小説『特殊人工生命体』(1/1)
食堂で、博士夫妻と兄さんと僕は、一緒のテーブルにつき、会話に花を咲かせながら、食事を楽しんだ。
「どうだね、アレックス。エネルギーシールドのアダプターの方は」
話の皮切りに、博士がお茶を飲みながら尋ねた。
「すぐに装備できます。テラヴァードの形状に合うように再調製すれば、大丈夫ですよ」
「素晴らしいわ、アレックス。さすがに、科学アカデミーの寵児だっただけのことはあるわ」
ジャネット夫人は兄さんを褒めたたえる。
「いえ、ご夫妻の助言のおかげです」
兄さんは謙遜する。
「ヴィクトル、テラヴァードは実に素晴らしい可能性を持ったSAL(Specialized Artificial Life :特殊人工生命体)だ。テラヴァードのエネルギー源はコスモ・ウランといって、エンブリオンから供給されてるんだけど、これは使っても減らない無限のエネルギーなんだ」
「そうそう、それに記憶量も優れていて、質が高い。宇宙に広がっている記憶の領域を記憶帯といって、それは地球にもあるんだが、惑星μ(ミュー)は、最も精度の高い起源宇宙の記憶帯の一つになってるんだ。そして、そこで造られたテラヴァードも、優れたSALになれたんだよ」
博士が言った。
「そうね。テラヴァードは惑星μ、つまりマルデクで作られたんだけど、マルデク以上に起源宇宙の波動を精確にとらえられるポイントはないため、分解した後、別のものを別の星で作り直す訳にはいかず、そのため、わざわざ破片を回収しなければならなかったほどなのよ」
「ああ、なるほど、そうだったんですか」
僕は感心してうなずいた。
それから僕は、さっき博士がいた控室の壁に掛けてあった絵のことについて尋ねた。
「あれはユームフラウの肖像画よ」
夫人がほほ笑んだ。
「ああ、あれがユームフラウなのですか」
僕は合点がいった。
「そう、彼女は5次元の上級天使で、あなたが向かう天王星の天空宮殿にいるわ…」
(1997年作)