〈注意を要する高校生〉保護者へ連絡する際に気をつけていること
高校において「注意を要する生徒」と聞くとどのような行為が浮かぶだろうか。
たとえば飲酒や喫煙などの法に触れる行為、試験中のカンニングや授業中のスマホいじりなど大なり小なり学校内のルールに反する行為、それから提出物の管理ができなかったり落ち着きがなかったり、友人(恋人)間のトラブルを招いたり、深刻な悩みごとを抱えたりするような、特性や性格や環境などに起因する細々とした行為……
このように挙げると、何かしらの点で注意を要する生徒の数は、どんどん膨れあがっていく。
さて、そういった注意を要する生徒と信頼関係を築くうえで、わたしは気をつけていることがある。
先に述べておくが、
・生徒と向き合う
・生徒に寄り添う
・生徒の話を聞く
・生徒を褒める
・生徒の様子を見る
などの当然かつ抽象的なことを書くつもりはない。このような答えを用意されても、きっとまったく面白味がないだろう。
では、いったい何なのか。
それは注意の報告として保護者に連絡する際、その内容も含めて必ず生徒にあらかじめ伝えること(場合によっては曖昧にしたり連絡自体をやめたりすること)である。
もしかするとたいしたことないじゃないかと思われるかもしれないが、実はなかなか難しくもあるため、順を追って書いていきたい。
まず、注意の報告として保護者に連絡したほうがいいと判断したら、その前段階として生徒本人に確認を取る。
「今日、保護者に連絡して、この件を伝えるよ。できればその前に自分から伝えておいて」
これが決まり文句である。
突然保護者のスマホが鳴り、担任から注意に関する報告を受けたら、保護者は驚くし生徒も気まずい。
そのためあらかじめ生徒に伝え、できれば生徒の口から保護者に伝えておいてもらうことで、お互いに心構えができるのだ。
そのためにも保護者へ連絡することとその内容について、必ず生徒本人に確認を取るといいだろう。
なお、確認を取る際、特にルールに反する行為に該当するようなケースであれば、本人は連絡されてもしかたないという認識があるため、素直に「わかりました」と返答される。
しかしたまに生徒から「連絡しないでください」と言われるケースもある。
たとえば友人(恋人)間のトラブルなど、違反には該当しないような微妙な人間関係の問題は、本人のプライドやプライバシーにも関わってくるため、拒否されやすい。
その場合、わたしは決して一蹴せず、なぜ連絡してほしくないのか、どういった部分を連絡されると困るのか、理由を聞くようにしている。
詳細は後述するが、理由に納得できることは意外と多いものである。
だからといって安易に「じゃああなたの希望通り連絡はやめておくね」とすんなり受け入れることが正解ではない。
保護者に連絡する必要性を説明したうえで、
「〇〇の部分は詳しく伝えることをやめるけど、本人が詳しく伝えてほしくないと言っているから意志を尊重します、と伝えるよ」
などと落としどころを見つけるのである。
落としどころの内容はケースバイケースだが、いずれにしてもこちらが歩み寄る姿勢を見せれば、生徒も納得する場合が多いだろう。
保護者に連絡する際の前段階は、大抵、ここまでの流れで収束する。
ただ、稀ではあるが重要なこととして、次のようなケースも書いておきたい。
「死にたいです」
「家族(保護者)が苦痛です」
などの深刻な相談だと、打ち明けてくれた生徒から「絶対に保護者に連絡しないでください」と懇願されることがある。
先ほどと同じように理由を聞いて落としどころを見つけ、かいつまんで保護者に伝えることを提案しても、この手のケースは納得されにくい。
生徒はほんのすこしでも保護者に知られたくないのである。
さて、どうするか。
判断は教員によって大きく分かれる。
おそらく一定数の教員は保護者に連絡するだろう。
その理由は簡単だ。
教員は責任が取れないからである。
たとえばもし「死にたいです」と打ち明けてきた生徒について、そのこと(教員に打ち明けたという事実)がいずれ保護者に知られてしまったらどうなるか?
いや、それよりも、生徒が本当に行為に及んでしまったらどうなるか?
保護者は激怒して「なぜ教員は連絡しなかったのか」「隠蔽だ」「責任を取れ」などと言われてしまうかもしれない。
すると教員はなにも言い返せないかもしれない。
だからこそ一定数の教員は、定石として深刻な問題こそ責任を意識し、生徒よりも保護者を優先して、保護者に連絡するのである。
わたしは担任になりたてのころ、まじめで堅実なタイプの先輩教員から「教員はいかなるときも保護者を裏切ってはならない」と教えられたこともある。
しかしわたしはもう一方の行動を取る。
わたしは保護者に連絡しない。
深刻な相談をしてきた生徒から「絶対に保護者に連絡しないでください」と懇願され、その理由に納得できたら、わたしは連絡しないと約束する。
では、理由とはいったい何なのか。
生徒が連絡を拒むかどうか。
それは生徒と保護者の関係性がすべてであるといっても過言ではないとわたしは思っている。
保護者との関係性が良好で保護者に理解があれば、生徒はそこまで頑なに連絡を拒まない。
そのため「連絡しないでください」と懇願する生徒の背景には、保護者との関係性が悪く、保護者による精神的な圧力などが潜んでいることも少なくはないのである。
保護者には絶対に言えないようなことについて、勇気を振り絞って教員に打ち明けたのに、その教員からも裏切られてしまう生徒の気持ちを想像してほしい。
生徒は素直かつ繊細なので教員による「たった一度」の裏切りも許さない。
おそらく二度と信じてくれないだろう。
そして学校の先生は所詮こんなものかと見限ってしまうだろう。
教員としてこれほど悲しい出来事はない。
そもそもわたしは「保護者=すべてを伝えて最優先に尊重する存在」だととらえていない。
だからこそ、もし生徒から「死にたいです」と言われ、そのことがいずれ保護者に知られたり、生徒が本当に行為に及んだり、責任問題に発展したりするかもしれないと脅されても、わたしの判断は揺るがない。
(以下の記事でも触れている)
わたしはかつて保護者の前で明るく振る舞っている生徒の自殺願望や、優等生を装っている生徒の保護者に対する深い憎しみを、ひっそりと受け止め続けていたことがある。
また、すこし話は飛躍するが、保護者の強い意向を退けて生徒を保護者から引き離し、児相に保護してもらったこともある。
それ以外にも具体的には書けないがいくつかの経験があり、そのいずれにおいても、わたしはこの判断を一貫してきた。
わたしは保護者よりも生徒を優先する。
なぜなら、保護者の意向や未来の責任問題よりも、目の前にいる生徒との信頼関係を守ることが何よりも大切だからである。
わたしの判断が正解とは言えない。
現に相反する対応を取る教員も多く、場合によっては批判されることもあるだろうと覚悟している。
しかしそれらを踏まえたうえでも、わたしは注意を要する生徒と信頼関係を築くにあたり、保護者へ連絡する際に生徒を最優先するという姿勢について、これからも変えるつもりがないのである。
※おそらく年齢が低くなるほど事情は異なり、生徒を飛ばして保護者に連絡する機会も増えるだろう。今回はあくまでも高校教員のわたしが、高校生の対応に限った話として書いている。
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