お化け屋敷
中学3年生の時、文化祭の教室展示で、暗幕で部屋を真っ暗にすることが禁止になった。
お化け屋敷をしようとしていた私たちにとっては、大悲報だった。
暗くなかったら、お化け屋敷にならんやん。
そんな反発が出るのは当然だった。
それでも何とか最低限の明るさを確保して、お化け屋敷をやり遂げることができた。
私が担当したのは、お化け役ではなく、最初のナレーター役。
美術館?の設定になっているお化け屋敷のストーリーを語り、ただ驚かすのではなく、来訪者により世界観に浸ってもらいながら怖がらせるための演出係だった。
ナレーターのセリフは決まっていたので、何度も練習をした。
ナレーターが噛んだり台詞を忘れたりしてしまっては、せっかくのお化け屋敷が台無しだ。
緊張しつつも、はじめてのゲストさんを迎え、私は語り始めた。
台詞の中に、振り返るシーンがあった。
ストーリーの主人公、メアリーという少女が、絵を見ているうちに、靴だけを残して姿を消してしまうという場面。
ナレーターが振り向いたタイミングで天井から、糸で吊るした小さな赤い靴を落とす、という台本。
しっかりら空気感を作って、振り向いたその瞬間。
コツン。
小さな靴が、音を立てて落ちた。
私の頭の上に。
本当は床に落ちるはずのその靴が、私のつむじを直撃した。
痛いし、驚くし、面白い。
声と肩を震わせながら何とかその回は乗り切った。
後で、靴を落とす係だったクラスメートに謝られた。
仕方ないよね、暗いんだから。私の立ち位置が悪かったのかもしれないし。
ああ、こういう事故を防ぐために、お化け屋敷が真っ暗だと危ないんだな。
規制の意味を、身をもって体感した出来事だった。
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