誰にも見られることなく
誰にも見られることなく散っていく桜よ
おまえは可愛い
誰にも褒められたことのない灰色の幹よ
おまえは立派だったぞ
誰にも気に留められなかった蕾の頃
おまえは咲くのを楽しみに待っていたんだよな
誰にも顧みられることのなかったその枝ぶりに
おまえは一番美しい姿を飾ろうとしていたよな
誰にも見られることなく満開になった桜の頃
急に降り出した細い雨を
身をかわして避けながらたどり着いた小鳥のために
おまえは鞠のように集まった満開の花たちで
雨除けになってくれたよな
月の出ていた夜も
風が吹いていた午後も
おまえはいつも慈愛に満ちて
誰にも見られることなく散っていく桜よ
おまえが愛しい
誰にも見られることなく枝を離れる花びらよ
おまえたちを忘れないからな
来年は会いに行く
マスクを剥いだ顔で会いに行く
どうかあの森で
あの公園で
あの道端で
あの庭で
同じ顔を見せてくれ
誰にも見られることなく散っていった桜よ