Q. 外国語力が伸びやすい生徒の特徴は?
A. 勉強量が多い、反復練習する、システムを考える、モノを知っている。
この記事は「これをやれば伸びる」「こういう生徒でないと伸びない」という趣旨ではない。
仕事でもスポーツでも学習でも、たとえエビデンスは少ないにしても当てになる経験則というのがあり、それは外国語教育/学習でも同じである。今回は「外国語が伸びやすい人の特徴としていえそうなもの」について考えてみる。
【①勉強量が多い】
これはもうあらゆる学習にも技芸にもいえる。
「やれば→成果が出る」というのではない。「成果が出ている→やっている」ということだ。成果が出るまでの時間には個人差があり、再現性がない勉強法でも短期間で大きな効果が出る場合もあるが、いずれにせよやらなければ始まらない。
ゲームで経験値を得てレベルが上がることやビジネスでカネとモノを交換するのとは違う。内田樹が述べるように、労働や学びは等価交換ではなく、このリスク社会で有利なのは努力が必ずしも報われないリスクに逆らって努力を継続する人だ[1]。
「これだけ頑張ったのだから、相応の対価が欲しい」と思ってもそうはならない。主観的努力が常にそれと等価の結果をもたらすわけではない。
付け加えていうならば、教える側から見ると、生徒のいう「やっている」は全く不十分であることが多い。自分で思う「これくらいでいいかな」の3倍(あまり根拠はない数字だけれど)やってみると、どうなるだろうか?
【②反復練習する】
「ぺらぺら」話せるようになりたいのなら、「電車は何時出発?」「14:25だよ」というような簡単な内容でも、まったく考えることなく反応できるようになるまで繰り返す必要がある。
「あれはなんていうんだっけ」と一瞬でも考えれば、そこで流れが止まってしまうからだ。
単純な文法問題演習でも価値がある。単文の訳でも価値がある。膨大な量を繰り返すことで、自動化できていく。忍耐力は武器になる。
【③システムを考える】
たとえば、「ピピピチチチ」が「敵がいる」、「ピピピピチチチ」が「エサがある」、「ピピピチッチッ」が「敵がいない」という意味だとしよう。極端な例だが、英語以外のよく知らない外国語のフレーズを丸覚えしようとすると、このように見えるのではないだろうか。
こうしたフレーズを丸ごと覚えるのも一つの手だが、「ピピピ」が「敵」、「ピピピピ」が「エサ」、「チチチ」が「いる/ある」、「チッチッ」が「いない/ない」だと分けて考えたらどうだろう。「ピピピピチッチッ」の意味は簡単にわかるのではないだろうか。
「聞き流し」や(一切考えない)丸暗記の効率が悪いのはこういうことだ。システム=文法を考えれば応用ができる。学習の効率が上がる。英単語の語根を考えたり、韓国語を漢字と合わせて学んだりするのもシステムを利用した効率の良い学習だ。
【④モノを知っている】
母語でわからないものが外国語でよくわかるという事態は少ない。専門性が増して何の話をしているのかわからなくなれば、文字通り話にならない。文章も読めない(もちろん聞いてもわからない)。
英語学習でも上級になってくると大変なのはここである。筆記試験で出される内容が難しい。リスニングの会話の内容が高度になる。結局は色々なことをどれだけ知っているか、という点が重要になる。
【⑤未知のものに対する耐性が高い】
学習中、新しい概念や複雑な概念に出会ったときに、「こんなもの意味がわからない」という態度をとるのか、「面白そう」と思えるのかによって、学習の進みは全く異なる。
知的好奇心の有無といってもいいし、あるいは自分にとってなじみのないものにどこまで寛容になれるかの問題だといってもいいだろう。未知の概念でもとりあえず「こんなものか」と納めておくこと。いつまでも母語(日本語)にこだわっていると学習ははかどらない。
結論:寛容な態度で考えながら繰り返し、量を重ねる。
[1] 内田樹『下流社会』講談社、2013年。