創作童話 「雨の空の上は晴れ」
「雨の空の上は晴れ」
ある雨の日のことです。
さっちゃんが窓の外をぼんやりとながめながらつぶやきました。
「毎日、雨ならいいのに」
さっちゃんは病気で足が悪くなり、歩けなくなってしまいました。
だから、外で元気に遊ぶことも出来ず、
「雨ならみんなも遊べないから、私と同じ」と思っていました。
その瞬間、さっちゃんは空の上を飛んでいました。
「きゃー。いったいどうなってるの?」と叫ぶとすぐに、
『恐がらなくても大丈夫!』と、どこからか声が聞こえてきました。
さっちゃんは車いすに乗ったまま、まるで遊園地のメリーゴーランドのように、周りの景色が次々と変わって行きました。
『ほら、あそこを見て!』
さっちゃんが見下ろすと大きな川の水があふれ、今にも橋が崩れ落ちそうになっています。
雨が降り続き、このままでは大変なことになってしまいます。
『ほら、毎日雨が降り続いたらよくないよね』
「うん」
すると次に見えて来たのは雨の空を見て、大きなため息をついているお爺さんでした。
「こんなに毎日、雨が降ってたら、畑の種まきが出来やしない。はて困ったものだ」
『ほら、毎日雨が降り続けたら、美味しい野菜も出来ないよ』
「うん」
どこからか子どものなく声が聞こえて来ました。
「わーん、お外で遊びたいよ。お日様が出ないと春に桜も咲かないってお婆ちゃんが言ってたよ」
『ほらね、さっちゃんもお庭の桜は大好きでしょ』
「うん」
『これでも毎日雨だったらいいなぁ、なんて思う?』
「ううん、思わない」
さっちゃんは自分のことしか考えていなかったことに気が付きました。
その瞬間、窓の外を見ている自分に戻りました。
「ああ、びっくりした。私、夢を見ていたみたい」
『あはは、夢なんかじゃないよ』
また、声が聞こえて来ました。
だけど部屋の中には誰も居ません。
「誰?どこにいるの?」
『君がいくら探したって僕のことは見つからないよ』
「じゃあ、どうして声が聞こえるの?」
『僕は声も出していないよ』
「でも聞こえるよ」
『それはね、テレパシーを使っているからさ』
「どうして私にテレパシーで話しかけているの?」
『それはね、君と話がしたかったからだよ』
「なんで、どうして?」
『ほら、それだよ!君はいつも、なんで、どうして?って考えているでしょ』
「うん、だって知りたいんだもの」
『だからさ、それがリクエストしったてことだよ』
「ふ~ん、そういうことか」
『君が一番知りたいことも、知っているよ』
「なんで、どうして知っているの?」
『それはね、いつも君が心の中でくり返しているからだよ』
「ドキッ!それは・・・」
『足のことでしょ。どうして私は歩けない体に生まれて来たんだろう?ってさ』
その言葉を聞くとさっちゃんは悲しくなりました。
ほんとうに毎日、「どうして、どうして」って思っていたからです。
さっちゃんがまだ小さなころ、ベットで寝ていると、
お母さんがさっちゃんの顔をのぞき込んで言いました。
「さっちゃんごめんね。元気な体に生んであげなくて」
お母さんの涙がさっちゃんのほっぺたにぽとりと落ちました。
「ああ、お母さんが泣いている、きっと私が悪いんだわ」
さっちゃんはそのまま、眠ったふりをしていました。
「お母さんが悪いんじゃないよ。だから泣かないで」
「お母さんが泣くと私まで悲しくなるから」
「私がお母さんを泣かせている。私なんか生まれて来なければ良かったんだ」
それからは、いつもさっちゃんはお母さんの前では笑っていました。
さっちゃんが笑うとお母さんも笑ってくれたから。
『やめてくれない。湿っぽい話は』
さっちゃんの心をすべて読み取ったのか、悲しみに浸っているさっちゃんにバシリと言いました。
『お母さんが悪い、私が悪いって花いちもんめじゃあるまいし』
『誰のせいでもないよ』
「でも、おばあちゃんが過去の行いが悪かったのかって、言ってたよ」
『ひえー、そんなこと信じているの?ふるっ!』
『おっと、ここは地球だった』
「ところであなたは何者?さっきから言いたいこと言ってるけど」
『あっ僕ね、君たちが最近言い出したパラレル宇宙っていうあれだよ』
「宇宙人なの?」
『ま、そういうことで一つヨロシク』
「地球ってそんなに遅れているの?」
『ま、いいんじゃないの、それでも』
「過去が原因じゃないの?」
『なんでそれ信じるの?そう思うことであきらめる?』
「じゃあ、なんで?」
「だからさ、言ってるでしょ!原因探すよりもっとすること、考えることない?』
『まったく、この星の人間っておかしいね。いつも真逆、反対のことを教えて来た』
「それって、どういうことなの?」
『原因を探そうとすること。過去に原因があると思っているってことさ』
「だってみんなそう思っているでしょ」
『過去なんてないよ。もっと言うなら未来もさ』
「過去も未来もないってこと?」
『そうさ、あるのは今、この瞬間だけさ』
「わかんな~い」
『あのさ、難しい話はこれくらいにしようよ。時間はストーリーを作るためにあるってことさ』
『そんなことより、今の自分に何が出来るかを考えたほうが、ずっといいと思うけどなぁ』
「今の私に出来ること?それはなんだろう!」
『君が好きなこと、誰かにほめられたこと、思い出してみて』
「私が好きなことは、絵を描くこと。ほめられたことは、物語を作った時かしら」
『それなら、それが君のツールになるよ』
「ツールってどういうこと?」
『それを使って誰かを励ましたり、応援出来るってことさ』
『そして、それが誰かの笑顔の種になるよ』
「それなら私にも出来るかもしれないわ」
「遠く離れた大好きなお友だちに絵本を描いてプレゼントしたの」
『どうだった?喜んでくれた?』
「うん、とってもね。さっちゃんの書く物語の一番のファンだって言ってくれたよ」
『よし、それで行こう!今っていうこの瞬間を原因探しに使わないで誰かの笑顔の為に使おうよ』
さっちゃんはなんだかとっても嬉しくなりました。
誰かが喜ぶと私も嬉しい。
私が嬉しいとお母さんが喜ぶ。
「お母さん、私を生んでくれてありがとう♡」
おしまい
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