多羽(オオバ)くんへの手紙 ─4─
貴代先生が教室にいることはほぼ無かったが、昼休みにはウチのクラスに戻ってきていた。
仲良し数人で集まってお昼を食べるグループがいくつもあり、貴代先生は日替わりでそれらのグループを巡っていた。
今日は私たちのグループへとやって来た。
お鈴と私、他2人の4人グループの番だ。
「上村さんやんな?ウチの近所の」
貴代先生が複数の地雷を踏みながらにこやかにお鈴に話し掛けた。
私は気が気ではなかったが、本人から聞いてもいないことを説明することもできず黙っていた。
「引っ越してん。今は小牧やで。」
お鈴はサラッと答えた。
そういう子だった。周りが気にしすぎていただけで「親が離婚して…お母さんが再婚して…云々」というような湿気など、そもそもなかったのである。
「あら、そうやったん。」
貴代先生も察したのかそういう気質なのかサラッと流し、私がホッと胸をなでおろしたその時だった。
「この子、多羽のこと好きやねんて。」
私の肩をポンポンしながらお鈴が言った。
全然興味なさそうだったのに何故今なんだろう?
「ありゃ!そうなん!弟に言うとくわな。」
この人たち善意のフリして面白がってるなと思ったが、驚き過ぎると心が凪になるようだ。
「言わんでいいよ」
そう言うのがやっとだった。
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ほとんどお鈴だろうが、噂はあっという間に広がった。
多羽とは関係なく元々私は野球が好きで、同じクラスの野球部の湯浅を「ライパチ」と呼んでいた。ライパチというのは「守備はライトで打順8番の期待されていない人」という侮蔑的な意味あいがあった。
そのライパチが今までのお返しとばかりに「今日、多羽試合出るで」とニヤニヤしながら教えてくれた。
「ダブルウィング頑張れよ」などとも言われた。ダブルウィングって何だろう?
羽か。多羽と羽田。上手いこと言うなぁと感心したものだ。
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今なら「ライトは肩の強い人しか出来ない大事なところなんだよ」とライパチに言えただろう。