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4月初め、京都に来た日のこと

4月初めのある日の朝、3月末まで一緒に働いた人と喫茶店に行った。
その人とは気が合って、休憩時間も一緒にご飯を食べ、よく話し、時にはタバコにも付いて行った(私はほとんど吸わない、吸えない)

私はこの約3か月間初めて派遣で、工場で働いた。
それまでライターとしてやってきたが、事情あっていったんお休みすることにし、たまたま「福井 求人」で検索して見つかったところで働くことになった。そこに書いてある番号に電話してみると、夜だったのにすぐに出てくれて、トントン決まってしまった。
まずは工場見学を、と、まずは2週間やってみて、やっぱり合わないな、向いてないのかな、あと1か月やってみて他の仕事を探そう、とそんなことも考えているうちに、あっという間に3か月間が経った。いろいろあったけど、体力が付いて、気の合う人にも出会えて、ひと山ふた山乗り越えて、本当にやってよかったと思えた。
3か月で辞めるつもりはなかったけど、派遣会社と工場の会社の都合でその場を離れることになった。

そうやって職場の最終日を迎えた日の晩、なんとなくまだ話したいなと思って、その気が合う人に連絡してみた。次の日の朝、その人が住む街でコーヒーを一緒に飲んだ。

その喫茶店に行くと、いろんな人がいて、県外から来たその人が少しでも楽しめる場所を知る一つのきっかけになったらいいなと思った。

私はよく工場の勤務時間帯が夕方からのときには、通勤前にここに寄って、おいしいコーヒーを飲んだ。最初に来たときは、福井市のカフェでよく会う人がおり、次には1人で本のあるスペースでゆっくりした。
そして、職場最終日には夜勤明けの朝に、モーニングを食べた。

生ハムとチーズのサンドにスペシャリティコーヒーが疲れた身体に染み入るほどおいしかった…!

こんなふうに過ごせた楽しくて心地よい時間を、その人とも共有できたらいいなと思って、このお店に連れて行った。

でも、なんだか話を聞いてるうち、楽しかったんだけど、まだまだ進行形の職場での問題について触れるうち、私はこの場からいったん離れないとなぁ…ってなんとなく思った。
それを聞いても、いろんなことを感じた。え?あの人がそんなことに?でも、私にはもう、どうしようもできないのだ。

彼と会えて話ができたのは、楽しかったけど、私はいったんここを離れないとな

三国神社に連れて行ったら、すごく喜んでくれた。
とても古い神社で、起源はどうやら平安時代とか。これまでのことに感謝して、これからのことに希望を込めた。
私がパンパンと手を叩いてお辞儀をするのを見て、そんなに大きな音を立てたら、願い事も叶いそうだね、と言ってくれた。
私にとっては、当然なこともちょっと珍しく見えていた。そんなことが、たった1か月一緒に過ごしたなかで、どんどん話せたその人とも実は別の世界からきたんだなということを少し感じた。

そう、職場には、私の知らない世界から来た人たちがたくさんいて、私は来た初日から出会う人たちのこれまでのこと、今のこと、いろんなことが気になって、目が離せなかった。
派遣社員、その会社の社員さん、さらに中国人実習生とみんな私が送ってきた人生とはまるで違っていて、もっともっと知りたいなと思っているうちに、いつの間にか退職になってしまった。
別の世界から来た人たちと、その気の合う人以外とはなかなか会話の糸口が見出せなくて、どうしてここに来て、どんなことを考えているの?そんなことを彼らのふとしたときに出てくる言葉や態度から、感じ取った。

私にとっていちばん興味深かったのは、中国人実習生だったかもしれない。
同じ職場の棟には、4人の男性がいて、皆それぞれが同じ中国人とは言えないくらい、個性があって、で、みんなそれぞれに素敵で、もっと知りたいと思うことに溢れていた。
最初、知り合う前に外側から彼らを眺めていたときはまだ、何もわからなかった。
勤務時間ギリギリにやってきて、やる気ないな、タバコ吸っているのか、顔色めちゃくちゃ悪いな、なんて思っていた。
でもこの子、なんだろう…少し物憂げな表情をしていて、どんなことを考えているのだろう…なんて思ったり、この人、どこか虚な顔をしていて何か気になるな、なんてその人たちを見ていて思った。
4人いるうちの3人はタバコを吸っていて、2人はちょっと近づいて話しただけで、マスク越しにすらタバコの匂いがした。よほど吸うんだな、と思っていたけど、まさか仕事になかなか戻ってこないのは、3本も吸っていたせいだとは思わなかった。遅いなとは思ってずっとヤキモキして、中国語に翻訳までして、仕事に戻ってきてほしいと伝えようと思いながら、ずっと伝えることができなかった。

私は、その退職日の翌朝、その気の合う人から聞いて知ったのだった。
そのタバコをよく吸う中国人とは、同じ班だった。
近くにいると、ずっと一緒にいると、逆に近すぎて、だんだん言えなくなってしまう。

2月には京都に一泊二日だけだったけど、行ったものの、3月にはどこにも行かず、行けず、だいたいずっと福井市内にいて、どこかそんなふうに悶々とした気持ちも抱えていた。
3月末で退職したら、4月入ったら京都に行こうとは思っていた。でももしかしたら、仕事の連絡が入ってくれるかもしれない、と期待して決めきれなかった。

4月初めのある日の朝、その気の合う人から職場の新たな問題の話を聞いたことが、福井を出る引き金になった。

なんとなく朝起きたときから、今日京都行こう!と思ったものの、誘った手前、すぐには行けなかった。
お昼過ぎ、三国神社を参拝した後に別れて自宅に戻り、荷造りをパッと済ませて駅に向かった。
何時ごろ京都に着くのかなと考えると、普通電車でこのまま行けば、夜だなと思い、敦賀駅で特急に乗り換えた。

思ったよりも人は多かった。
みんな割と京都に降りた。
ビジネスの人も多かったが、もしかしたら、私と同じように桜を見に来ているのかもしれない。

18時前に着いた。残念ながら、kursasu Kyotoのカフェ利用は終わっていた。私は電車の中で予約しておいた五条のホテルに向かうことにした。

簡易キッチン付きのホテルを探したら5000円代であった。後からこの付近の宿をGoogleマップ上で見ていると、そういう自炊できる施設が五条周辺には集まっているらしい。
私は旅先でなぜかご飯を炊いて食べたくなっている。暮らすように旅するのが好きで、ここ数年アパートメントホテルを選ぶことが多い。
旅先でホテルにあるちょっと素敵なカップやお皿、家具に囲まれて、ちょっとやってみたい暮らしというものを疑似体験することが好きだ。

初日に泊まったところは、食器といい、調理器具といい、いろいろ揃っていたし、快適だった。
だが、その分、ホテル感は抜けていなくて、次の日は別のところに泊まろうと思った。

私が求めているものは、どこか友達の家に泊まったときのような感じでもあり、その土地で一人暮らししてみたときの感じでもあるのかもしれない。
にしても、旅先でよく寝れたのは、幸いで、なんとなくよく寝付けないということもあるのに、今回は初日のホテルも翌日以降に泊まった宿でもよく寝れた。1日を除いて、他の日はほぼほぼぐっすりだった。その1日はつい、気になってしまったことがあった。本当にまるで暮らしているかのような、第3の家を経験しているかのような素晴らしい日々だった。

2日目以降に泊まった宿はちょうどよかった。
ロビーで受付してくれた外国人の男性は、心地よく話をしてくれたし、キルギス出身で、子どもの頃からこの京都に来ることが夢だったという話が聞けたことは本当によかった。そんな取り止めのないようにみえるスタッフの横顔が、泊まる人間にとって、そこで過ごす人間にとって、安心材料となり、ほどよい気持ちになる、ということをたぶん、旅行業界の人はほとんど知らないかもしれない。
スタッフの素性をそんなにたくさん知らなくていい。この立ち話で初対面で知れる、話せることで十分なのだ。
それだけで安心できて、ここで普通に過ごせる材料になる。その理由は自分でもよくわからない。
やっぱり、ホテルのお金を稼ぎに来ただけの素性のわからない人よりも、そんなふうに日本が好きでやってきて、たまたまだろうし、その人だってお金が必要でここにいるだろうけど、そんな背景がいいなって思った。

さてと、つい長くなってしまったけど

初日の夜、ホテルに着いてからご飯を食べて

いつも旅先でお米が炊ける瞬間に感動する。

その後に見た夜桜は本当にきれいだった。
私、ここにめちゃいいタイミングで来れたなと1人テンションが上がった。

ホルモン焼きのお店の近くに来たときは、肉の焼けるいい匂いもしていて、最高。たまらん、と赤提灯に書いてあったけど、まさにそうだった。

日が沈む前に京都に着けて
ほどよく快適な自炊できるホテルに巡り会えて
そこから歩いて行けるところに、夜桜が見られて
京都滞在は、初日から最高だった。

なぜか、ホテルで荷物を並べて眺めることに何度かハマった。

あまりきれいとは言えないが、ごちゃごちゃしているが、毎日の荷物整理をあえてこうして楽しんでみる、写真に撮ってみたりもする。新しい発見だった。
行った宿はどれもベッドが2つあったので、もう一つのベッドに自分の荷物を並べた。ホテルの部屋はほとんどが2人用だ。シングル利用でこんな活用もできる。荷造りと荷物整理に最適だった。

私は京都に来てもしばらくは、福井であったことを引きずっていた。
でも少しずつフェイドアウトしていって、でも京都で目の前に出てくる美しい桜やらいろんなものに出会っているうちに、もっと面白いことに出会ってしまっていた。
福井に帰ってきてから、まだその余韻は続いていて、また京都に行きたくなっている。

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