Q. 外国語を自然に身につけるには?
A.自然に身につくことはない
私たちはそう考える。経験上、自然に外国語が身につくことはない。例えばバイリンガル家庭にでも生まれないかぎり「自然に身につく」のは無理であろう。なぜならば、自然とは「おのずからそうなっているさま」(新村出『広辞苑』第6版)だからである。
話が終わっちゃったじゃん、と思ったそこのあなた。焦ってはいけない。
この「環境」さえうまく作りだすことができれば、「自然に」外国語を身につけることも夢ではない。
環境そのものを作り出すことがいかに大事か。経営コンサルタントとして名をはせる大前研一は、著書『時間とムダの科学』のなかでこう語った。
「人間が変わる方法は三つしかない。一つは時間配分を変える、二番目は住む場所を変える、三番目は付き合う人を変える、この三つの方法でしか人間は変わらない。もっとも無意味なのは「決意を新たにする」ことだ。かつて決意して何か変わっただろうか。行動を変えない限り、決意だけでは何も変わらない。」
時間配分、住む場所、そして付き合う人、大前流にいえばこれらは「行動」であるが、自分の外部にあるという意味では「環境」と同じである。
大前がここまで言い切る背景には、人間の意志の弱さに対する信頼があるためだ。「男子、三日会わざれば刮目して見よ」格言もあるが、まれな例だからこそ「かくあれかし」という意味で現代まで語り継がれているのである。人の心など生生流転するからこそ尊いというものであろう。
では大前の観点を下敷きに、外国語が自然に身につく環境整備について考えてみたい。
【①時間配分】
一週間のうち、いったい何時間を言語学習に割いているだろうか。例えばここで重要なことはあくまで環境づくりのための時間管理であるという点だ。そう考えると、3日に1回4時間よりも、毎日の通勤・通学のすき間時間のなかでコツコツ10分の方がよいということはおのずと明らかであろう。毎週外国語の授業に出席するだけでは成果に結びつかない。不可解なほどの睡魔が襲ってくる90分の講義でも一週間のうちに占める割合はわずか0.009%以下だ。外国語学習に割く時間を、環境といえるほどの習慣として日々の中にいかに織り込んでゆけるかがキモとなる。
(外国語学習における時間配分の重要性とコツについては、『Q. 時間をかけたくないんだけど?』で詳しく解説している。)
【②住む場所】
外国語学習の場合、これは少々厄介な点だ。なぜならば外国語の本場は外国だからである。日本という極東の島国に暮らす我々にとって文字どおり「海外」こそが外国であり、船や飛行機なしに島を抜け出すことは困難を極める。まして昨今の円安の嵐の中で何の保証もなしに海外に打って出ようとすれば、下手をしたら破産の憂き目にあうおそれもある。
このようにおいそれと住む場所を変えることはできないものの、自分が暮らす地域のなかに外国語が集まる場所があれば、ぜひそこを訪ねることをオススメする。例えば英語教室や、すこし変わったところだと地域の教会(ただしその教会が安全かどうか注意深く吟味してほしい)も何らかの外国語に触れられる機会になるだろう。
【③付き合う人】
これは②住む場所とよく似た要素だが、こちらの方がより人間同士のコミュニケーションに着目している。つまり、その外国語を使って相手に伝えたいことはなにか、伝えたい相手はいるかといった観点だ。外国語学習の業界では「外国人の恋人は上達の近道」といわれるが、やはり通じ合いたい相手がいる場合は強い。恋人や配偶者はハードルが高いとしても、最近では言語交換(ペアとなる二人それぞれが、パートナーが学習中の言語を母国語として話すこと)の相手をアシストしてくれるアプリケーションなんかもある。実際に顔の見える相手がいる場合、言語学習のリアリティが爆増することは確かだ。
結論:自然に身につく環境を人工的に整えよ。
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