小説『ヴァルキーザ』 32章(1)

32. 祝福の歌

最後の使命を果たし、時の城を出たユニオン・シップは、時間監察官クロノポールの立ち会いのもと、イリスタリア王国に国宝「自由の宝冠」を返還した。

ユニオン・シップは、時の城ゼーレスの長であるエルサンドラと和解し、「時の法典」の中で明らかに宣言されている法原則とユニオン・シップ組合規約に基づき、エルサンドラとの間に「時間協約じかんきょうやく」を締結した。

この時間協約の目的は、支配階級の下で働くウルス・バーン全土の人々を、究極的に一切の搾取さくしゅより解放することだ。

それを前提として、今のところは、前より大きく改善された労働基準を定めて、全土の職場の労働条件をよりましなものに移すことを定めた。

またエルサンドラは、改変されたターミナル・ジェネレーターの運転を永久に止め、ゼーレスを正常化することにした。

これによって、ユニオン・シップをはじめ全土の人々は、自らの自由時間を「苦しい労働時間」に変えさせられる元の原因だった「魔の雲」への隷属から開放されることとなった。

それは同時に、労働に就役する多数の一般人たちの時間を、一部の金満家たちの金銭に変えるための仕組みを、永久に止めることに他ならなかった。

エルサンドラは、労働により搾取されてきた人々に、奪われた時間の正当な対価としての金品を出すことをはじめとする支払いとその他補償を行うことを確約した。

時を俟またずユニオン・シップとエルサンドラの間で、時間協約に基づいて、人々の労働条件を大幅に改善し、働く人々への搾取を可能な限り減じていく旨の合意があらためて確認された。

また同時に、夢の城アスミラスの長アルシュレイスの宣言により、海洋と大地と淡水と空などに生きる世界のすべての生物たちに、平和に生きる自由と権利があることが確認された。その生物たちの保全のために、古いにしえの文明を継ぐアルナディアは実行可能なあらゆる手段を用い、全力を尽くすことが決定された。

こうして、すべての自然生物の生存の権利は、五賢聖によって厳粛に宣言された。また本来的に人々は、種として、全自然生物の生存に対し、義務と責任を有することが確認された。

次に、「時間協約」の全文を示す。