人生会議(アドバンス・ケア・プランニング)のこと その1
この数日、厚生労働省が公開した「人生会議(アドバンス・ケア・プランニングの愛称)」のポスターに関して賛否両論が飛び交っている。私の仕事のフィールドに限ったことかもしれないけれど、良くも悪くも問題になったことでACPについて関心を持つ人が増えるのはいいことだろう。
自分もあのポスターには嫌悪感を感じた一人だ。なぜなのか。
アドバンス・ケア・プランニングってなんだろう
「もしものとき」についての話し合い
アドバンス・ケア・プランニング:ACP:人生会議は、「長患いや老化によるおとろえで回復が難しくなったときに備え、これからの治療と療養生活についてあらかじめ話し合うプロセス」と定義される。簡単にいうと「もしものときの“話し合い”をする」ことだ。
ACPに近い言葉として「リビング・ウイル(LW)」と「アドバンス・ディレクティブ(AD)」というものがある。
LWは日本語で「生前意思」と訳される。一般社団法人・日本尊厳死協会によるとLWは「いのちの遺言状」であり、「大きな病気やケガで回復の見込みがなく、そして死期が近づいているのであれば人工呼吸器や胃ろうなどの延命措置をしないでほしい」という気持ちを文章として記しておくこと、と定義される。
一方ADは、認知症など判断する力が低下した、または不慮の事故などで自分で意思を明らかにできなくなったときに備えて、自分が受けたい治療や差し控えたい治療をあらかじめ家族や知人、弁護士などの第三者(代理意思決定人:代理人)に話し、意思を書面にしておく「事前指示」を指す。
欧米ではLWやADは比較的、普及している。しかし、いざこれを使うという段になり様々な問題があることがわかってきた。事前にLWを作成していても、家族がLWの存在を知らなかったり、LWやADを作成した際の想定と現実の「もしもの時」の状況が全く違うために、代理人(家族)がどうしたらよいのか、わからないケースが頻発したのだ。
たとえば、救急医療の現場は何より「救命」を目的としているので、本人の意思がはっきりしない場合は、利益が小さく苦痛が大きい治療や延命治療が行われてしまう。
逆に、適切な治療で救命できる可能性が高い場合に、代理人が古いADを優先して治療を拒否する可能性もある。いずれにしても代理人の責任は大きく、一人で背負いきれるものではない。
そこで新たに考え出されたのが、ACPだ。
(その2に続く)