親になるには練習が必要 「語りかけ育児」の方法と成果
●語りかけは、発語を促すためのものではなく、親になるための方法
●親になる、とは子どもとコミュニケーションを取れるようになること
●「語りかけ」の教科書に沿って親になるのも一案
子どもを産んだからと言っていきなり親になれるわけではない。抱っこの仕方も、おむつ替えの仕方も、接し方もわからない。産前、大人だけの論理の世界で生きてきた私にとっては、赤ちゃんという未知なる存在が目の前に現れることが少し怖かった。赤ちゃんにうまく応対できる気がしなかった。親戚も少なく、小さい子にふれあった機会がほとんどなかったので、自分の赤ちゃんにもどうせっしたらいいのかわからなかった。
不安に思っていた産休中、たまたま「語りかけ育児」のマンガと本に出会った。
本の方が大元で、わかりやすくマンガにしたのがコミック版。後から知ったのだが、著者はイギリスの言語聴覚士で、日本版は日本保育学会会長が監修しており、ある程度信頼できる内容なのだと思う。
この本に書いてあるのは、毎日30分、赤ちゃんに言葉で優しく語りかけるということ。併せて月齢別の遊びやふれあい方も紹介されている。
私は「教科書」というものが大好きで、自分が勉強する時はまず教科書を探す。仕事柄、あまり詳しくない分野の勉強をすることもあるので、そういったときはまず教科書を開く。
産休中にこの本に出会い、これは育児の教科書だ、と思ったので、産後は教科書に沿って毎日30分、赤ちゃんに言葉で優しく語りかけることを続けてきた。この記事では語りかけの具体的な方法と1年間の成果を書いておきたいと思う。
●「語りかけ育児」の方法
月齢によって変わっていくものの、基本となる0歳前半の語りかけの方法は以下の通り。
・赤ちゃんと自分だけの時間を1日に30分確保する
他の人の出入りはできる限り少なくする
テレビや音楽を流さない
・赤ちゃん向けの話し方をする
短く簡単な文にする
声を少し高めにする
同じ言葉や文を繰り返す
・赤ちゃんと会話する
赤ちゃんが何か音を発したら応答してあげる
喃語をそのまま言い返す
・赤ちゃんの興味に大人が合わせる
赤ちゃんが見ているものの名前を言う
赤ちゃんの言いたいことを代弁する
(逆に、赤ちゃんに話させようとしたり、何かをさせようとしたりしない)
私は産後翌日、母子同室が始まった日の夜、赤ちゃんに初めて語りかけた。赤ちゃんは寝ていたが、とりあえずやってみた。
よく生まれてきたね、嬉しいよ、と伝えた後、いろんな友人からもらったお祝いのメッセージを読んだ。
「○○ちゃんっていう人がいて、私の高校の友達で、赤ちゃんにこの先幸せなことがたくさんありますように、と言ってくれたよ」という感じ。
生後1日目の新生児には難易度が高すぎるが、ぼろぼろ泣きながら語りかけていた。
退院して、少しずつ起きている時間が長くなると、抱っこしながらルームツアーをした。
「これはテレビ、ソファ、ベッド、机、大人の椅子、バウンサー、こっちはキッチン、冷蔵庫、炊飯器、ヨーグルトメーカー、ケトル、電子レンジ、コンロ、ミルク作る機械(Baby brezza)、シンク、こっちは洗面所、お風呂、洗濯機……」という感じ。家の中を何周したかわからない。
その後は成長に合わせて、ふれあい遊びをしたり、ベランダに出たり、絵本を読んだり、お散歩したり、おもちゃで遊んだり、歌ったり、いろいろな形で語りかけた。月齢別の語りかけの方法が教科書に載っているので、チャレンジした。
30分というと、誰でもできそうな気がするが、なかなか難しい。特に動き出したり保育園に行くようになると、30分確保することが少しずつ難しくなった。
うちは割とねんねの時期が長かったので、30分まとめて取りやすかったが、最近はできない日も増えてきた。
現在エン様(赤ちゃんのあだ名)は1歳1ヶ月。どのような効果があったのか、検証してみたい。
●「語りかけ育児」1年の成果
語りかけ育児は発語を促すような気がするが、そもそ目的は(発語を促すことではなく)大人と子どもが対等な関係でコミュニケーションを取れるようにすることとされている。だから成果は「子どもが○○できるようになった」ということと同様に「大人が○○できるようになった」という点で評価するのが適切だと思う。
そして「子どもが○○できるようになった」という発達の度合いは、遺伝と環境の影響があり、個人差があり、早いから良い・遅いから悪いというものではない。なので今回は「大人が○○できるようになった」という点を3つ考えてみたいと思う。
①赤ちゃんと当たり前のように話せるようになった
何よりこれに尽きる。
産前は赤ちゃんにうまく接することができる気がしなかった。産後しばらくはぎこちなく、義母の方が赤ちゃんへの話し方も抱っこの仕方も余程うまかった。
しかし毎日語りかけ育児を続けるうちに、赤ちゃんと当たり前のように話せるようになってきた。
私は関西弁と標準語まじりの変な言語で、実況中継したり未来の予告したりしている(今日のご飯は焼き魚、もう眠いからお風呂入って寝よっか、明日は横浜行くよ、とか)。
エン様は「ん、ん」「ねー、ねー」と言ったりしている。歯磨きの時は寝ころんで口を開け、着替えの時は自分で服を引っ張ったり足を挙げたりするようになったので、話が通じてるな、と感じる。
こういう風にコミュニケーションできるようになったのは、毎日練習をしたから。親になるのも練習が必要と感じる。
②赤ちゃんの自発的な成長を見守れるようになった
発達には個人差があると頭ではわかっていても、周りの子と比べたりしてしまいがち。でも「語りかけ育児」では赤ちゃんに話させたり、何かをさせようとすることをやめるように書かれているので、何かをさせたくなってもぐっと我慢している。
例えば、誕生日プレゼントに積み木を買ったので積み木で遊んでもらいたいが、エン様に押し付けないよう気を付けている。私が積んで遊んでいることはあれど、そこに寄って来るか他の遊び方をするかはエン様次第。
ちなみに「語りかけ育児」の本には疾患の可能性についても触れられているので、発達の遅れで医療機関を受診すべきか考える材料にもなる。
③赤ちゃんとの接し方に自信をもつことができた
産後、いきなり何も知らない状況で宇宙人みたいな新生児と一緒になり、育児が始まる。何が正解なのかわからない。正解がないからこそ、自分のやり方で大丈夫なのか自信が持てない。
そんな時に役立つのが教科書だ。教科書がある程度の道筋を示してくれ、安心して歩いて行ける。別に道を逸れたり戻ったりしてもいいが、教科書には多くの経験をもとに、現時点で確からしい道筋が載っている。そこを頼りにするのもいい。
少し話は逸れるが、学生時代から勉強ができない人は「教科書通りするのが苦手な人」が多いと感じる。教科書通りにするって、結構難しいのだ。
教科書通りにすれば解けるはずの最たるものが数学だと思うが、公式通りに解いていく、というのが案外難しい。人間だから「こうしたらいいのでは」「こんなやり方もあるのでは」と考えてしまう。でも大抵うまくいかないか、余計に時間がかかる。 社会人になってからも、会社には様々なマニュアルがあるのに、それ通りにできない人がいるからエラーはなくならない(私もその一人)。
「語りかけ育児」の本の素晴らしいところは、大切なことを何度も繰り返し書いていることだ。教科書に沿って進めていても、ある程度続けていると「ちょっとくらいテレビつけても大丈夫なのでは」とか「発語を促すために質問をあれこれした方がいいのでは」という思いが頭をもたげてくる。でも本を開くと「まだテレビはいりません」とか「返事を期待した質問をしてはいけません」と書いてある。
教科書通りにするのが難しい人間相手にうまく考えられた構成だと思う。
「語りかけ育児」の目的は、大人と子どもが対等な立場でコミュニケーションをすること。「語りかけ育児」が自己肯定感につながり、発達や成長の土台を作る。
今回は書かなかったが、反省点(まだうまくできていない点)もあるので、大人側もまだまだ成長したい。
乳幼児ママパパさんで「語りかけ育児」の本をまだ読んでない方は、ぜひコミック版を読んでいただけたらと思います。コミック版はすぐ読めるので、エッセンスを学ぶことができます。より深く知りたいと思ったらハードカバーの方もどうぞ。
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《終わり》