あさひ市で暮らそう65話 農家と子どものつながりを
NPO法人みらいファーム代表のミカは「農家と市民をつなぐ」活動をいつも考えている。
その一つが月に一度の『おすそわけ食堂』だ。一般的な『子ども食堂』としての姿だけではなく、農家からお心づけの野菜を分けていただきそれを材料として野菜の美味しさを伝えていく。ミカのそのような活動に協力してくれる企業によって肉や調味料も調達できている。
豚肉を提供する『アサショウ』は『旭食肉協同組合』を経営しており、その甘くて美味しい豚肉は毎月味を変えおすそわけ弁当になっていく。
「ベーコンやウィンナーでもいいよ」
社長は笑顔でそう言った。いも豚の加工品はイオンモール一階や道の駅『季楽里あさひ』にも置いてある人気商品であり、田中家にも頻繁に登場している。
新鮮な野菜は提供してくれる農家が届けてくれたり、ミカが取りに行ったりと、ここでも農家とのコミュニケーションが活きている。レタス、きゅうり、大根、マッシュルーム、レンコン、サツマイモ、などなど季節に合うツヤツヤな食材が調理場にしている地域包括センターに届く。
ミカが書く「その日のメニューイラスト」には生産者の説明も書かれており、ミカの農家への愛情が表現されていた。
味もボリュームもすこぶる評判のいいそれは完全予約制でスタッフの数の都合もあり数が限られている。
可愛らしい看板は黒板アートのすずきらなによってその新鮮さが見事に彩られている。
弁当を華やかにするミニトマトは『イシイファーム』からのおすそわけだ。
その『イシイファーム』のサオリとミカは新たな『農家と子ども』の企画を立ち上げスタートさせた。
企画『りとるすてっぷマルシェ』。農家に潜入し、その野菜の価値を学び、それをPRする方法を模索し、販売まで体験するものだ。
第一回は『農家潜入!』。集合した面々はハウスに向かう。大きなハウスが六つも並ぶ様子に企画の手伝い係水萌里は慄き、その姿にサオリがプッと吹き出す。
「あれで一つですよ」
サオリの言葉に水萌里はさらに目を大きくさせた。
作物の病気対策をしているハウスの入口では靴カバーと防護白衣を手渡される。それまでただただはしゃいでいた子どもたちも着替えが済むと「潜入調査」に現実みを感じたようで、サオリの解説をマジマジと聞き始めた。
ミニトマトの生育法やハウスの管理について携帯の画像を含めながらの説明は、わかりやすさとともにこの世代の子供達に興味を持たせる。
二重にされたハウスのビニールカーテンを抜けると緑の壁がそびえ立っていた。
「ほわぁ」「すごーい!」
歓声が思わずあがる。
ハウスの中には見上げるほどの緑の壁が三十列以上もあり前も横も圧巻である。緑の葉で覆い尽くされた上部から下部に視線を落とすと赤い宝石がこれでもかと鈴なりになっていた。
「あれはぶどうみたいだねぇ」
男の子が指差す上方を見るとこれまたミニトマトが鈴なりであった。
サオリの説明を受けながら少し進んではミニトマトをもいで口に運ぶ。子どもたちの遠慮ない姿に水萌里も一つ手にとり口へと運ぶ。
『あっまっ!』
思わず二つ目に手を伸ばした自分に苦笑いしながらもパクリと食べる。
あちらこちらで喜びながらミニトマトを手にする子どもたちや大人たちが美味しそうに食べる姿に、本当はトマトが苦手という少年が思わず一つを手に取った。
「うわぁ。僕でも食べられるよ」
少年が飲み込めずに吐き出すことも覚悟していた母親は目を丸くした後、柔和に微笑んだ。
こうしてミニトマトの巨大ビニールハウスに潜入調査した子どもたちは次に販売戦略会議へと移る。
手間ひまかけたミニトマトをいくらで売るべきか? どのようにしたら売れるのか? パッケージは? 店構えは? 何個いり?
農家の姿を実際に見たからこそ、子どもたちが真剣に考えて店を作っていく。
子どもたちの店を快く引き受けたのは株式会社セガワが開催するマルシェ「ボッチツキ市」。マルシェを仕切るマミは旭に来るまでは農家のことなど何も知らないスポーツガール。バイタリティは人一倍で人当たりもよく笑顔が眩しい。
その「ボッチツキ市」で子どもたちに入り口にほど近い場所を提供した。朝から集合した子どもたちは自分たちが作った看板を用意し、個々の袋に詰めていく。きっちりとグラム計りをして袋詰する5歳女児の姿はなかなかにシュールだ。
『金額やスタイルに母親たちの思惑も見れるのね。ふふふ。面白いわ』
年齢が上がると十円単位の計算が必要だったり、二種類のものを用意されていたりすることに手伝いの水萌里も感心しきりだ。
オープンの時間になり朝礼を済ませると少しずつお客さんも増えてきた。
「いらっしゃいませぇ!」
「ミニトマトですよぉ」
誰に言われたわけでもなく一人が声を出すと六人とも声をあげはじめた。その声に誘われたお客さんたちが集まる。
お客さんから受け取ったお金を指定のところに持っていったり、電卓を使い一生懸命に釣り銭を計算したり、子どもたちは忙しくお仕事をし、午前中には全員が売り切った。
貴重な体験をさせることができた母親たちも満足気で、企画をしたミカも「またやりたい」と思いをはせた。
「あら? もう終わっちゃったの? やっと手が空いたのに間に合わなかったわ」
マミは目をパチクリとさせて笑っていた。
マミを見送った水萌里は自分もツキ市を満喫するために動き出した。水萌里の狙いはドライフラワーアートのワークショップだ。そこにはすでに先客がいた。隣の椅子に座り水萌里も始めてみたもののキャンバスに飾る手法はなかなかに難しい。
「うわぁ。お上手ですね」
水萌里は思わず隣の女性に感嘆の声を漏らした。
「そぉですかぁ? ふふふ、とっても楽しいです」
まさかその女性Kukkaがドライフラワーの本職であることなどつゆ知らず褒めている水萌里であった。後日、違うマルシェで会い、出店していることに驚くのはまた別のお話。
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