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【小説】メイドモテイク
一周忌法要を終えると、誰からともなく「片付け」の話になった。決してゴミ屋敷という訳ではないが、やはり昔の人らしく、実家にはそれなりに物が多い。
「ねぇ、これ何だろう」
と妹が、ガムテープでぐるぐる巻きにされた紙袋を指す。百貨店のロゴが入った小さいサイズの紙袋。それほど重くはない。中身は紙の束のようだ。チラシの裏に走り書きされた、小さなメモがテープで貼られている。
「メイドモテイク」
「メイドカフェのメイド?」
「maid も take?」
「いや、メイどもテイク?」
二人でケラケラ笑っていたら
「……それさ、あの世の意味の冥途じゃね?」
と小学生の甥っ子が口を挟む。
「ばあちゃん、冥途へ持っていきたい秘密があったんだよ、きっと」
甥っ子は、スマホから目を離さずに淡々と言う。
「あ、冥途持っていく!」
私と妹は、同時にそうつぶやいた。
そうと知っていたら、棺に入れてあげればよかったが、今さらどうしようもない。
「母の秘密」には興味があるような、何だか怖いような気もする。燃えるゴミとして処分してもいいのか。それとも、お焚き上げ? とか供養? とかしなきゃいけないんだろうか。
「見なきゃ、わかんないでしょ」
と妹は、サクッとハサミを入れた。中からは、十通ほどの封書が出てきた。
それらはすべて、母宛てに届いた手紙だった。その達筆には見覚えがある。別れた夫の、義母の字だ。
「……けれども由利さんに、一つも落ち度はなかったのでしょうか。由利さんとの間に、子どもを持つことは叶わないのです。子どものいない人生は、それは寂しく、虚しいものです……義隆の寂しかった思いも、理解してはいただけないでしょうか……」
「……どうかお願いです。生まれてくる子どもには何の罪もないのです。どうか、由利さんが道理をわきまえて離婚に応じてくれるよう、お母様から説得してはいただけないでしょうか……」
……読まなければ良かった。
瞬時に、かぁーっと頭に血が上る。一方的な言い分だけが、見事な達筆で連ねてある。母宛てに、こんな手紙が届いていたことを、私は今日まで知らなかった。離婚争議の間、私へは一通も届いたことがなかった。
「……どうする?」
引き出しの中身を、燃えるゴミ、燃えないゴミ、と手際よく分別しながら、妹が聞く。
「一択でしょ!」
私はそう言って、便箋をびりりと引き裂いた。小気味いい音が響く。
一枚一枚、私は丁寧に引き裂いた。びりり、びりりと、文字が判別できないくらい小さく、細かくなるまで。
「悪いもんは全部、ばあちゃんが持ってってやるからな、て言ってた」
甥っ子が、独り言みたいに言う。
私は、「メイドモテイク」のメモを、そっと撫でた。
「オ~レ~ オ~レ~ メイドモテ~イク メイド~ メイド~ メイドモテ~イク」
サンバのリズムで、妹が手をヒラヒラさせる。
「オレ!」
と私は、できたての紙吹雪を部屋中に、勢いよくばらまいた。
(1200字)
こちらの企画へ、勇気を振り絞って💦参加いたします。
新参者ですが、どうぞよろしくお願いいたします。
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