として受け入れた。
要支援認定1とは、基本的には独力で生活できる状態であり、適切な運動や生活習慣の見直しによって、要介護状態を予防できると見なされたケースである。通所サービス(いわゆるデイケア)が利用できるので、運動機能を保つために週に1回、近所の施設に通って予防的なリハビリテーションを受けている。
何よりも要支援1と認定されたことで、介護予防支援(ケアマネジメント)を受けられるようになったことが大きい。いわば「ケアが必要な人がここに居る!」と公的に認められたようなもので、ケアマネージャーが定期的に顔を出し、ケアプランの見直しを行ってくれる。孤独死や介護虐待につながる「孤立」を免れた安堵感は何ものにも代えがたかった。おそらく母が自ら行動に出た動機も「頼りない娘」を当てにしないで安心を得る方法を考えてのことだろう。
いずれにしても公的支援のラインに乗ったことで、私たち母娘の気持ちはずいぶん楽になった。これから始まる未知の世界に慣れた水先案内人と対応手段があるというのは本当に心強いものである。
独身に優しいとは決していえない税制に従い、負担が増えるばかりの社会保険料を黙々と納め続けてきたのは、今、公的介護保険制度を遠慮なく使うためだったのかと妙に納得しているところだ。