とくとくとく

もっと、もっと暗い音楽を、と血眼になってプレイリストを作成していたらまた朝が来ていた。

この頃はうんざりするほど寝つきが悪く、音がしすぎるとダメ、かと言って静かすぎてもダメ。静かすぎると人間の中身の音がしてきて、それらは外部の環境音なんかより余程私をソワソワさせる。とくとくとくと規則正しく打つ心臓の音、消化器官内のガスが潰れるベコリッという音、吸って吐くたび鼻腔を抜けて頭蓋に響く呼吸の音。いやになる。湿った音の大群が体の中を絶えず蠢いて、私が生きているということを知らしめる。私の脳が指令を出してそうなっているはずなのに、一つとして私の意思では止めることが出来ない。これもまた、いやになる。
あんまりうるさいので、頭のてっぺんまで布団を引っ被って耳を塞いだ。耳を塞ぐと、今度は指先から轟々というノイズが鳴り響いた。ああもう、うるさいなあ。うるさい。静かなところはどこにもないんか。目を瞑って思い出すのは、6コース(ロッコースと読んでください。必ず)の飛び込み台から無音の水中目がけて、勢いよく飛び込む自分の姿。そうか、あそこだけは無音だった。水の中。体の外の音も、中の音も聴こえてこない静寂の場所。スタートからゴールまで夢中で泳ぎ切ってざぶんと水から顔を上げた瞬間に聴こえてくる、それまで水が遮ってくれていた声援や、後を泳いでくる子らの脚が懸命に水を打つ音、息切れした自分の呼吸、そしてまたとくとくとくと爆発寸前みたいに大袈裟な音を鳴らしまくる心臓。──私は、どんな気持ちだっただろうか。今振り返ればただただ泣きそうになる。騒音の中、大人たちの静止も振り払ってもう一度あの水の中へ潜りたい。深く深く、何も聴こえないところまで潜って、それでもう、二度とあそこへは帰りたくない。お母さん、お父さん、お姉さん、妹、ハムスターよ、さようなら。今日から私は水の中で暮らします。今までほんとにありがとう。

スイスの安楽死マシーンよろしく、人肌温度の水の中で眠り続けられる機械などが発明されないものだろうか。ホルマリン漬けのようなビジュアルで。

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