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【解釈】ナイン・ストーリーズ「バナナフィッシュにうってつけの日」

ナイン・ストーリーズ
「バナナフィッシュにうってつけの日」J・D・サリンジャー

※ネタバレあります

【あらすじ】
①電話
ビーチサイドのホテルでミュリエル・グラースはニューヨークの母親からの電話を取る。母はミュリエルが夫(シーモア・グラース)と居るのを心配している。「早く帰っておいでよ 」と。シーモアは戦時中、軍隊にいた。その後、精神病院に入院していた。時折シーモアには奇妙な言動があることから、母親は娘ミュリエルのことを心配していた。しかし、ミュリエルは「ずっと彼の帰りを待っていた」と話す。
②バスローブ
海に来ていたが、シーモアはバスローブを脱ごうとしない。ミュリエルと母は「肌があんまり白いから隠したんじゃないの?」「彼は刺青を見られたくないと言っていたよ」「(刺青)いつ入れたのかしらね」と話していた。
③ビーチ
幼女のシビル・カーペンダーが母親とビーチに来ている。シビルはビーチに1人で来ていたシーモアと出会う
④バナナフィッシュ
シーモアはシビルに「よし、今からバナナフィッシュを捕まえに行くんだ」と言ってバスローブを脱ぎ、2人で海に入る。しかし、シビルはバナナフィッシュを見つけられない。
バナナフィッシュについては「習慣が変わっているんだ。悲劇的な生活を送る。バナナがどっさり入った穴の中に入っていく。入った時は普通の形をしてる。でも、中に入ると肥えて外には出てこれない」その後は死ぬとシーモアが説明する。
波が来て2人がのまれた時、シビルがバナナフィッシュを1匹みたと言う。彼はシビルの踵にキスをする。
⑦彼がホテルへ戻る
エレベーターで他人の女と乗り合わせる。亜鉛華軟膏の匂いがした。シーモアは女性に言いがかりをつける。「あなた、僕の足を見てますね」「僕の足は2つともまともな足なんだ」女はただ床を見ていただけ!と強く言う。
⑧最後
ホテルの自室に戻ると彼女が寝ている。彼は荷物から拳銃を取り出し頭のこめかみに当て、打った。自殺をした。

【わたしの解釈】
『バスローブ』を脱がないのは、足の傷を隠している。傷は兵役をしていた時にできたものだろう。
目に見える傷は、心の傷とも言える。苦しみは時間が経てば過去になるが、過去になったとしても、あったことを無かったことにはできない。そのなかったことにできない事が「傷」として残る。
しかし、その傷は他人がみても分からない。足の傷がバスローブで隠れてることについては、「心の傷が隠れている」とも言える。

戦争は無かったかのように彼女たちの世界ではいつもと変わらぬ穏やかな時間が流れている。ある意味楽観的。戦争を経験した彼と彼女では、超えることのできない壁があるのだろう。

彼とシビルが砂浜で出会う。子供は正直、そして知らない。戦争のことも。そして、偏見も。彼の傷を見ても恐れることなく、寧ろ「バナナフィッシュを見つけた」といって無邪気に喜んだ。『バナナフィッシュ』は彼がバスローブで隠していた足の傷だと考えられる。
戦争で変わってしまった周りの仲間、そして自分自身。もう昔の自分に戻ることはできない。しかし、今のシーモアを自然と受け入れてたのが「シビル」なのではないか。

エレベーターの1件。『亜鉛華軟膏』は兵役していた時、火傷に使っていた塗り薬。その匂いで当時を思い出し、口調が荒くなる。いわゆるフラッシュバック。

シーモアは戦争から戻るが、戦争に対して楽観的な世の中。その世の中を生きる彼の苦しみは、愛する人にさえ理解されなかった。
誰にも理解されない苦しみを抱えたまま、彼は生きるのを諦めてしまう。


【全体を通して】
相手に理解されるのは難しいことだ。経験のないことに関しては特に。
戦争を知る人と知らない人では埋められない溝がある。だから理解し合うことは難しい。
しかし、相手のことを知ろうとすることは必要だと思う。もし彼女が、変わってしまった「彼」を知る努力をして受け入れることをしていたら、結末は変わっていたのかもしれない。
戦争中も、精神病院に入院していた時も「ずっと待っていた」のだから。

【余談】
『匂い』の記憶は残りやすい。彼にとって亜鉛華軟膏は戦争を思い出す『匂い』で苦しい記憶として残っていた。
貴方には、記憶に残る『匂い』はありますか?わたしはあります。綺麗な思い出の中に『香りの記憶』があります。

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