仮の世を瞬きもせず年暮るる
2024年が、もうすぐ終わる。
私が2021年の夏に note をはじめたのは、自分語りのエッセイを発表するためだった。
書いて手放す作業療法の場として、人生初のSNS、note を選んだのだ。
やがて程なくして俳句と出会い、いつの間にかすっかり俳句アカと化していった私の note 。
たくさんのご縁をいただき、未知の世界へ踏み出すことができた。
みん俳クルーの皆さま、俳句幼稚園の皆さま、本当にありがとうございました。
2024年は、さらに思いがけず、小説と向き合う一年でもあった。
思いつきではじめた短編連作は９作を数え、畏れ多いけれども、私なりの「ナイン・ストーリーズ」が完成した。
読んでくださった皆さまへ、心から感謝いたします。
また、これまで参加など思いもよらなかった「秋ピリカグランプリ」に勇気を出して応募し、ナアジマ ヒカル賞に選んでいただけた。
その節は、本当にありがとうございました。
ゆっくりゆっくり、ほんの少しずつではあるけれど、歩いた分だけ前へ進んで、以前には思いもしなかった場所に、今私は立っている。
来年は巳年。
ヘビが脱皮する特性にちなんで「再生と誕生」を意味する年と言われているそうだ。……そうなのか。
それならば私も堂々と、再度誕生し、何度目かの再生を果たす一年にしたいと思う。
来年の今ごろ、胸を張って笑っていられますように。
今年一年、お世話になった皆さまに、心から感謝いたします。
相変わらずの私ですが、どうぞこれからも仲良くしてやってください。
皆さまが、よい年をお迎えくださいますようお祈り申し上げます。
一年の締めくくりとして、今年１月から12月までに詠んだ俳句を並べてみました。
よろしければ、ご笑覧ください。
（皆さまにいただいた推敲案を取り入れて、初出より変わっている句もあります。中には推敲案をそのまま、いただいた句もあります。ありがとうございました）
初空や見慣れし街を上書きす
年迎ふ解なき問ひを溜めしまま
大幣の寒き頭上をひだりみぎ
引越しは二トンで足りる霜の朝
朝練の声まつすぐに霜の道
新調のセーターで待つ面会日
寿ぎやひと息に剥ぐ河豚の皮
言ひたくて言ひたくなくて蜜柑剥く
「戦闘」を「一旦停止」して蜜柑
雪晴や若先生の往診日
隣家ではミケと呼ばれて冬日向
山茶花の角に集まる遠征日
山茶花や移動スーパー再開す
春を待つキッチンカーの多国籍
寒梅や鞄ひとつの旅支度
三冬尽く秘伝の玉子焼甘し
すり傷は知らぬ間に失せ冬終はる
女生徒の膝は平らか春立てり
早春の光や手話の矢継ぎ早
淡雪や「ベントウハアタタメマスカ」
ワイパーは重し余寒の縦貫道
鍵盤の十指に絡みつく余寒
内見の足音絶へて余寒なほ
泣きやまぬ子を抱いてゐる霞かな
囀や増産決まる螺子工場
標識の矢じるし空へ囀れり
十字路に立つ春愁の昼下がり
川底の礫東京大空襲
俗名すゑ、享年二才、胡蝶舞ふ
酔へばまた昔のはなし春灯
新人の膝を揃へて花見かな
跡継ぎはキラキラネーム花の宴
ゲーテなど携え独り花の茶屋
エープリルフール大口開ける河馬
傑作をつひに著す万愚節
駄菓子屋の床几飴色一葉忌
逸れてゆく老医のはなし山笑う
病臥して閑かな朧月夜なり
そろりそろり病臥の窓を春暮るる
春の暮つとすれ違うスナフキン
ミルクティーベージュに染めて夏に入る
水中花わるい噂とよい噂
この辺にタイムカプセル蜂飛べり
サイダーと「二十億光年の孤独」
夏めくやチャリ連ね行くちゃんこ番
「就活の軸」問はれたる街薄暑
スタンドに揃いのジャージ薄暑光
東屋で合わすソプラノ聖五月
葉桜のベンチで復習うアヴェマリア
葉桜や登校班の声いろいろ
南風や心中といふ終はりかた
死の島の洞を鳴らして南風
浄土辞し早や蟷螂に生まれけり
ワイパーに磨かるる六月の空
アイスティー看板猫の眠りをり
短夜や再放送の白き顔
短夜の明けて見知らぬ貌の街
夏深し秘仏の厨子は閉ざされり
背の褪せた新潮文庫桜桃忌
炎天を穿つ重機のガガガガガ
鉄骨をガバリガバリと剥ぐ炎暑
満腹のパンダ横たふ晩夏かな
盲導犬伏せる夏休みの座席
朝市や濡れた水着で選る果実
黙祷の空の広さや原爆忌
蜩や軍歴証明書の余白
秋蝉や献花萎ゆる壕の跡
言はぬ子は言へぬわけあり鳳仙花
地球儀の丸し八月十五日
八月を印す次世代の語り部
八月の曇天「百年の孤独」
読終へて終へる八月サリンジャー
猿ガ出マス烏ガ来マス墓参
バス揺れて空に近づく墓参
銀鼠の僧衣おもむく野分あと
天高し僧衣はためくスクーター
秋澄むや海の朝市完売す
家出して散歩でおわる星月夜
色鳥のこゑ万国旗ひるがへす
色鳥や付箋重なる文庫本
子の泣きて寝てまた泣きて石榴爆ず
実柘榴の零るるやうに忘れたり
不揃いの自家製野菜水澄めり
木犀の香や路地裏を遠回り
ほんとうのことは書かない鰯雲
減便のバス停ともる秋の暮
袖口の釦を留めて冬来たる
ドストエフスキーと火酒と冬の夜
防災のサイレン渡る枯野かな
キャンディーズ縛り小春のカラオケ会
末つ子の友は末つ子冬暖か
ピロシキの隣にケバブ冬ぬくし
冬暖かし旧邸を公開す
括られし英英辞典漱石忌
塗抹せし草稿十二月八日
凍土や平和の文字を子は知らず
転出の掲示増えたる冬至かな
ペヤングを湯切り聖夜の警備室
ゆるキャラの小椅子はみ出す師走かな
御仏の印相全し春隣
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