コメント大賞付録(1)Lilimiさんの「います」考
コメント大賞で予告していたが、#1318「B &C精読実況中継」の冒頭におけるLilimiさんの発した「います」について論考したい。時間があれば前回のコメント大賞の最後の方をお読みいただきたい。
通常こうした場合、「(今日も)来ています」がフツーである。ところが、いろいろあってLilimiさんが選んだのが「います」だった。前回述べたように「来ています」には発言者の動機というか意図がついて回るが、「います」はそうしたものとは無縁、あくまで状態しか示さない。よって、「あいつまた来てるな」といった変な勘ぐりや本人の勝手な思い込み(による被害者意識?)も入ることなく、「めでたし、めでたし」である、みたいなことを述べた。
しかし、この言葉のもっとすごいところは三文字という短さにある!かも?文字を情報伝達手段と考えると、字数は多ければ多いほどいい!となるだろう。文字数が多ければその分たくさんの情報、それに付随する意見、感想などを伝えることができるからだ。ところが、伝えたいものが気持ちや感情となると、必ずしもそうとは限らない。いや、むしろ、文字数の少ない方が有利なことが多いような気がする。
私が過去に読んだ文章読本(書き方の本)の中でもっとも記憶に残っていて、かつ文章を書くときに今でも思い出す文例がある。南極観測隊の夫に宛てた妻の電報文である。恐らく50年以上前のことだろう。当時、南極観測隊員と家族間の唯一の連絡手段が電報だった。電報はそもそも高額な上に文字数によって料金が上がるシステム。よって電報特有の短い文章、例えば「チチキトク スグカエレ」などの文章が生まれた。たしかに、簡潔で最低限必要な情報を伝えている。要件を伝えるのであればこれで十分だ。
しかし、伝えるのが自分の感情や気持ちだったらどうか?そんなわけにはいかないだろう。で、ここで試しにみなさんに考えてもらいたい。あなたには長期間離れて暮らす配偶者、恋人、家族がいるとする。その相手に電報で自分の気持ちを伝えたい。文字は十字以内。あなたならどんな文にするか?「アナタガ スキヨ」「アイシテル」「アナタトアイタイ」「ゲンキデスカ」「オカラダヲダイジ二シテ」などだろうか?
実は、その文章読本で紹介されていた妻の電報文は、「ア ナ タ」のたった三文字であった。文字上では妻の気持ちは何も表されていない。しかし、夫に対する妻の気持ちが痛いほど感じられるではないか。もし、これに何か付け足したらどうだろう?「アナタ アイシテル」とか「アナタ ニ アイタイ」とか。情報の量は増えているが、「アナタ」以上に妻の思いが伝わってこないのではないか。
では、この三文字の魅力の出どころはなんだろう?単に短さなのか?それなら短ければ短いほどいいのか?それとも他の要因があるのか?具体例を見ながら考えてみる。
例えば、相手に「好き」という気持ちを伝えたいとする。「とても好きだ」「大好きだ」と言ったりする。単に「好き」と言うよりも、「とても好き」や「大好き」の方が、プラスαがある分、愛情が増し増しになって相手に伝わるような気がするが、果たしてそうか?
命を救ってくれた相手にお礼の気持ちを述べたいとき(滅多にないだろうが)、「このご恩は」のあとどう続けるか?「一生忘れません」「絶対に忘れません。」と続けるのと、「忘れません」と続けるのではどちらが相手の心に響くだろうか?
ひどい仕打ちをされた相手に恨み言を言うとき、「この恨みは」に続けて「一生忘れないぞ」と言うのと「忘れない」と言うのとどちらが相手を脅かすか?あるいは、「絶対許さない」と言うのと「許さない」と言うのでは、どちらが効き目があるだろうか?
以上三つの場合とも後者、すなわち短い言葉の方が相手にインパクトを与えるだろう。そして、そのインパクトを生むのは単に文字数というより、修飾の有無が大きいように思える。一方は「相対化(比較)」の世界に飛び込み、一方はそのままの姿を選んだ、みたいな。
子どものころ「あそこで◯◯を見た」と言うと、「絶対に?」「絶対だ!」、「絶対に絶対に?」「絶対に絶対にだ!」という言い合いになったことがあるだろう。あるいは、「オレはお前の10倍好きだ」といえば「オレはお前の百倍好きだ」と張り合った記憶もあるだろう。どちらも形容のインフレーションに陥っている。マウントを取ろうと使った形容(比較)表現が逆手に取られてインフレの泥沼に入ってしまうパターンだ。
その点、「忘れない」「許さない」は形容(比較)表現に身を投じず、絶対性の世界にとどまり続けているため、そのリスクを避けることに成功。それがインパクトをもつ理由ではないか?
もっとも、「アナタ」はちょっと違うかもしれない。というのも、形容(比較)表現を捨てたわけではないからだ。捨てたのは、「アナタ」にまつわるいろんな感情やエピソードである。だが、これとて書き出したらキリがないという意味では同じだ。「好き」「寂しい」「会いたい」書き出したらインフレーションの沼に入り込む。「アナタ」一言で済ますことで、夫にまつわるすべてのことがここに凝縮され、えもいわれぬ愛情を醸し出した、と言えるだろう。
以上、ごちゃごちゃ書いてきたが、言いたいのは…
オフ会の自己紹介でLilimiさんから飛び出した「います!」は①状態を表す言葉を選んだ巧みさ、②いろいろな表現をかなぐり捨てた潔さ、においてすごい言葉にゃーのだ!
Lilimiさん、連日引き合いに出して本当にゴメンネゴメンネ🙏おっと、このような場合も「ゴメンネ」で済ませた方が謝罪効果があるに違いない👍