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保護者に伝えたい、お子さんが水上エア遊具で遊ぶ時の見守りポイントと意識の持ち方

近年、海辺やプールで目にするようになった「水上エア遊具」。ライフジャケットを着用しながらクッション性の高い遊具で自由に遊べるため、一見“安全そう”に見えますが、実はライフジャケットを着ているからこそのリスクもあるのです。

2019年8月には水上エア遊具を設置していた遊園地(「としまえん」)での溺水事故が発生。消費者庁による事故調査と意見を受け、経済産業省では2020年12月に「水上設置遊具の安全に関するガイドライン」を策定しました。

水上エア遊具の安全な楽しみ方への意識が高まる中、海のそなえ事務局でも改めて保護者の方に水辺で遊ぶ際の注意点を認識してほしいと考えています。そこで、今回は日本ライフセービング協会の松本貴行さんに、お子さんと一緒にエア遊具を楽しむ際の注意点や意識して欲しいポイントを伺いました。ぜひ、最後までお読みください。

海のそなえ_松本さん

松本貴行さん
公益財団法人 日本ライフセービング協会副理事長・教育本部長
学校法人 成城学園 中学校高等学校 保健体育科教諭
消費者庁 消費者安全調査委員会 専門委員


そもそも「エア遊具」や「水上エア遊具」とは?

エア遊具…専門的には「空気膜構造遊具」と呼ばれる遊具。テント生地などの樹脂膜材で袋を作り、空気を送り込んで遊具としての強度を保持している。造形のデザイン度が高く、動物モチーフや大きなすべり台など、多種多様なものが流通している。

水上エア遊具…通称水上アスレチック施設と呼ばれることが多い。従来型のエア遊具と比べて、この5年ぐらいで急速に普及してきたニュータイプ。水上に浮かべるため、膜体に気密性を持たすか、または発泡材を膜体で包む構造のどちらかが主流。公営・民営の大規模プールや遊園地などのウォーターパークや海などに設置されることが多い。

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水辺のレジャーで絶対忘れてはいけない、3つのポイント

―水上エア遊具で遊ぶ際、保護者の方が注意すべきことを教えてください。

松本:
水上エア遊具はお子さん達にとって、とても楽しいアクティビティだと思います。夢中になって遊ぶお子さんの姿は、保護者の方にとってもかけがえのない大切な時間です。その上で水上エア遊具で遊ぶ際、お子さんが危険な目に合わないために!必ず意識して欲しいことが3つあります。


①死角が多いため、お子さんから目を離さない
②落水した際は、再浮上したことを必ず確認する
③お子さんに落水した時の対処法を伝えておく


① 死角が多いため、お子さんから目を離さない
水上エア遊具が設置されている場合、何もない所に比べて死角が格段に増えます。私たちライフセーバーは死角になりそうな所や高い位置、また水中などでの見守りをしていますが、やはり人が増えてくると、咄嗟に気付けない場合もでてきてしまいます。また、エア遊具は大小さまざまなパーツが組み合わさっており、連結部分にすべり込んでしまう可能性もあるのです。

そこで、保護者の方による見守りの目が必要になってきます。ライフセーバーに全てをお任せするのではなく、「お子さんにとってのライフセーバーは、まず保護者である自分たち」という意識を持って欲しいのです。

また報告として、「外傷」の事例が多く挙がっています。転倒からのねん挫脱臼骨折、あるいは保護者の方だと思うのですが、ぎっくり腰などもあります。そもそも遊具上は常に水で滑りますし、利用者同士の衝突も起こります。

また、濡れた体ですべり台を利用すると意外とスピードが出て危険でもあります。お子さんのみならず、保護者の方にもその点を注意して遊んでいただきたいと思います。もしそのような場面を見かけたり、ケガをしてしまった場合は、すぐにライフセーバーに声を掛けてください


② 再浮上したかを確認する
お子さんが水に落ちた場合、浮かんできたかの確認を必ず行ってください。水上エア遊具で遊ぶ際は、ライフジャケットを着用しているので水の中に沈んでも、一瞬で浮かんでくることができます。

参考
https://elearning.jla-lifesaving.or.jp/videos/save.html
(ICT教材 「e-Lifesaving」内「動画で学ぼう」に、ライフジャケット着用の有無による落水の違いを紹介しています)

もし浮かんでこないのであれば、エア遊具の下に潜り込んでしまったということ。再浮上の確認は、そのような緊急事態にもいち早く気付けるので、水しぶきを上げて落ちたあとも注意深く見て欲しいのです。①にもつながる部分ですね。

お子さんに落水した時の対処法を伝えておく
水上エア遊具は人の動きによって揺れ、遊具付近では波しぶきが発生します。落水した際に、その波しぶきが顔にかかったり、口に入ったりした場合、ちょっとしたパニックになることも考えられます。

水を飲んでしまうことで、呼吸の維持が困難になるかもしれません。ですので、遊具から落水した時はなるべく遊具から離れることや、遊具に戻るときはあの場所から…と教えるなど、落ちた場合の対処方法を事前に伝えておくことが重要です。

エア遊具自体にクッション性があるため、ライフジャケットを着用していると水中から遊具に登るのはかなりの難易度になります。それもあって、正しい登りやすいルートを教えておくことは重要です。

揺れを体感し、水に落ちてしまうかもしれない、というスリルはエア遊具特有の楽しみでもあると思います。落ちたらどうするかという対処行動をあらかじめ想定し、一緒に考えることが大切です。何か不明な点や教えて欲しいことがあれば遠慮なく近くのライフセーバーにお尋ねください!

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安全を守るライフジャケット、万が一の危険性を知っておくことも重要

―安全を確保する目的で着用しているライフジャケットですが、どのような危険性があるのでしょうか?

松本:
消費者庁の調査結果から分かったのですが、ライフジャケットを着用したまま水上エア遊具の下に潜ってしまうと、浮力でライフジャケットを着用した身体と遊具が張り付いてしまうのです。

その際の引っ張り出す力の測定では約200N(約20.4kgf)の力が必要でした。何もない状態のときの人を引っ張る力は約10N(約1.0kgf)ですので、いかに強い力を必要とするかがわかります。ちなみに男子競泳選手(大学生)が泳ぐときの推進力で、最もその力が強いとされるクロールで、平均約155Nと言われています。

よって、約200Nの抵抗がかかると自力で遊具下から抜け出すことは大変困難であることが推測できるのです。

急速に水上エア遊具が普及してきたことで、製品そのものの安全規格や、利用者が安全に楽しむための事前ガイダンス等、課題が残っていることも事実なのです。

話を元に戻しますが、遊具の下にお子さんが潜り込んでしまう可能性はゼロではないと思ってください。特に水上エア遊具の上から水面をのぞき込む、物を拾うような姿勢で不意に落水した場合、遊具の下に潜り込んでしまいやすいことも、消費者庁ならびに日本ライフセービング協会の実験で分かりました。

こちらが実験の様子の写真です。

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だからこそ、ライフセーバーと保護者の方のダブルの見守りが重要なのです。

私見ではありますが、お子さんがプールで遊んでいるときは、保護者の方はスマホなど使用せず、お子さんが体いっぱいに水で楽しんでいる姿を、しっかりと見ていて欲しいですね。それが何よりの「見守りの目」になります。

また、施設から渡されたライフジャケットが体に合っていない場合は、落水時の危険度が増します。体より大き過ぎると、ライフジャケットが顔を覆ってしまう場合があるのです。ライフジャケットのフィッティングは施設側に一任せず、保護者目線でもしっかり行うようにしましょう。

ライフジャケットの危険

(ICT教材 「e-Lifesaving」内「みんなで考えよう」動画より)

自分の体より大きめのライフジャケット、もしくはチャックやバックルベルトをきちんと締めていないと上記の写真のような状態から、一瞬でパニックになり、呼吸の維持が困難となる可能性があります。万が一、そのようになった時には「力を抜いて空を見て、浮き身の姿勢をとる」ことや、「ヘルプ(HELP)テクニックの姿勢を取る」ことで、体を安定させることができます。

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HELPHeat Escape Lessening Posture
(写真:日本ライフセービング協会「ウォーターセーフティ教本」より)

ライジャケ着用で泳ぐ場合

ライフジャケットを着用した状態で泳ぐときは、浮き身姿勢のまま、手や足を平泳ぎのようにして移動する方法をおすすめしています。
(写真:Royal Lifesaving Society Australia 研修より/JLA 松本さん提供)


実際に子どもの姿が見えなくなってしまった場合に行ってほしいこと

ーエア遊具で遊んでいたお子さんの姿が見えなくなってしまった場合は、何をしたらよいのでしょうか?

松本:
あまり考えたくない事態ですが、一緒に考えましょう。まず、保護者の方はいち早くライフセーバーに現状を伝えてください。そのためには監視しているライフセーバーの位置をあらかじめ把握しておくことが迅速な通報につながります。

事故を未然に防ぐことを第一義とし、万が一の際の迅速な救助、救命はライフセーバーの大切な役割です。救助へ向けた素早い連携のために、忘れないで欲しい事前の心得です

ご自身でお子さんを探し始めてしまう方もいると思いますが、大勢の人の中を探すのは至難の業ですし、何よりも時間を有してしまいます。そのタイムロスが救助の遅れにつながってしまう恐れもあるので、迷わずライフセーバーへ伝えてください。

取り越し苦労であればそれでいいんです。まずはお子さんの安全確認のために一刻も早い通報が重要です。迷子の捜索として同時に動く場合もあるのでお子さんの水着やキャップの色、年齢や身長など、手がかりとなる情報を的確に伝えられるようにしておくのもポイントですね。

間違っても保護者の方が、水中に潜って探したり、救助することがないようにしてください。

水辺のコミュニケーションをアップデートしていきたい

―水辺に触れる機会が年間を通して少ない中、水辺のリスクを回避する思考回路を育てていくために必要なのは、どんなことだと思いますか?

松本:
私自身、長く教育現場で子ども達と接してきて、ずっと考えてきている課題です。個人的には、保護者の方とお子さんとの間に生まれる日常的な対話の中で、常に“投げかけ”を大切にすることだと思っています。

例えばプールや海に泳ぎに行ったら休憩のときに「危ないと思ったことはあった?」というように、いわゆるヒヤリハットですね。お子さんと一緒にふり返って欲しいのです。

なぜ危ないと思ったのか?どうすれば次はそれを回避できるのか?休憩時間を例に挙げましたが、これは日常でもぜひやっていただきたいコミュニケーションです。小さなけがやトラブルにおいても、お子さん自らが考え、学んでいくことで、生きる知恵や対処行動として備わっていくのです。

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一緒に話して、一緒に考えるコミュニケーションで、子ども達の意識を自分自身に向かせることが大切だと思います。いわゆる“他人ごと化”せずに、“自分ごと化”して物事を考えさせることが大事なのです。

その上で、なぜ?どうして?をもっと大切にして欲しいと思います。ひとつひとつの行動の考え方や意味をひも解いていくことで、子ども達の思考回路に”より良い手段の選択“を根付かせることができるのではないかと思うのです。

危険や障壁を大人がすべて先回りして取り除くのではなく、またすべて答えを教えるのでもなく、一緒に考えてあげること。それらが子どもの自立した安全を培っていくことにつながると思うんですよね。それこそが大人の役割なのではないでしょうか。

昨今、大人も子どもも「ゆとり」がないように思えることも少なくありません。コロナ禍の影響もあり、当然ですよね。

特にこの一年は「体験」から学ぶ機会や、人との関わり合いが激減した年であったと思います。今一度、そんな時代を生きる子ども達の心に寄り添い、笑顔になれる時間や体を精一杯動かす時間を大切につくってあげたいですよね。

水辺はそうした機会を自然と創出できる場所だと私は思っています。体験から得られる学びは、子どもの人生においてまさに“潤い”を与えてくれる大切な場所です。子ども達のためにもぜひ、安全で楽しい!そして親子で学びある時間を過ごして欲しいと思います。

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水上エア遊具で遊ぶ際に注意して欲しいこと、心掛けて欲しいことをお聞きしました。ライフセーバーや監視員がいても、自分の子どもからは目を離さない。改めて、心に留めておいて欲しい内容ばかりです。ここまでお読みいただいた方は、ぜひ周りの方々へもシェアしていただきたいです。

教育の最前線でお子さんと接したり、ライフセービング活動に携わってきている松本さんだからこそ感じていること、伝えたいことをたくさんお聞きしました。オーストラリアでは常に子どもの見守りの意識を高く持ち続けるための方策として、プールサイドには多くの啓発を促すボードがあるとのことです。

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Keep Watch ロイヤル

(写真:Royal Lifesaving Society Australia 研修より/JLA 松本さん提供)

日本でももっと意識が高まり、いずれはそれが“普通”になればいいな。そう感じました。

松本さんが所属する日本ライフセービング協会では、オンラインで水辺(プール・海・川)との触れ合い方を学べるICT教材を公開中です。自宅にいながら楽しく学べるので、ぜひご覧ください!クイズなども盛りだくさんですよ〜!

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家庭や学校で学べる「守ろう!いのち 学び合おう!水辺の安全」

e-Lifesaving (2021年4月から携帯でも実施できるようになりました!)

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QRコードはこちらから!


出典:
経済産業省ホームページ(https://www.meti.go.jp/index.html
ニュースリリース『「水上設置遊具の安全に関するガイドライン」を策定しました』(https://www.meti.go.jp/press/2020/12/20201225010/20201225010.html