小説『ヴァルキーザ』 31章(6)
そのとき、エルサンドラが上げた最後の絶叫に呼応するかのように、目の前の空間を引き裂いて、巨大な「何か」が現れた。
「それ」は、様々な形と彩りに乱れ舞い明滅する光と音が集まり、響きあう、数多の光と音の結合体のようなものだった。
また、その姿は、この宇宙のすべての人々が発する様々な想念の集合体のようでもあった。
怒りや憎しみ、不安や恐怖、妬みや羨望
喜びや愛情、安心や勇気、誇りや自信…
その潜在意識が積り重なり混乱したもつれ合い…
集合体が放つテレパシーから、グラファーンたちには、それが「メガロサイモス」という超存在であることが分かった。
それはメディアスの究極。
エルサンドラは、彼の一部である。
メガロサイモスは、話しかけようとする冒険者たちに構うことなく、強力な振動波を発してターミナル・ジェネレーター(動力炉)を揺るがし始めた。
振動波により、動力炉だけでなく、この巨大な部屋の時空全体が少しずつ歪んでいった。
この「時の城」ゼーレスを破壊しようとしているようだ。
ゼーレスの崩壊を阻止するためユニオン・シップの者たちはメガロサイモスに魔法を撃ったが、それらはことごとく反射されたり吸収されたりしてしまった。
メガロサイモスは膨大な量の魔法を用いてグラファーンを攻撃しようとする。
「危ない!」
床に伏していた団員の皆が叫ぶ。
そのときグラファーンの目前に、一人の男が現れ、超存在からの攻撃を阻止した。
彼はグラファーンの父、アルビアスの霊だった。
アルビアスは息子グラファーンにテレパシーで伝える。
彼は、マイオープで族長から授けられた使命を果たすため、旅をし、この「時の城」に乗り込むにまで至っていた。
だが、エルサンドラに倒されてしまっていたのだ。
父はフォロス族を裏切ったのではなかったのだ、とグラファーンは感じた。
彼はずっと、父を信じていた。
アルビアスは、グラファーンに、超存在メガロサイモスの前で、彼の持つ古の文書「時の法典」 を掲げるよう指示した。
グラファーンがすぐ、その通りに「時の法典」を掲げる。
書はひとりでに開き、文書綴の内の頁をメガロサイモスに呈した。
そこには、詩篇のような文が記されていた。
原文は文学的な格調を帯びたコーク語で記されており、その言葉の意味は分からなかった。
だがメガロサイモスは、その詩篇の字句をなぞって響く何かによる魔法の詠唱の調和音により、自身を霊的に中和され、零に等しくなるように無効化された。
じきに自ら消滅させられるのを嫌って、メガロサイモスはこの場を退き、宇宙の彼方に去っていった。
グラファーンは、超存在に対処することに成功した!
グラファーンは、父アルビアスの霊に感謝した。
アルビアスは、グラファーンに微笑みかけると、光の中に消えていった。
あとは、動力炉を止め、魔の雲を消滅させるだけだ!