負債の意味について考える

令和7年(2025年)度の日本国政府予算案は、115兆5000億円あまりとなっており、このうち28兆6000億円あまりが国債発行により賄われる見通しとなっています*1。国債の発行とは、日本国政府が債券を発行し、債券を購入してくれた団体、または個人から、購入してくれた金額分を一時的に借り入れることを意味します。債券を購入すると、決められた利息を受け取ることができるようになっているため、ボランティアで日本国政府にお金を貸し出しているわけではなく、利息を得るための投資行為になっています。
 
予算に占める国債の割合は約24.8%となっています。報道によれば、予算の1/4を借り入れに頼っており、日本国の財政は危機的な状況にあるとされています。危機的と聞くと悪いイメージが浮かびますが、冷静に考えるための参考として、日本を代表するような企業の財務状況を見てみたいと思います。
 
代表として、トヨタ自動車株式会社の2024年3月期の有価証券報告書*2を確認してみましょう。
 資産:90兆1000億円あまり
 資本:35兆2000億円あまり
 負債:54兆9000億円あまり
 負債の比率:60.9%
なんと負債の比率が60%を超えています。負債の中には事業活動を行う上でどうしても生じるものもあり、いわゆる借金のような性格ではないものも含まれはしますが、割合としては1/4どころではありません。しかしながら、これは大変な事態で、トヨタは経営危機に陥っている!という話はどこからも聞こえてきません。これは少し考えてみる必要がありそうです。
 
トヨタが経営危機に陥っているとほとんどの人が思っていないのは、おおよそ次のようなことを理解しているためだと考えられます。
 ・2024年3月期の1年間で5兆円の利益を稼いでいる
 ・今後も継続して同水準の利益を出す、あるいは利益を拡大するという
  事業計画があり、負債は、将来の利益を得るための投資に使われる
誤解を恐れずごく簡単に言えば、借り入れたお金をうまく使って、しっかりと稼いでくれるはずなので、負債以上の利益を生み出すはずだ、と多くの人が考えている、ということでしょう。
 
ここで政府予算案に戻ってみましょう。28兆円の借り入れは確かに巨額ではありますが、これを元手に将来28兆円を上回る利益(政府の立場から見れば税収)が得られるのであれば、特に大きな問題にはならないはずです。ここで重要になるのが、28兆円の投資先と、投資を回収するための計画ということになります(政治の議論では、政策と呼ばれるものです)。ビジネスの現場では、まともな事業計画がなければ、銀行の融資も受けられませんし、企業内でも費用を使う承認が受けられないのが一般的だと思いますので、特におかしな考え方ではないでしょう。
 
政府が支出する費用には、各省庁の職員に支払われる給料のようないわゆる必要経費に相当するものも当然含まれているはずですが、社会インフラへの投資、将来有望な産業を育成するための投資、将来イノベーションを起こしてくれるかもしれない人材への教育投資など、将来の利益=税収につながる支出も含まれているはずです。したがって、納税者として注目しなければならないは、国債の発行額やその割合ではなく、どのような分野、どのような目的に税金が支出されていて、それが将来の経済成長=税収につながるのか、ではないでしょうか。
 
引用:
*1財務省 令和7年度政府予算案
https://www.mof.go.jp/policy/budget/budger_workflow/budget/fy2025/seifuan2025/index.html
 
*2トヨタ自動車株式会社 有価証券報告書・半期報告書
https://global.toyota/jp/ir/library/securities-report/?padid=ag478_from_header_menu

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