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多羽(オオバ)くんへの手紙

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生涯青春病が書き散らかしています
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2024年5月の記事一覧

多羽(オオバ)くんへの手紙 ─11─

「アンタ、ちゃんと羽田さんにお返ししたん?もうホワイトデー過ぎてるで」 姉の貴代から言われるまで忘れていたわけではない。 オカンと姉ちゃんと+1。 身内の義理チョコにお返しなどはしないが、+1には何かした方がいいだろう、と考えてはいた。 クラスも違う柄本の隣の席のあの子。 好き嫌いに関係なくお返しするのが礼儀だと貴代には言われたが、 結局何も出来なかった。 好きも嫌いも、名前しか知らない相手にどう対応すれば良いのか分からないまま 礼儀知らずにまでなってしまった。

多羽(オオバ)くんへの手紙 ─12─

セーラー服の袖に腕を通す3回目の春。 真っ新でもなく スカートのお尻や上服の背中がこすれて少し光っていたりするけれど クリーニング帰りのパリッとした相棒が 「また1年付き合ってやるよ」と言っている。 肩先にヒラリと落ちて来た桜の花びらを 少し眺めてフッと吹いた。 ひらひら、ゆらゆらと風に舞ってどこかへ飛んでいく。 のんびりと正門をくぐると、クラス編成の貼り出してある窓の辺りが 生徒たちでごった返していた。 窓の外側に貼り出されている「○年○組 担任:○○」とそのクラス

多羽(オオバ)くんへの手紙 ─13─

その日の食卓は最初から不穏な空気が流れていた。 珍しく早く帰宅した父も一緒の夕飯。 何かの引っ掛かりで父と母が言い争いになった。    私がそんな言い方何時した?    したやないか。ネチネチと。 始まりは本当に些細なくだらないことだっただろう。  静かな海が次第に荒れて来て 小さかった波が大きくなって海鳴リ出す。 不安気な顔付きの伊織と賀子は箸が進んでいない。 私は平静を装い無言で食事を続けた。    「何やのよ!」 母の甲高い声と同時にほうれん草のよそわれ

多羽(オオバ)くんへの手紙 ─14─

新学年の始まりは、たいてい50音順の座席だ。 まずは隣の席、近くの席。同じ班。 そうやって徐々にクラスが出来上がっていく。 多羽の席は私の前方対角線上にあった。 私は教室の後ろ扉から近い席。 汗だくの多羽が席に着く。 始業前にグラウンドでサッカーをするために 野球部の多羽は奇特にも毎朝早くに登校していた。 朝起きるのがやっとの私とは真逆のタイプだ。 汗だくの背中に張り付いたカッターシャツ。 下敷きでパタパタと煽ぐ少し猫背の背中を見る。 私の朝のルーティン。 ─ 後に開