小説『ヴァルキーザ』 25章(1)
25. ビルバラ
爆炎と煙のなかに沈む「運命の砦」を辛くも脱出したユニオン・シップ団は、砦の内部にいた時に人の話で聞いていたビルバラの町に、逃げ込むようになだれ込んだ。
ビルバラの町で、ユニオン・シップ団は、運命の砦にいた守護聖獣キメラが勧めていたことに従って、町の治安判官に願い出て、エルサンドラのしもべ達のせいで「運命の砦」で自分達に課された時間超過の苦役の補償をエルサンドラ側に行わせるよう申し立てをした。
ビルバラの治安判官のバイラスは、助手のシュリーサとともに、グラファーンにそのための訴状を出すよう案内した。
グラファーンは、自分たちと同時に砦の邪教団からビルバラに逃げ出してきた者たちを証人にして、「労役審判」の訴状を作成した。
アム=ガルンが書き上げたそれは、小説のように整った文章だった。
ユニオン・シップ団は訴状を、ビルバラの領主であるロード・ガイエン(ガイエン卿)に提出し、ビルバラの裁判所長でもある彼の裁判に全てを委ねた。
事を任されたガイエン卿は、数日後に、裁判の原告であるグラファーン、イオリィ、エルハンスト、アム=ガルン、ラフィア、ゼラ、スターリスと、そして証人たちとを裁判所に呼び出した。
ガイエン卿は、書記のゲンシンとともに裁判官席の方に立ち、開廷を宣言した。
ガイエン卿は、ゲンシンが訴状を読み上げるのを重々しい様子で聞きながら、古来の法と判例、そして証人の証言に基づいて審判を行なった。
グラファーンたちは、数日後、判決を知らされるため再び法廷に呼ばれ、出廷した。
ロード・ガイエンは労役審判の判決を言い渡した。
それは、原告グラファーンたちの訴えをほぼ全面的に認め、被告「運命の砦」邪教団がグラファーンたちにもたらした苦役による損害の賠償として、金2万テールを払うよう命じるものだった。
グラファーンたちは不服申立てを行わなかったので、判決は確定した。
被告がもはや存在しないため、支払いは、グラファーンたちが砦から持ち出していた、邪教団の隠匿していた宝物のうち2万テール分から充てられた。
残りの宝物は、ビルバラ当局が「預かる」(つまり収用する)ことで落ち着いた。
裁判が全て終わったので、グラファーンたちは晴れて堂々と、私用で、領主ガイエン卿の屋敷を訪れられるようになった。
ガイエン卿の家は日本の武家屋敷風で、その「領主の間」に客として招かれたグラファーンたちはすぐに、ガイエン卿と親しくなった。
ガイエン卿もまた、かつて冒険者だったため、話題は彼の過去の冒険にも及んでいった。