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小説『ヴァルキーザ』 28章(2)


「イアリースが戻ってきてくれて良かったわ」
コーディリアスが微笑む。

「あと、セルティースの行方も気になるわね」
ミティアスがこぼす。

「セルティースは、まだ帰還かえってないの?」
イオリィ(イアリース)はミティアスに尋ねる。

「ええ、あの時以来ずっと…」
ミティアスは答える。

イオリィは、セルティースが天空人エスタスの指令でゼーレスの内部に調査のために派遣されて以降、彼が時空ときを超えて行方不明になっていることを思い出した。
彼の同行者だったらしい、ビルバラのガイエンきょうに聞いた話によれば、彼・セルティースは時の城にいて、死んでいるかもしれないという事だったが…  

コーディリアスらは、取り敢えずセルティースのことを置いて、ユニオン・シップの一団を建物内の中央司令室に案内した。

そこはたくさんの操作盤や計器、表示板などの複雑な装置で埋め尽くされた、未知の空間だった。
様々な表示板に映るのは、ウルス・バーン各地の風景だ。

「あらためて自己紹介致します」
コーディリアスは話し出す。

「私たちエスタスは、このエスタルカームで『クロノポール』(時間監察官)を組織し、時間に関する犯罪の監視と、その犯罪に対する権限範囲内での介入を行なっています」

「このルームで私たちは、ウルス・バーンの全域の時間を監視しています」
コーディリアスはグラファーンたちに教えた。

コーディリアスはまた、島が浮遊して空を飛行できるのは、重力積じゅうりきせきという、強力な魔法のおかげであると明かした。
重力積は、「トラ・メデ」とも呼ばれている。

それから彼女は、室内の中央に浮かぶ巨大な水晶の表示板タブラに、魔法の力でヴィジョン(視覚映像)を映し出した。

映し出されたそれは、何か巨大な城のような建物だ。

「 これが、あなた方がこれから向かうべき場所、エルサンドラの本拠地ゼーレスです」

「これが、ゼーレス…」

「そう。時の狭間に浮かぶ、エルサンドラの居城きょじょうです」
コーディリアスは頷く。

そしてミティアスが、「時の城」ゼーレスは「魔の雲」の発生源であり、自分達はここでエスタルカーム島を構えて、おもにゼーレスにいるエルサンドラの勢力を監視しているのだ、と説明した。

さらに水晶板は、別の画像を映し出した。
一人の若い女性だ。

グラファーンはその女性に見覚えがなかった。

女性は目を閉じて眠りについてるかのようだった。

「この方は…?」
グラファーンがくと、

「アンという女性です。古代アルナディアの神官の助手だった人です。今はエルサンドラに封印されて、生きたまま眠らされているのです」

「助けなくては…」
グラファーンは息をつまらせた。

「そのとおりです」
ティーラがうなずく。

グラファーンはアンが、運命の砦で守護聖獣キメラに教えられた、自分の運命の人に外ならない、と直感的に分かった。

ティーラが、教えてくれる。
「その方を助け出すには、ゼーレスに乗り込まなければなりませんが、入るためには、ゼーレスの城門を開く鍵が必要です。その鍵は「時の鍵」と呼ばれているのですが、エルサンドラによって、この近くの「試練の谷」という場所の中に保管されています」

グラファーンたち7人は、ゼーレスに行くために、試練の谷へ立ち寄る決心をし、コーディリアス、ミティアス、ティーラに別れを告げて、島の下の地上の場所へ送ってもらった。

自分がイアリースであることを思い出したイオリィは、それでも引き続き仲間内で通称になっているイオリィの名で呼ばれることを自ら望んだので、ユニオン・シップの団員たちは、そのようにした。

ユニオン・シップの冒険者たちは、エスタルカームの街を後にし、「試練の谷」へと出征した。



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