【短編小説】 水滴|後編
家に帰ると、暗い廊下に何かが擦れるような音が響いていた。手探りでライトのスイッチを入れて音のする方を見ると、蛇口から水が勢いよく出ていた。蛇口を閉めたその夜から、僕は水滴を眺め続けた。
水滴はペースを変えることなく、僕の視界を移動し続けた。それ自体が時間であるかのように、正確なリズムを空間に響かせていた。しかしその間、僕は彼女と別れた日のことしかしか思い出すことができなかった。耳をくすぐる彼女の髪、笑い声、真剣な顔、吐息、そして青い花柄のニット。人は飛べないのか。 僕は混乱