すみっこ。
私はいつだって、すみっこにいた。
誰の目にもつかない、教室の隅に追いやられた埃のようにすみっこにいた。
教室の一番奥の端、窓際のその席は私にピッタリだ。
窓から吹き込んでくる、初夏の風に紛れて存在を消してくれる。
私は、誰からも見向きされない空気以下の存在だ。
学年は上がっても、クラスは変わらない不思議なシステム。そんな小さな世界で私はすみっこにいる。
でも、慣れれば楽なものだ。
誰にも邪魔されず、背中を眺めていられる。
感情豊かなその背中を。
クラスの中心にいるその人は、私の世界とは真逆の世界の住人だと思っていた。
目は口程に物を言うというけれど、その人の感情は背中に出ていた。顔を見なくても、言葉を交わさなくても手に取るように、分かる。
その人はクラスの真ん中にいながらも、時々憂いな顔をした。
まるで、おなじ世界の住人のように感じた。
右斜め前のその背中。
触れたくても、触れられないし、話しかけようものなら、私の机は犬走りに置かれているだろう。
そう思っていた。
それほどまでに遠い存在だった。
あの日までは。
「名前。なんて読むの」
たった一言。されど一言。
その言葉は世界が動く音に聞こえた。
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